ペールブルーアイズ

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ペールブルーアイズパートⅢ

ペールブルーアイズ

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二十二 
島本が生まれた小さな町のある日の早朝は、朝靄包まれていて幻想的と言っていい位である。耳を澄ますとその幻想的な風景から、メトロノームの様な音楽が聞こえて来た様な気がした。聞える筈は無いのでもう一度耳を澄ますと何かの掛け声が聞こえて来る。殆ど白い中に響いているその声を辿って行くと、その声が空手の道場からの物である事が判る。
そこでは鋭い声を飛ばして稽古に励んでいる春香の兄である悠太の姿がある。その鋭い声に紛れて悠太の後ろから可愛い声も聞こえて来る。その声は、可愛いとしか言い様が無い二人の少女、まだ幼い春香と竹内のものである。

稽古が終った春香と竹内と悠太が帰り道を歩いている。道が分岐している所に差し掛かると、春香が
「美侑、また明日ね」と言い竹内が「バイバイ」と言う。
二手に別れる竹内と、春香と悠太。
悠太の後ろを少しスキップする様に歩いている春香が急に歩みを早めて悠太を追い越して行く。しかし中学生と思えない位背が高くて細身だがいい体格の悠太が気持ち歩みを早めると春香は簡単に抜き返される。
「おにいちゃん」と怒った様な声で上から言う春香。
その声に春香と悠太の方を見る竹内。続いて聞こえる
「おにいちゃんは、後ろでいいの」と言う晴海の声に竹内は笑って仕舞うが、悠太は春香を可愛いがり過ぎるよねの事を少し疎ましく思って仕舞った。
いつも自分の後に着いて家に戻って来ていた春香が昨日は如何言う訳か家の前で自分を追い抜いて先に行ってしまったのだが、その春香をよねが捕まえて、お嬢様が一番等と、囃し立てたものだから春香が味を占めた様なのだ。その味を占めた春香を後ろ目で見ると、それを感じたのか悪戯好きを発揮して走って悠太を追い抜いて来る春香である。
竹内はまだ二人の様子を笑顔で羨ましそうに見ている。
一人っ子の竹内にとって羨まし過ぎる光景でも在り大好きな二人が作る最高の光景でも在る。
その光景の中では、自分の前に出た春香を悠太が捕まえて肩車にしようとしている。
もう笑顔で居られないかも知れない竹内が前を向いて歩きだすと、悠太も春香を肩車して歩きだす。
そして肩に春香の重さを感じると、可愛いくて仕方が無いのは自分も同じだと思い笑い出しそうになる。
しかし、笑い出さない方が好いと思った悠太はに春香に優しく声を掛ける。
「今日は、同時に帰ろうか――楽でいいだろ」
肩車されたのは嬉しい様で、春香はきっぱりと頷く。
「お兄ちゃんは、春香の目嫌いじゃないでしょ―」
「嫌いな訳ないだろ、世界一綺麗だよ」
その言葉に、悠太の頭を何回も叩く春香。
「でも不思議だな、春香の目だけが青いのは―」
「春香の知らないおばあちゃんの所為なんでしょ―」
頷いてから、見る事が出来ない春香の方に視線を送って言う悠太。
「又あいつ等に虐められたんじゃないだろうな―」
春香から、言葉は返って来ない。
「虐められたら、黙ってるんじゃないぞ」
春香が小さく頷くと、悠太が歩みを止める。
既に二人は、自分たちの家である大きな屋敷の大きな門の前に立っている。
勿論、春香は立ってはいないのだが―。

