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第八話 恋に臆病になる理由
scene19 男
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ー透人ー
「桃瀬さん……っ」
渡辺さんとの通話を終え、キッチンでうずくまったままの桃瀬さんの側に寄る。
「立てますか?ベッドに行きましょう」
「……っ」
桃瀬さんは目をキツく瞑ったまま、首を横に振る。
「どうしよう……」
ーガチャン。
「?!」
心臓が跳ね上がった。
どうして玄関の鍵が?オートロックのはずなのに!
扉が開く気配がする。俺は反射的に立ち上がった。
「誰……?!」
廊下に出る。髪の毛をきっちりセットし、明らかにどこかのブランド物だと分かるスーツを着こなした背の高い男が、俺を見て眉を顰めた。
「あんた?渡辺先輩の後輩って」
渡辺先輩、と言われて、さっき電話した渡辺さんの顔が思い浮かぶまでに数秒要した。
「……誰だよ、あんた」
「どけ」
肩を押され、たたらを踏む。男は、朔也!と部屋の中へ向かって桃瀬さんの名前を呼んだ。
「ちょ、待てよ!」
男の背中を追う。男はキッチンへ目をやると、倒れている桃瀬さんに気が付いて腰を落とした。
「おい、朔也」
「……っ、雅孝……?」
顔を上げた桃瀬さんが、男に気付いて驚いた表情を浮かべる。
……マサタカ?
名前を知ってるってことは、桃瀬さんの知り合いなのか。
「苦しいのか」
雅孝と呼ばれた男が、桃瀬さんに向かって低い声で問いかける。
その直後だった。
ずっとうずくまって荒い呼吸を繰り返していた桃瀬さんが、突然胸を押さえ、きつく眉間に皺を寄せた。
「……っ!!」
「桃瀬さん?!」
駆け寄ろうとしたら、阻むように男に突き飛ばされた。
「いっ……!」
壁に背中を打ち付ける。
「邪魔だ。どいてろ」
男は低い声で吐き捨て、迷うことなくシンクに放られていた薬袋を手に取って逆さまに振った。落ちて出てきた薬のシートから錠剤を手に出し、コップに水を溜めて桃瀬さんの側にしゃがむ。
「飲め」
「……っ、……っ!」
桃瀬さんはますますキツく胸元を握りしめ苦しそうにするばかりで、とても薬を飲めそうな様子じゃない。
男は小さく舌打ちすると、躊躇うことなく錠剤を自分の口に放り込んだ。
コップの水を口に含み、桃瀬さんを抱き起す。
男は口移しで、桃瀬さんに薬を飲ませた。
「……」
呆然としてしまった。
男の一連の動作は、明らかに慣れたものだったから。
口移しで薬を飲まされた桃瀬さんの表情が、徐々に弛緩していく。
男は、すっと横抱きに桃瀬さんを抱き上げると、呆然として立ちつくしていた俺を睨んだ。
「あとは俺が看るから、あんたは帰れ」
「でも……っ」
「帰れ」
有無を言わさない口調に、従うしかなかった。
鞄を取り、桃瀬さんの部屋から出る。背後でオートロックが閉まる音がした。
ショックだった。
あんなに苦しんでる桃瀬さんに何してあげられなかったことも、見知らぬ男が明らかに桃瀬さんの扱いに慣れていたことも。
キスの仕方や、横抱きに抱き上げられた時の桃瀬さんの安心し切った表情も、全部。
俺は、桃瀬さんの事を何も知らない。
「桃瀬さん……っ」
渡辺さんとの通話を終え、キッチンでうずくまったままの桃瀬さんの側に寄る。
「立てますか?ベッドに行きましょう」
「……っ」
桃瀬さんは目をキツく瞑ったまま、首を横に振る。
「どうしよう……」
ーガチャン。
「?!」
心臓が跳ね上がった。
どうして玄関の鍵が?オートロックのはずなのに!
扉が開く気配がする。俺は反射的に立ち上がった。
「誰……?!」
廊下に出る。髪の毛をきっちりセットし、明らかにどこかのブランド物だと分かるスーツを着こなした背の高い男が、俺を見て眉を顰めた。
「あんた?渡辺先輩の後輩って」
渡辺先輩、と言われて、さっき電話した渡辺さんの顔が思い浮かぶまでに数秒要した。
「……誰だよ、あんた」
「どけ」
肩を押され、たたらを踏む。男は、朔也!と部屋の中へ向かって桃瀬さんの名前を呼んだ。
「ちょ、待てよ!」
男の背中を追う。男はキッチンへ目をやると、倒れている桃瀬さんに気が付いて腰を落とした。
「おい、朔也」
「……っ、雅孝……?」
顔を上げた桃瀬さんが、男に気付いて驚いた表情を浮かべる。
……マサタカ?
名前を知ってるってことは、桃瀬さんの知り合いなのか。
「苦しいのか」
雅孝と呼ばれた男が、桃瀬さんに向かって低い声で問いかける。
その直後だった。
ずっとうずくまって荒い呼吸を繰り返していた桃瀬さんが、突然胸を押さえ、きつく眉間に皺を寄せた。
「……っ!!」
「桃瀬さん?!」
駆け寄ろうとしたら、阻むように男に突き飛ばされた。
「いっ……!」
壁に背中を打ち付ける。
「邪魔だ。どいてろ」
男は低い声で吐き捨て、迷うことなくシンクに放られていた薬袋を手に取って逆さまに振った。落ちて出てきた薬のシートから錠剤を手に出し、コップに水を溜めて桃瀬さんの側にしゃがむ。
「飲め」
「……っ、……っ!」
桃瀬さんはますますキツく胸元を握りしめ苦しそうにするばかりで、とても薬を飲めそうな様子じゃない。
男は小さく舌打ちすると、躊躇うことなく錠剤を自分の口に放り込んだ。
コップの水を口に含み、桃瀬さんを抱き起す。
男は口移しで、桃瀬さんに薬を飲ませた。
「……」
呆然としてしまった。
男の一連の動作は、明らかに慣れたものだったから。
口移しで薬を飲まされた桃瀬さんの表情が、徐々に弛緩していく。
男は、すっと横抱きに桃瀬さんを抱き上げると、呆然として立ちつくしていた俺を睨んだ。
「あとは俺が看るから、あんたは帰れ」
「でも……っ」
「帰れ」
有無を言わさない口調に、従うしかなかった。
鞄を取り、桃瀬さんの部屋から出る。背後でオートロックが閉まる音がした。
ショックだった。
あんなに苦しんでる桃瀬さんに何してあげられなかったことも、見知らぬ男が明らかに桃瀬さんの扱いに慣れていたことも。
キスの仕方や、横抱きに抱き上げられた時の桃瀬さんの安心し切った表情も、全部。
俺は、桃瀬さんの事を何も知らない。
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