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第六話 浮気なんかじゃない
scene16 言い訳
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ー透人ー
そうやって毎日のように遠巻きに桃瀬さんを見ていたら、ある時急に姿を見かけなくなった。
休みなのかと思っていたけれど、さすがに一週間姿を見かけないと、心配になってくる。
辞めてしまったのか。それともまさか、俺が見ていることに気付いた?
居ても立っても居られなくなり、ある日ついに、桃瀬さんの働くカフェへ行ってみた。
「いらっしゃいませ」
カウンターの中にいたのは大学生くらいのアルバイトの子が一人で、狭い店内を見回してみても、桃瀬さんの姿は見えない。
「あの」
勇気を出して、バイトの子に声をかけた。
「ここに、桃瀬さんって方いますよね?」
「ああ……しばらく休んでますよ」
「え?」
「体調が悪いとか。……お知り合いですか?」
不審そうな顔をされ、慌ててお礼を言って店を出た。
体調が悪い?一体、どうしたんだろう。
その時不意に、脳裏に浮かんだ。
細い腕に貼られていた、採血後の絆創膏。慌てたような桃瀬さんの表情。
スマホを出し、あんなに押すのをためらっていた桃瀬さんの番号をタップして耳に当てた。
心臓が嫌な感じに脈打つ。……繋がらない。
二度、三度とかけても繋がらず、俺は一度退勤したのに再び会社に戻った。
ちょうど外回りから戻ったところだった渡辺さんの元へ駆け寄る。
「あれ、どしたの名木ちゃん」
「あの、桃瀬さんが……っ」
「え、桃瀬?」
「電話繋がらなくて、仕事をずっと休んでるらしくて」
ああ、と渡辺さんは面倒くさそうに頭を掻き、足を組んだ
「桃瀬ね。あいつ、昔からよく体壊すからなあ」
「大丈夫なんですか?」
「さあ……気になるなら家行ってみれば?」
「え?」
ちょっと待って、と渡辺さんは自分のスマホを出すと、電話帳を見ながら付箋にメモして俺にくれた。
「引っ越してなければ、ここだよ」
「行って良いんでしょうか、俺」
「気になるんでしょ?顔色悪いよ、名木ちゃん」
行っておいでと渡辺さんに後押しされ、お礼を言って会社を出た。
電車に乗り、慶ちゃんに『友達の見舞いに行ってくるので遅くなります』と、メッセージを打った。
……嘘じゃない。これは、嘘じゃない。罪悪感なんか感じるな。俺はただ、桃瀬さんが心配なだけだ。
これは、浮気なんかじゃない。
そうやって毎日のように遠巻きに桃瀬さんを見ていたら、ある時急に姿を見かけなくなった。
休みなのかと思っていたけれど、さすがに一週間姿を見かけないと、心配になってくる。
辞めてしまったのか。それともまさか、俺が見ていることに気付いた?
居ても立っても居られなくなり、ある日ついに、桃瀬さんの働くカフェへ行ってみた。
「いらっしゃいませ」
カウンターの中にいたのは大学生くらいのアルバイトの子が一人で、狭い店内を見回してみても、桃瀬さんの姿は見えない。
「あの」
勇気を出して、バイトの子に声をかけた。
「ここに、桃瀬さんって方いますよね?」
「ああ……しばらく休んでますよ」
「え?」
「体調が悪いとか。……お知り合いですか?」
不審そうな顔をされ、慌ててお礼を言って店を出た。
体調が悪い?一体、どうしたんだろう。
その時不意に、脳裏に浮かんだ。
細い腕に貼られていた、採血後の絆創膏。慌てたような桃瀬さんの表情。
スマホを出し、あんなに押すのをためらっていた桃瀬さんの番号をタップして耳に当てた。
心臓が嫌な感じに脈打つ。……繋がらない。
二度、三度とかけても繋がらず、俺は一度退勤したのに再び会社に戻った。
ちょうど外回りから戻ったところだった渡辺さんの元へ駆け寄る。
「あれ、どしたの名木ちゃん」
「あの、桃瀬さんが……っ」
「え、桃瀬?」
「電話繋がらなくて、仕事をずっと休んでるらしくて」
ああ、と渡辺さんは面倒くさそうに頭を掻き、足を組んだ
「桃瀬ね。あいつ、昔からよく体壊すからなあ」
「大丈夫なんですか?」
「さあ……気になるなら家行ってみれば?」
「え?」
ちょっと待って、と渡辺さんは自分のスマホを出すと、電話帳を見ながら付箋にメモして俺にくれた。
「引っ越してなければ、ここだよ」
「行って良いんでしょうか、俺」
「気になるんでしょ?顔色悪いよ、名木ちゃん」
行っておいでと渡辺さんに後押しされ、お礼を言って会社を出た。
電車に乗り、慶ちゃんに『友達の見舞いに行ってくるので遅くなります』と、メッセージを打った。
……嘘じゃない。これは、嘘じゃない。罪悪感なんか感じるな。俺はただ、桃瀬さんが心配なだけだ。
これは、浮気なんかじゃない。
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