二十三
かなりの広さがある日本間の真ん中辺りで春香と悠太が昼寝をしている。
季節は夏になっていて、悠太は半袖短パンで春香は遠目には何の柄か判らない様な細かい柄のワンピースを着ている。その春香が目を醒ます。
開いた仄かに青い目の中に、本を枕にまだ眠っている悠太の姿が入って来る。
少し間悠太を見つめる春香。すると悪戯心も目が醒めたのか枕になっている本を抜き取る春香。
その本はニーチェの「ツァラトゥストラ」である。 
悠太ゆっくりとが目を開ける。
その目の中に春香が本を開いて見ている姿が入って来る。
笑顔を見せる春香。悠太も笑顔を見せるが、一応
「こらっ」とは言う。すると春香も一応言い訳を言う。
「本が読みたかったの」
その可愛い言い訳に春香を優しく見つめる悠太。
「読めない―、難しい字ばっか―」
「春香じゃ、まだ無理だよ」
その悠太に開いているページを見せて
「ここ読んで」と言う春香。
改めて春香を見つめる悠太。読んでも判る筈は無いので躊躇しているのだが、少し間を置いて何故かそれを読み始める悠太。

二十四
読まれる、開かれている本のページの一節。      

かつて悪魔が私に向かって次のように語った。「神もその地獄を持っている。それは人間たちに対する神の愛だ」

よねがスイカを持って来る。
読み続ける悠太と、それを聞いてはいる春香。
判る筈のない春香の中に、それは自然と入って来る様である。
 
二十五
島本が通う女子校の午後の授業が行われている教室には、日差しがたっぷりと入り込んでいて昼寝をすれば気持ち良さそうである。
勿論生徒達は黒板を見つめていて、先生は文章を書き終えて生徒の方を振り向く。すると直ぐに先生が生徒の方に歩きだす。
黒板を見つめていない生徒が居たのだ、それも午後の日差しを一人で楽しんでいる様な生徒が。
先生が本を枕の様にして眠っている島本の机の横で止まり、気持ち良く眠っていて幸せそうにさえ見える横顔を見せている島本の頭を教科書で軽く叩くと、島本が目を醒ます。
「おはよう」と言う言葉を投げる先生。
教室全員の目が自分に向いているのを感じている島本だが、夢が深過ぎて現実に浮上するまで今少し時間が必要な様である。すると、その時間を親切な先生が
「今日やった所をレポートにまとめて来週提出しろ」と言う言葉で与えてくれる。島本が
「―おはよう―ございます」
と言うと、教室に大きな笑いが起き、明らかに怒った顔なった先生が教壇に戻って行く。
島本が顔を上げた為、本が「ツァラトゥストラ」である事が判る。

二十六
授業が終ったばかりの教室だが多くは部活に向かった様で残っているのは数人だけである。その中の一人、瀬籐が帰ろうと立ち上がった島本に声を掛ける。
「ニーチェ先生、好きなんですね」
瀬籐を一瞥するだけで、何も答えない島本。
「あたしも大好きなんです」
ニーチェの本を鞄に仕舞ながら
「これ―これは兄の愛読書なの」と答える島本。
「同志かと思ったのに―」
「頭いいんだね。こんな難しい本読んで解るんだから」
「判ってるかと言われたら自信がある訳じゃないですけど、なんか共感出来るって言うか―」
軽く頷いてから
「悪いけどさっきの授業のノート見せてくんない」と言葉を重ねて来る島本。
「申し出ようと思ってました。―お兄さんは絶対解ってらっしゃると思います」
と言う瀬籐の言葉に、顔を曇らす島本だが、続けて
「お逢いしたいです」と言われると、立ち上って
「帰るわ」と言って、本を入れた鞄を抱えて教室を出て行こうとする。
「あっ、ノート」と言って瀬籐は鞄を探ってそれを出すが、既に教室の中に島本の姿はない。

