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大和の章

オオモノヌシ 二十五

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ニギハヤヒらが三輪山を発つ頃、タカヒコは浅い眠りの中にいた。夢の中で自分と同じ年頃の出雲造りの勾玉を首にかけた男が微笑みかけてきた。その男に話かけようとした瞬間、タカマヒコにゆり起こされた。

「タカヒコ様、起きてください。もう東の空が赤くなってきました。」

タカヒコは、慌てて起き上がった。夢の中でタカマヒコを誰かと混同したのかと思いつつ、タカマヒコに話しかけた。

「日が中天に上がる前に三輪山に入り大物主さまに会わねばならない。目と鼻の先ではあるが邪魔する者達がいるだろうしな。」

「そうですよ、タカヒコ様。ところで私に一計があります。タカヒコ様の衣服と私の山人の衣装を取り替えましょう。」

「それは、もし万が一のときに私の身代わりになるということか?」

「そうです。私達の行動も既に見破られているかもしれません。願わくば我が一命をタカヒコ様のためにお使いください。」

「なんと!」

「私はどこまでいっても下賎の身。もし、引き立てていただいてもいろいろと難しいことがございましょう。」

「・・・・そなたに死なれるようなことがあれば妹はどうするのだ?」

「それだけが心残りにございます。タカヒコ様が無事大物主になられ、もし私が死ぬようなことになった場合、一つだけお願いがあります。」

「願い?」

「はい、我が妹のカヤナルミをタカヒコ様の宮にお入れくださいませ」

「わかった。万が一そのようなことになったら、カヤナルミの事は引き受けた。」

「うれしゅうございます。私もこれで命を惜しまずタカヒコ様のためにつくしましょう」

と、二人が語らっているところに、周囲に布陣しているトミビコの使者がやってきた。トミビコの配下のものたちもニギハヤヒの出発を察知したのだ。

すぐさま行動に移らねばなるまい。タカヒコとタカマヒコは衣服を取り替え、下山をはじめた。こちらは山の戦闘になれたものたちといっても、タカヒコらは総勢10名。戦闘員として教育を受けたものはほとんど居ない。

「さあ、行きましょうタカヒコ様。戦いの役には立たないかも知れませんが、私は山育ち、迷わず三輪山の正面までおつれしましょう」

と、カヤナルミを背負い籠に背負ったタカマヒコが促した。まだ光の届かぬ山道はほの暗い。タカヒコは昨夜トミビコから譲りうけた金鵄の剣を握りしめ立ちあがった。タカマヒコはカヤナルミを背負っているというのに俊敏に足元の見えにくい穴師山の山道を降っていく。

タカヒコやトミビコの配下の者はなんとかタカマヒコの早足についていってるというありさまだ。タカマヒコは時折、立ち止まり反対側から上がってくる物音がしないかどうか確認しながら順調に降っている。しばらく狭くて急な獣道を通ると広い道に出た。どうやら穴師山の麓に近いところらしい。案外と山道は整備されているのに気が付いたタカヒコが、トミビコの配下のものに問うた。

「この道は獣道とは呼べないくらい広い道だね。」

「この道は木津川から物資を運ぶ道です。布留のあたりから穴師山の西側を巡って三輪山まで一本道です。もうしばらく降ると厩もあります。」

「厩?馬も通れるのかい?」

「勿論です。途中馬が越えるのが無理なところが何箇所かありますが、そこには厩があって人足もおります。」

「なるほど、出雲の加茂のようなところだな。そこで馬に乗って降れば早いかな?」

「このままこの道を通るなら、はやいでしょうが、待ち伏せをされている可能性も高いですから」

「うむ」

「タカヒコ様心配いらないよ、もう少し降ったら横道に入るから。トミビコさんたちと合流して都合の良い東の方角にいきましょう。」

と、タカマヒコは振りかえって叫んだ。

そのまましばらく広い道を早足でかけおりると、下の方から人が登ってくる気配がしてきた。タカマヒコは道に寝そべり地面に耳をつけた。


「まずい、かなりの大人数が近づいてきます。」

その声を聞いた途端に背負い籠の中にいたカヤナルミはそこから飛び出すやいなや近くにあった高い木の上にのぼった。

「あああっ兵だよ。お兄ちゃん」

「タカヒコ様、ここから、横道に入りましょう」

と、タカマヒコは獣道を指差した。タカヒコたちは大慌てで横道に入った。少しばかり入ったところで、身を隠すのにちょうど良い高さが1メートルほどの岩座をみつけ、タカヒコとタカマヒコたち数人はその下に潜りこんだ。入り切れない者たちは先に進んでトミビコたちと先に合流することになった。ここからなら広い道も見渡せる。兵達が通りすぎたら動きだすためにも都合が良い。


かなりの兵数だ。およそ20名以上はいるだろう。タカマヒコは先頭を行く男に気が付いた。

「ヤタ?」

「何だ、顔見知りなのか?」

「母の1番下の弟です。」

「つまり叔父ということだな?」

「あんな奴、叔父でも何でもない」

と、タカマヒコが目に涙をためながらヤタの方を睨みつけた。
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