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第九話 壊れていく
scene21 上の空
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ー透人ー
ショックな気持ちを抱えたまま部屋に帰ってくると、ちょうどシャワーを終えて歯を磨いていた慶ちゃんと鉢合わせた。
「お帰り。友達の見舞いは済んだの?」
「……ただいま」
目も合わせずにリビングへ向かい、鞄を床に放ってソファへ沈み込む。
脳裏にまだ焼き付いている、マサタカと呼ばれた男と、桃瀬さんのキスシーン。
もちろんあれは薬を飲ませるため、咄嗟に口移しをしたに過ぎない。
分かっている。だけど、あれはまるで……。
「どうかしたの」
歯磨きを終えた慶ちゃんが隣に座る。
「そんなに、友達の具合悪い?」
「……うん、そうだね。すっごく悪いみたい……」
「風邪ひいたとかじゃなく?」
「……分からない。」
力なく答える。
そう、分らないんだ。
当たり前だけど、俺は桃瀬さんについて、何も知らない。
まさか心臓が悪かったなんて。
あんなにたくさん、薬を飲んでいたなんて。
別れたと言っていたはずの彼氏が、まだ合鍵を持っていたなんて。
「……シャワーしてくる」
立ち上がり、スーツのジャケットだけハンガーにかけて俺は風呂場へ入った。
✴︎✴︎✴︎
様子のおかしい透人の背中を見送り、宮城慶一はテレビをつけようと、チャンネルに手を伸ばした。
足元に、透人が放った鞄が当たって転がる。
ため息をつきながら倒れた鞄を起こすと、何かが床に落ちた。
「……何だこれ」
拾い上げてみると、どこかのカフェの紙スリーブだった。
どうしてこんなものを?
不思議に思って何気なく裏返すと、目に飛び込んできたのは『なぎちゃんがんばって!ももせ』というメッセージと、電話番号。
「誰だ、ももせ、って……」
怪訝に思いながら、ここ最近の透人の様子を思い返す。
やたらと多い、遅くなるという連絡。
見舞いから帰ってきてからの、どこか沈んだ表情。
脳裏に、嫌な予感が閃いた。
慶一は咄嗟に紙スリーブをスウェットのポケットにしまうと、透人がまだシャワーしている物音を確認して、自室へ姿を消した。
ショックな気持ちを抱えたまま部屋に帰ってくると、ちょうどシャワーを終えて歯を磨いていた慶ちゃんと鉢合わせた。
「お帰り。友達の見舞いは済んだの?」
「……ただいま」
目も合わせずにリビングへ向かい、鞄を床に放ってソファへ沈み込む。
脳裏にまだ焼き付いている、マサタカと呼ばれた男と、桃瀬さんのキスシーン。
もちろんあれは薬を飲ませるため、咄嗟に口移しをしたに過ぎない。
分かっている。だけど、あれはまるで……。
「どうかしたの」
歯磨きを終えた慶ちゃんが隣に座る。
「そんなに、友達の具合悪い?」
「……うん、そうだね。すっごく悪いみたい……」
「風邪ひいたとかじゃなく?」
「……分からない。」
力なく答える。
そう、分らないんだ。
当たり前だけど、俺は桃瀬さんについて、何も知らない。
まさか心臓が悪かったなんて。
あんなにたくさん、薬を飲んでいたなんて。
別れたと言っていたはずの彼氏が、まだ合鍵を持っていたなんて。
「……シャワーしてくる」
立ち上がり、スーツのジャケットだけハンガーにかけて俺は風呂場へ入った。
✴︎✴︎✴︎
様子のおかしい透人の背中を見送り、宮城慶一はテレビをつけようと、チャンネルに手を伸ばした。
足元に、透人が放った鞄が当たって転がる。
ため息をつきながら倒れた鞄を起こすと、何かが床に落ちた。
「……何だこれ」
拾い上げてみると、どこかのカフェの紙スリーブだった。
どうしてこんなものを?
不思議に思って何気なく裏返すと、目に飛び込んできたのは『なぎちゃんがんばって!ももせ』というメッセージと、電話番号。
「誰だ、ももせ、って……」
怪訝に思いながら、ここ最近の透人の様子を思い返す。
やたらと多い、遅くなるという連絡。
見舞いから帰ってきてからの、どこか沈んだ表情。
脳裏に、嫌な予感が閃いた。
慶一は咄嗟に紙スリーブをスウェットのポケットにしまうと、透人がまだシャワーしている物音を確認して、自室へ姿を消した。
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