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第十二話 たった一瞬でもいい
scene29 電話
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ー朔也ー
雨に濡れて湿った服を脱ぎ、タンクトップの上からネイビーのカーディガンを緩く羽織ってソファに沈み込んだ。
窓を叩く雨音は激しさを増すばかりで、遠くから雷の音まで聞こえ始める。部屋の中の湿度が高いのか、気持ち悪くなってきて体を横たえた。
「……?」
ポケットの中で、マナーモードにしたままだったスマホが震えた。
寝転がったまま手に取って画面を確認し、固まった。
「名木ちゃん……?」
咄嗟に出ようとして、思い止まった。
だめだ。
もう何も、俺があの子に言える事なんてないんだから。
頼むから切れてくれと願いながら、かといって拒否する勇気も出ずに震える画面を見続けた。しかし、いつまで経っても切れる気配はない。
結局諦めて、通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
『……』
何も聞こえてこない。電波が悪いのかと思い、画面を見た。しかしそういうわけでもない。
「名木ちゃん?どうしたの」
呼びかけると、微かな雨音に混じって洟を啜るような音が聞こえてきた。
「泣いてるの?」
返事がない。聞こえるのは雨音と、だんだんと近づいてくる雷の音だけ。
……どうして、電話から雨と雷の音が聞こえるんだ?
「名木ちゃん、どこにいるの?」
『……っ、外……』
「外ってどこ?」
まさか。
起き上がって窓の側に寄り、カーテンを開けた。下を見下ろす。
エントランス近くの垣根の影に、うずくまる人影を見つけた。
「何やってんだよ……!」
通話を切り、スマホをテーブルに放り出す。傘を引っ掴んで玄関を出た。エレベーターに乗り、一階のボタンを押す。
下に着くと、扉が開くのももどかしく手で押し開けるようにしてエレベーターを降りた。
「名木ちゃん!」
傘を差し、外へ飛び出る。途端に激しい雨が傘に叩きつけてきた。
「ばか、何してるの!」
今更傘を差しかけても既に手遅れなくらい、名木ちゃんは頭のてっぺんからびしょ濡れになっていた。
「……ごめんなさい」
うずくまっていた名木ちゃんが、涙なのか雨のせいか分からないくらいに濡れた顔をあげる。
「会いにきちゃいけないって、思ったんだけど」
「もういいから、部屋おいで。風邪引いちゃうよ」
「でも……」
「いいから」
名木ちゃんを無理やり立たせ、マンションのエントランスへ戻った。
雨に濡れて湿った服を脱ぎ、タンクトップの上からネイビーのカーディガンを緩く羽織ってソファに沈み込んだ。
窓を叩く雨音は激しさを増すばかりで、遠くから雷の音まで聞こえ始める。部屋の中の湿度が高いのか、気持ち悪くなってきて体を横たえた。
「……?」
ポケットの中で、マナーモードにしたままだったスマホが震えた。
寝転がったまま手に取って画面を確認し、固まった。
「名木ちゃん……?」
咄嗟に出ようとして、思い止まった。
だめだ。
もう何も、俺があの子に言える事なんてないんだから。
頼むから切れてくれと願いながら、かといって拒否する勇気も出ずに震える画面を見続けた。しかし、いつまで経っても切れる気配はない。
結局諦めて、通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
『……』
何も聞こえてこない。電波が悪いのかと思い、画面を見た。しかしそういうわけでもない。
「名木ちゃん?どうしたの」
呼びかけると、微かな雨音に混じって洟を啜るような音が聞こえてきた。
「泣いてるの?」
返事がない。聞こえるのは雨音と、だんだんと近づいてくる雷の音だけ。
……どうして、電話から雨と雷の音が聞こえるんだ?
「名木ちゃん、どこにいるの?」
『……っ、外……』
「外ってどこ?」
まさか。
起き上がって窓の側に寄り、カーテンを開けた。下を見下ろす。
エントランス近くの垣根の影に、うずくまる人影を見つけた。
「何やってんだよ……!」
通話を切り、スマホをテーブルに放り出す。傘を引っ掴んで玄関を出た。エレベーターに乗り、一階のボタンを押す。
下に着くと、扉が開くのももどかしく手で押し開けるようにしてエレベーターを降りた。
「名木ちゃん!」
傘を差し、外へ飛び出る。途端に激しい雨が傘に叩きつけてきた。
「ばか、何してるの!」
今更傘を差しかけても既に手遅れなくらい、名木ちゃんは頭のてっぺんからびしょ濡れになっていた。
「……ごめんなさい」
うずくまっていた名木ちゃんが、涙なのか雨のせいか分からないくらいに濡れた顔をあげる。
「会いにきちゃいけないって、思ったんだけど」
「もういいから、部屋おいで。風邪引いちゃうよ」
「でも……」
「いいから」
名木ちゃんを無理やり立たせ、マンションのエントランスへ戻った。
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