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大和の章

オオモノヌシ 三十九

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「オオナンジさま、それは彼の大陸の英雄、蜀漢国の宰相諸葛孔明が発明したという『木牛竜馬』を改良したもので大物主さまが8本の槍を矢の如く同時に放つことができるので、『ヤマタノオロチ』と名付けた戦車だそうです。振れ込みでは山道を馬以上の速度で下ることができ、口からは8本の槍を一度に発射できるということです。」

「何だと!これが噂に聞く木牛流馬なのか!!!どうしてここに?」

大物主の宮に仕えている文官らしき男が口を挟んだ。

「先年亡くなられた伊予のオオヤマツミ様からの貢物です。20年ほど前に大陸の呉の国が滅ぶ時に、筑紫に移り住んだ呉国の金属職人がおりまして、この男の一族は元は蜀の国で典曹人(注)という役目をしていたそうなのですが、蜀が滅び、呉へ移住し、また呉国が滅び大陸から流れてきたと。呉の国でも木牛流馬を作ろうとしていたらしく、これはその職人が筑紫島に上陸した後、豊の国の香春岳で組み上げたものだそうです。倭国には、まだこれ一体しかない戦闘用の戦車です。豊の国が戦乱に巻き込まれた時、オオヤマツミ様がこの典曹人を狗奴国に賓客として迎えさせたそうです。その仲立ちのお礼としてこの戦車を手に入れられたそうなのですが、ご存知の通りオオヤマツミは瀬戸内水軍の王。戦車は必要ないということで、大物主様に献上されたのです。」

「なっなんと!しかし、このような大きな槍が矢のように飛ばせるのか?」

オオナンジが、蛇の頭の部分を覗くと、「床弩」がすえつけられていた。「床弩」というのはは、簡単に言ってしまえば、特大型のアーチェリーのことだ。弦が引っ掛けられている木の棒を叩くと、棒が引っ込み、弦が槍を発射する形式になっている。

「一度、ナガスネヒコさまが試射致しましたところ、一撃で大木を打ち砕きましたが、」

「おおおっそれは心強いではないか!」

「そ、それが・・・」

「壊れているのか?」

「いえ、」

「はっきりせん、奴だな!」

「ナガスネヒコ様の膂力でないと、弩の弦が引けないのです」

「はっ?何人か束になって引けばよいではないか」

「一人しか発射口には、入れませぬ。最初は引き絞った状態を何人かで合力すれば発射準備はできますが・・・・。」

「つまり、一度出撃するとニ回目の発射はできぬということか」

「それに、前回動かしてから既に5年以上たっておりますので、以前のように動くかどうかもわかりません。」

「5年も弦の張力が残っておるものか?」

「それは大丈夫でしょう。5年前の試射のときは10年以上たっておりましたが発射できました。」

「まあ、いずれにしても一度しか発射できぬのか。。。。。」

「良いではありませんか、オオナンジ様。このような戦車は脅しとしても十分利用できます。」

と、その様子を傍らでみていたタカヒコが言った。オオナンジはそれに頷きながらも、エシキに向かって聞いた。

「しかし、このような大きな戦車はどうやって動かすのだ?エシキは動かし方が解かっているのか?」

「いえ、それが・・・。前回、ニギハヤヒ殿も一緒に動かそうとしたのですが、結局人力で押すしかしようがありませんでした。ニギハヤヒ様は木牛流馬と同じ原理なら搭乗したままで動かせるはずだとおっしゃって、色々試してみたのですが、どうも動いてくれません。」

「なんと、不便な戦車よのう」

「ここからイリヒコらの軍勢に向かっていくのなら下り道のみ、押して動けば十分でしょう。さあ、のんびりしているとイリヒコたちが上がって参ります。」

タカヒコはオオナンジとエシキ、オトシキ兄弟とその配下10数名を宮の守りとして残し、トミビコたち20名とタニグク、そしてタカヒコが正面からぶつかることになった。

エシキは眠ったままの大物主を昨夜ナガスネヒコとオオナンジが隠れていた居室の地下室へと隠した。オオナンジはまたここに潜むのかとぼやいた。

それを聞いていたタカヒコはオオナンジの前に立ち、頭を下げた。

「オオナンジ様は歴戦の知恵者でございます。ここに残りこちらの全軍の取りまとめと、大物主様の守りをお願いいたします。」

「わかった。ワシが宮内の指揮を執ろう。三輪山の禁足地に逃げ込む訳にはいかないだろうしな。彼奴等も禁足を侵すことはするまい」

「オオナンジ様、ご無事で」

「タカヒコ殿、其方も。今夕には其方が大物主となる儀式があるのだ。命を投げ打つような真似はなさるなよ。今夕を乗り切れば我が播磨や河内からの応援も望めるのだ。」

「わかりました。行ってまいります。」

黄金色に輝く鎧兜を身につけたタカヒコは意気揚々と宮の前方に設けられた陣へと向かった。

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