二十七
ブックメーカーIDが入るビルの廊下を木佐貫とIDの社長である伊藤が歩きながら話しているが、その様子は二人の関係が社長と社員以上の関係である事が窺わせる。
「あくまでもお前個人の余暇の趣味と言う様な活動に、とやかく言わんが―」
と少し笑って伊藤が言うと
「ええ、勿論スーパーファイナルの時と同じで、私の休日の暇潰しで女子大生の探偵さんに瑠璃華に立っている噂の調査を頼んだだけですから」と返す木佐貫。
「それにしても月刊ランキングがどうしようもないな―」
「赤字の月も出始めてますからね」
「もうスーパーファイナルだけが頼りだな」
「それだけに瑠璃華の人気が急落して頂点から滑り落ちたら大変な事になりかねませんからね、防戦買いだけは確り準備して置きますよ」と言う木佐貫に頷いてから
「でも、多少の事で瑠璃華の人気が揺らぐとも思えんがね」と言う伊藤。
「そうかも知れませんが、向こうの、JPBの弱味を握れるチャンスかも知れないですよ」
「弱味か―、女子大生の探偵さんが見つけてくれるの」
その言葉に、少し首を捻るが
「此方が主導権を握れるかも知れないと言う事ですよ」と続ける木佐貫。
木佐貫の言葉に伊藤が二度頷くと、向こうから田島がやって来て
「今、ブルースターズから連絡がありました。予定通りJPBのオーディションを実施して来月中には十五人体制で活動するそうです」と告げる。
少し渋いものになった顔を見合わせる木佐貫と伊藤。そして木佐貫が
「相変わらず、連絡すればそれで終わり、ですよ」と言うと、苦笑して
「連絡してくれるだけでも有り難いと思うしかないな」と返す伊藤である。

二十八
駅のホームに一人で立っている島本。勿論、電車を待っているのだが、その横に息を切らして瀬籐がやって来ても何の反応も無い。
「よかった間に在って、部室に寄ったら捕まっちゃって―」
と言う瀬籐に全く無視の島本。
「なんか気に障る事言いました―」
ちらっと瀬籐を見るだけの島本。
「お兄さんの事ですか―」。相手にもしたくない島本だが、仕方がないので間を置いてから
「一人でいたいの」と島本が言うと、電車がやって来る。
其れに乗り込む島本。瀬籐も続いて来る。
「―こっちだったっけ」
「あっ、好いんです―」
「一人で帰りたいんだけど」
「転校して来てからずっと一人ですね、あたしも本当の友達なんかいない一人ぼっちですけどね―」
瀬籐の言葉に、島本は何の興味も示さず無言であるが
「渋谷行きません」
と言う瀬籐の以外とも言える言葉に、初めて確りと訝しんだ顔で瀬籐の顔を見る島本である。

二十九
ブルースターズの事務所に新山と山田が事情聴取にやって来ていて、立川と社長の中道に向き合っている。
「竹内さんが失踪しても社長さんは、捜索願を出されなかったですよね」
と新山が言うと
「以前にもあったんですよ、連絡が取れなくなるって事は。多感な時期の子ですからね、彼女だけじゃなくて他の子もそうですけど―」と返す中道。
「外から見ているとは違って、色々とご苦労がありそうですな」
と山田が気を遣った様な事を言うと、事務所に仕事から戻って来た黒石とJPBのメンバーの姿が見える。
その姿を見て新山が
「話聞きます」と山田に一応お伺いを立てると、何となく頷いた山田が
「そうだな、聞いてみますか」と応える。
その言葉に、中道の表情が少し動いてそれを歓迎していない様子を少しだけ覗かせる。

三十
渋谷にあるパンケーキ屋さんのテーブルの上に、フルーツが豪華に盛られたパンケーキが二つ並べられる。
そのパンケーキを見て笑顔を見せる島本に、瀬籐が
「本当にJPBのオーディション受けるんですか」と言う疑問符の付いた言葉を投げ掛ける。
「あんな事があったのに開催するオーディションをあたしが受けるのは運命みたいものなのよ」
「アイドルになりたいんですか」
と言う瀬籐の言葉に。ゆっくり首を左右に振る島本、そして
「食べたいんだけど」と瀬籐に言う。
「そうですね、無理に誘われたにせよ奢って貰う方から食べ難いですよね」と言って意外と食いしん坊かも知れない島本に、笑顔を見せて
「食べましょう」と続けてパンケーキを食べ始める瀬籐。島本も素直な笑顔を見せて食べ始める。
其々のナイフとフォークでそれをを切り取って食べる二人は幸せそうであるが、島本はそれを食べる事でそうだが瀬籐はその島本を見る事が幸せと言う風である。

