Moonlight Serenade, after His Requiem

詩方夢那

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Opening : Autumn has come

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 住宅街の一角にある、小さなコイン・パーキング。
 シルバーのライトバンから降りたのは劇団主宰者の大石雄司と、その団員である松島和弥だった。
「まだ来てませんか?」
「その様だね」
 辺りを見回す松島に、大石は苦笑いを浮かべる。
「住宅地の真ん中の空き地は分かりやすいが、此処までの道のりは分かりづらいからね」
 大石は改めて通りに目を向け、人影を見つけて手を振った。
 通りの人影は足早にコイン・パーキングへと向かい、大石の前に立つ。
「えっと、劇団アルタイルの大石座長ですね?」
「ええ。あなたが……美月うさぎ先生ですね」
「ネットでは、ですね……」
 大石は“美月うさぎ”の姿にその笑顔を引き攣らせ、その女性は困った様に笑っていた。
 白いスカートとブラウスの上に、黒いジャケットを羽織った、若い女性の姿に。
「あ、改めまして、寿栖木《すすき》律子です。よろしくお願いします」
 律子は居住まいを正し、小さく頭を下げる。
 大石はこれはどうもと会釈を返し、松島を見遣った。
「ちなみに、僕は松島和弥と申します」
 松島は道化師の様に一礼し、良く整った笑顔を律子へと向ける。
「座長はきっと、先生が若くて驚いてらっしゃるんですよ」
「ですよ……ね……」
 律子は再び笑顔に成り切らない、引き攣った笑み浮かべていた。
「さて、早速ですが、葉山さんの所へ行きましょうか。案内します」
「よろしくお願いします」
 気まずさを隠す様に大石は歩き出し、律子も似た心境のまま、大石と松島に従った。
 まだ庭木は色付かない、秋の始まりの昼下がりの事だった。
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