婚約者の王子に追放されたら魔族の少年の餌になりました

睡眠不足

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永遠に ◯

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「危険って?」

 思わずアンブロワーズを振り返ると「大げさだ」と笑うだけの彼。これは話にならないと、ヴィクトワールは残り二人に続きを促した。

「魔族と魔物の違いって知ってるか?」
「いえ」

 むしろ明確な違いがあったのか驚いているが、この流れだとそれは言うべきではないと口を噤む。

「理性があるかないかの違いなの」

 生まれつき話が通じない種族だけでなく、魔族として生まれた者であっても理性を失ったまま元に戻れなくなった場合は、魔物として処理されるそうだ。
 本能の赴くままに他者を襲うようになる上に、理性をなくした分、以前より危険な存在となっているから致し方ないらしい。

「もう分かっているみたいだが、現状に嫌気が差しているヤツってのは、〝そっち側〟にいきやすい」

 彼の場合、何事にも興味を持てないまま、ただ永遠を生きる自分の生にみ疲れていたようだ。

「アンちゃんが魔物になったら誰の手にも負えないし、何より大切な家族がそんなことになったら悲しいでしょ?」
「で、生きる気力が湧くような出逢いがあるかもしれないからって旅に出させたんだよな」

 本人は今ひとつ気乗りしなかったようだが、弟のみならず甥や姪にまで必死に説得され、仕方なく彷徨うろついていた時に出会ったのがヴィクトワールだった。

「まさか僅か半世紀で伴侶を見つけるとはな」

 それを僅かと言える彼らの感覚はヴィクトワールにはまだ分からない。

「あの夜は、何故かあの場所に行かないとって強く思ったんだよね」
「貴方、最初は見ているだけのつもりだったクセに」
「僕って基本的に面倒くさがりだからさ」

 でも美味しそうだと感じた上に、何百年ぶりに〝直接〟いただきたいという欲が湧き声をかけた。その結果、今があるのだから直感に従って正解だったと彼は思っている。
 彼女も今更あの夜のことや、その後の諸々を蒸し返すのも建設的ではないと話を切り上げた。

 因みにヴィクトワールは全く気にも留めていないが、元婚約者の王子はヴィクトワールの父親であるサンテール侯爵や国王に勝手な真似をしたことを散々責められ、あの夜の騎士たちと共に彼女を探しに出た先で流行り病に罹り亡くなった。
 機を見て手を下そうと思っていたアンブロワーズも驚く程に呆気ない最期だったが、それをヴィクトワールが知る機会はないだろう。


「ところで、貴方は七百年以上は生きているという話だけど」
「はぁ?! 七百!? ンなワケねぇだろ、俺でさえ千年以上生きてるのに」
「ね。それにこの二人の年齢差は百歳くらいだと聞いたわよ」
「えっ?!」
「へえ、そうなんだ」

 全くどうでも良さげな発言をするアンブロワーズに、他の三人はもう突っ込む気力すら失っている。

「やっぱり嫁さん以外は興味なしだな」

 魔族の婚姻はお互いを唯一無二の存在だと認識したら成立するので、特に何かをすることはないらしい。もし望むならどこか人間の街で式を挙げようと言われたが、ヴィクトワールも今はその気にならないので、いつか気が向いた時の楽しみにするのも良いだろう。

「時間がたくさんあるのが、こんなに嬉しいことだとは思わなかったよ」

 以前の彼にとっては、有り余る時間は煩わしいものでしかなかった。今は心から楽しみだと思える。

「君に飽きられないように頑張るからね、色々と」
「ヴィーちゃんは魔族に近付いているから、その心配はないんじゃないかな」

 魔族は一途で、心を決めたらそれが移ろうことはない。その点では、まだ人間に近い智香のことは心配にならないのかとヴィクトワールは疑問を抱くが、それを訊くのは無神経に過ぎる。
 だがそれを〝視た〟ユーゴーが苦笑まじりに言う。

「トモの場合、浮気の心配は殆どないだろうな。色々なヤツらを見て想像するのが楽しいらしいから」
「それは、どういう?」
「ユーちゃんとアンちゃんをカップルにして楽しんだり、妄想は自由だからね!」
「えっと……?」

 ヴィクトワールにはまだついていけない話題だったが、興奮気味の智香の説明で何とか理解した。

「でも、自分の連れ合いまで餌食にするのは流石トモカだよね」

 呆れ顔で言うアンブロワーズは、智香に魔力に対する耐性がつくまで、ずっと彼女の面倒をみていたせいで慣れている。自分を妄想の片割れにされるのも気にならない。
 彼が妄想でブチ切れるとしたら、ヴィクトワールを他の男と絡ませた時だ。智香もそんな命知らずな真似は決してしない。魔王一家と兄夫妻は、これからも仲良く暮らしていくことだろう。

「しばらくここで暮らしたら、またどこかの大陸に行ってみようか?」
「良いわね」
「君があまりに美味しそうに食べるから、最近は普通の食事もとるようになったし」

 これからも今までなら考えもしなかったことに色々と挑戦するだろう。お互いに出逢わなければ、こんな毎日は送れなかった。

「運命って、本当にあるのかもね」
「と言うより、私たちはお互いを運命だと決めたの。不可抗力な力に決められたのではなく」
「そっか、確かにその方が良いね」

 寄り添う二人は、気を遣った弟夫妻によっていつの間にか二人きりになっていることにすら気付かない。
 ただお互いと共にある喜びに浸るだけだった。




 それから後、魔王の居城には、両親のイチャつきに耐えられないと甥や姪が頻繁に避難してくることになる。

「叔父上はいつか落ち着くから大目に見てやれと仰っていましたが、それからもう二百年ですよ!」
「叔父様、いつか、とはいつのことですか?」

 可愛い彼らに詰め寄られ、たじろぐユーゴー。彼にとっては、魔王の仕事より遥かに大変だと言える。

「すまん、俺が生きている間は無理かもな」
「でも両親が喧嘩ばかりしているより良いわよ、ね?」

 ユーゴーだけではなく、面白い話を聞かせてくれる智香にまで言われては仕方ない。
 結局、今日も城に泊まり、両親は二人きりで過ごすことになった。

「あの二人、これを狙ってイチャついてる……ワケないよな?」
「何も考えてないわよ、きっと。下手したら、自分たちがイチャついてる自覚もないかも」

 それでも初めて会った時のやや拗れてしまっていた状態より遥かに良い。可愛い甥姪は気の毒だが、少しばかり耐えてもらおう。
 微笑みを交わす魔王夫妻は、お茶の用意が出来ているガゼボに甥姪を連れて向かった。
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