三十一
ブルースターズの事務所では立川と中道に加わる形で瑠璃華が座っていて、その後ろに絵夢と加奈と駒田と山内が立っている。向かいには変わらず新山と山田が座っていて、決まった様に新山が口を開く。
「皆さんは竹内さんが失踪する前日まで、一緒に仕事されてた訳ですよね」
何となく機械的に頷く瑠璃華達。
「どんな様子でしたかね―」と続ける新山。
「少し元気なかったかも知れないですけど、特に変わった様子はなかったです」と瑠璃華が返すと
「自殺か事故なんでしょ、聞いても意味無いじぁん」と加奈が独り言の様に喋る。
その加奈の方を新山が見ると、立川が諭す様に言う。
「そうと決った訳じゃないから―それをはっきりさせるのが警察の方のお仕事なの。聞かれた事にだけ答えてくれればいいから」
その言葉に、不貞腐れた様子の加奈の方に目をやる瑠璃華だが、その加奈を見て少しだけ顔を歪めて仕舞う瑠璃華である。

三十二
テーブルの上の皿は綺麗に空になっているが、島本と瀬籐は変わらず向き合って座っている。明らかに機嫌が好くなっている島本に、瀬藤が笑顔で言って来る。
「あたしもオーディション受けてみようかな」
苦笑するだけの島本に対して、言葉を続ける瀬籐。
「亡くなった親友の為にJPBに潜入して真実を突き止めようなんて、探偵みたいでかっこいいし素敵です」
「―テレビのドラマじぁねえよ」
「でも親友の為に自分の人生を賭けて正義を突き通す女子高生探偵のドラマって言うの、作れば受けますよ」
と言う勝手な思い込みが激しい瀬籐に、首を捻ってからそれを是正する言葉を返す島本。
「受けねえし、探偵の真似する積りもねえし、第一正義なんて関係ねえよ」
「正義は大事ですよ」
「大事なのは、本当の蹴りを付ける事よ」
いまいち意味の判らない瀬籐が、島本の顔を見つめる。
その島本の顔は強い意志を宿していて、どんな言葉も撥ね返されて仕舞いそうに感じた瀬籐は言葉を一旦停止させて仕舞う。

三十三
新山が運転し山田が横に座る刑事用車両の中は、山田のリラックスし過ぎた座り方の所為か緊張感がなく緩い感じである。それを山田の
「やっばり瑠璃華ちゃん、可愛いかったな」と言う言葉が更に緩くさせるが、新山の
「あの加奈ちゃんって子、妙に反応しましたね」と言う言葉で、それは少しだけ修正される。
「疑っているの」
「あの溺死した女の子の髪飾りに絡んでたあの子のじぁない髪の毛、若い女性の可能性が高いって話じゃないですか―」
「海のゴミだよ」
「そうかも知れないですけど―」と言う新山は自分なりの考えが大きくなって来ていて、山田の相手をすると言う仕方の無い行為よりそれの中に入って行きたい様で言葉を続けるのを止めて仕舞う。

三十四
停止して仕舞った会話が何時復活したかは判り様がないが、ゲームセンターにあるプリクラの前に立つそこそこの笑顔の島本と満面の笑みの瀬籐からは復活したのは間違いない様てある。
「撮りますよ」と瀬籐が言うと、島本が
「ストップ、本当に一緒にアイドルになって、あたしの力になってくれる気あるの」と言ってストップを掛ける。
「勿論本気です。受かる自信がある訳じゃないですけど―」
「それはあたしもそうだよ」
「凄い人が受けるんでしょ」。その言葉に、何気に頷きながら
「そうなんだろうね」と呟く様に言う島本に
「二人とももし受かったら奇跡ですよね」と返して来る瀬籐。
「奇跡ね、まあそうかも知れないけど―」
「でも、もしオーディションに受かって一緒にメンバーなれれば絶対役に立つと思います」
島本はその瀬籐を確り見つめて、意外とも思える言葉を吐く。
「じゃあ、今日からあたし達は見知らぬ者同志よ」
その島本の言葉の真意が判らず言葉が出ない瀬籐に、更に続ける島本。
「もし奇跡が起こってそうなったら無関係な二人の方が好いよ、その方が瀬籐は自由に動けてプラスになると思わない」
「そうかも知れないですけど―」
「それに巻き込みたくないの」
瀬籐はその島本の言葉も真意が掴めなかった。只、凄く嫌な感じがした事だけは確かだった。

三十五
探偵団の事務所のテーブルを横田と本山と渋沢が囲んでまったりとお茶を飲んでいる。テーブルの上のテレビは付けられていて情報番組を流しているが誰かが見ている訳でもない。かと言って三人がお茶を飲む以外に何かをしている訳でもない。このままでは時間が止まって仕舞い動く事も出来なくなると感じたかも知れない渋沢が、徐に口を開く。
「愈々、オーディションですね」 
「受かったら奇跡ですね」と本山が言うと
「奇跡が起こった方がええんか悪いんかどっちなんやろ―」
と横田が呟く。するとマユが部屋に入って来る。直ぐにマユが
「焼いて来ましたけど、いま見ます」と言うと
「頼むは」と横田が答える。
マユが焼いて来たディスクをレコーダーに入れると、情報番組からJPBの冠番組に映像が切り替り、やっとこさ見て貰える様になったテレビがかなりの声を上げ始める。
実際はマユが音量を上げたのだが、それにより加奈の母である好子の
「加奈にはスーパーファイナルで頂点を目指して欲しいと思っています」と言う声を大きく流し出す。
それは自分が経営するそば店でMCにインタビューを受けての物で、好子を大きく捉えているが田舎のオバサン風で加奈から受けるイメージとは大きくかけ離れている事を印象付ける物である。
「これは最近の奴ですね」とマユが言うと、渋沢が
「こんなV見て如何するんですか」と続いて仕舞う。すると
「なんか見つかるかも知れへんやろ―」と言う言葉を何とか、気の無い視線をテレビに向けている渋沢ともっと気の無い様子の本山に向かって吐く横田である。テレビは
「富士の名水を使ったそばはサイコ―です」と言ってMCがそばを食べる映像を映している。
そしてその映像が、スタジオでその様子を如何にも興味津々と言う風に見ているJPBのメンバーの映像に切り替る。

三十六
JPBの最終オーディションが行われているオーディション会場ではテーブルを前にして数人の審査員が席に着いていて、その中には中道と立川の顔も見る事が出来る。
その前に何か勘違いした様な派手な露出の多い服の萌木が現れる。そして
「十七番、萌木ひかりです、宜しくー」と言って唄って踊り出す。
少々雑な感じのパーフォーマンスだが、妙な勢いもある。
呆れた顔も多い審査員の面々。
萌木の後ろの方には最終審査に残った二十人位の女の子が緊張した面持ちで座っていて、その中には島本と瀬籐と白間と太田と北山と佐藤の顔もある。

三十七
事務所のテーブルの上のテレビはJPBの冠番組のビデオを映していて、MCがメンバーに話を聞いている。
「美侑と瑠璃華は同じ町の出身やのに知らなかったと言うのは嘘で、仲が悪いだけなんちゃう」とMCが言うと
「止めて下さい、私達は仲いいんで」と瑠璃華が返す。
「ネットじゃ違うみたいよ」と言うMCの言葉には、竹内が
「ネットなんて信じないで下さい」と言って来る。
「まあ信じてないけどね、でもホントは知ってたりして―」と続けるMC。
そのMCに、瑠璃華は作り笑いを浮かべるが、竹内は少し強張った様な顔に変った様に見える。
そのビデオを見つめているのは横田一人である。その所為かそれともそれの中身の所為か横田は集中し切っている様に見える。 

三十八
JPBのオーディション会場では十八番の女の子がパーフォーマンスを終えて席に戻って来ると、島本が立ち上がって前に歩み出て来る。その歩く姿だけでもオーディションに合格する事を予見させてくれる存在感がある。
マイクの前に立つと、何の気負いもなく
「十八番、島本春香です。宜しくお願いします」言ってのけて、島本が踊りながら唄いだす。
殆ど完璧と言ってよいパーフォーマンスである。
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