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幻の宿
第八幕 撮影中断
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「えっと、今居るのが、この前情報貰った旅館がある住所で……」
絹田は建物の基礎さえも残ってはいない山中の荒れ果てた平地にカメラを向けていた。
「見ての通り、ただの空き地というか、山の中、ですね」
絹田は三十三年前に崩れた斜面にもそのレンズを向けるが、長い歳月にその傷跡は失われていた。
「この斜面、登れそうなので、ちょっと登ってみます」
絹田と雲井は急な斜面を登り、ふと、降りられそうな場所を見つける。
「なんか残ってるかもしれないんで、そこの窪みに降りてみます」
絹田は雲井にカメラを預け、初めてハーネスを本来の用途に使用する。
「ちょっと急だし、気を付けて」
雲井も根を張った樹に自分を預けながら、降りてゆく絹田をカメラで追い掛ける。
そんな中だった。
「ヤバい、ヤバい! カメラ、カメラ止めて! 警察呼んで、今すぐ!」
絹田の怒号に雲井は慌ててカメラを止め、手前で待機していた東中に通報を依頼する。
「ねえ、何が起こったの!」
口ぶりから、絹田自身に何かが起こったわけではないと、雲井はその詳細を後から聞こうとする。
しかし、返事が返ってくるよりも早く絹田がボルダリングの要領で斜面を這い上がってきた。
「しゃれこうべ、しゃれこうべがあるんだよ、古い車の中にぃ!」
「え……」
雲井は声を失いかけたが、平静を保ち、困惑気味に電話を持つ東中に告げた。
絹田が白骨死体を見つけたらしい、と。
*
「吊り橋……おそらく、用水管理用の、小さな橋ですね。確か、斜面の裏の方に、溜池があって……ただ、それが用水として使われていたのは、弟から聞かされた限り、半世紀ほど前のはずです。弟が此処に来た時点では、この山に集落は無く、インフラは使われなくなって、電気が通っていたのも、桃源楼だけだったはずです……とはいえあの山崩れで池は崩壊したかもしれませんし、そうでなくても、渇水の時もあったので、とうに干上がっているでしょうな……橋も、おそらく、あの山崩れでとうに崩落しているでしょうし、免れたとしても、半世紀を過ぎて残っているとは思えない……」
親族の供養の為にその地を訪れていた作家の京宮雅彦は、山のふもとで鬱蒼とした木々を見つめながら、亡き弟から聞かされた昔話を鈴子と美琴に聞かせていた。
「でも……それがあったと言う事は……」
呟いて、鈴子が言いしれぬ悪寒を感じていると、突然、隣の美琴が山の方へと歩き始めた。
「美琴?」
美琴は少しずつ◇◇方面へと山の縁を歩き、不自然に草のなぎ倒された空間を見つけた。
「ねぇ」
「居る」
「は?」
「だから、居る」
美琴を追いかけた鈴子は、その短い言葉に嫌な予感を覚えた。
「……女の人と、男の人。多分……見た人達ね」
振り返った美琴の瞳に、鈴子は悟った。
二人を追い掛けた京宮は一歩進み、その先を覗いて、すぐに引き返してきた。
「古い車だな。ただ、遺棄されたのはごく最近で……おそらく、中に人が居るだろう」
鈴子は背筋が凍るのを感じた。
「君、ここの地名がおおよそ説明出来るかな」
「えぇ」
「じゃあ、警察に連絡してくれ。不審な車両がある、と」
「分かりました……」
鈴子は震える手で携帯電話を手に取った。そして、不審な車両があると告げる。
「どうやら、供養は一度では終われない様だね……」
京宮は遠い目で、鬱蒼とした木々の茂る葉を見上げた。
絹田は建物の基礎さえも残ってはいない山中の荒れ果てた平地にカメラを向けていた。
「見ての通り、ただの空き地というか、山の中、ですね」
絹田は三十三年前に崩れた斜面にもそのレンズを向けるが、長い歳月にその傷跡は失われていた。
「この斜面、登れそうなので、ちょっと登ってみます」
絹田と雲井は急な斜面を登り、ふと、降りられそうな場所を見つける。
「なんか残ってるかもしれないんで、そこの窪みに降りてみます」
絹田は雲井にカメラを預け、初めてハーネスを本来の用途に使用する。
「ちょっと急だし、気を付けて」
雲井も根を張った樹に自分を預けながら、降りてゆく絹田をカメラで追い掛ける。
そんな中だった。
「ヤバい、ヤバい! カメラ、カメラ止めて! 警察呼んで、今すぐ!」
絹田の怒号に雲井は慌ててカメラを止め、手前で待機していた東中に通報を依頼する。
「ねえ、何が起こったの!」
口ぶりから、絹田自身に何かが起こったわけではないと、雲井はその詳細を後から聞こうとする。
しかし、返事が返ってくるよりも早く絹田がボルダリングの要領で斜面を這い上がってきた。
「しゃれこうべ、しゃれこうべがあるんだよ、古い車の中にぃ!」
「え……」
雲井は声を失いかけたが、平静を保ち、困惑気味に電話を持つ東中に告げた。
絹田が白骨死体を見つけたらしい、と。
*
「吊り橋……おそらく、用水管理用の、小さな橋ですね。確か、斜面の裏の方に、溜池があって……ただ、それが用水として使われていたのは、弟から聞かされた限り、半世紀ほど前のはずです。弟が此処に来た時点では、この山に集落は無く、インフラは使われなくなって、電気が通っていたのも、桃源楼だけだったはずです……とはいえあの山崩れで池は崩壊したかもしれませんし、そうでなくても、渇水の時もあったので、とうに干上がっているでしょうな……橋も、おそらく、あの山崩れでとうに崩落しているでしょうし、免れたとしても、半世紀を過ぎて残っているとは思えない……」
親族の供養の為にその地を訪れていた作家の京宮雅彦は、山のふもとで鬱蒼とした木々を見つめながら、亡き弟から聞かされた昔話を鈴子と美琴に聞かせていた。
「でも……それがあったと言う事は……」
呟いて、鈴子が言いしれぬ悪寒を感じていると、突然、隣の美琴が山の方へと歩き始めた。
「美琴?」
美琴は少しずつ◇◇方面へと山の縁を歩き、不自然に草のなぎ倒された空間を見つけた。
「ねぇ」
「居る」
「は?」
「だから、居る」
美琴を追いかけた鈴子は、その短い言葉に嫌な予感を覚えた。
「……女の人と、男の人。多分……見た人達ね」
振り返った美琴の瞳に、鈴子は悟った。
二人を追い掛けた京宮は一歩進み、その先を覗いて、すぐに引き返してきた。
「古い車だな。ただ、遺棄されたのはごく最近で……おそらく、中に人が居るだろう」
鈴子は背筋が凍るのを感じた。
「君、ここの地名がおおよそ説明出来るかな」
「えぇ」
「じゃあ、警察に連絡してくれ。不審な車両がある、と」
「分かりました……」
鈴子は震える手で携帯電話を手に取った。そして、不審な車両があると告げる。
「どうやら、供養は一度では終われない様だね……」
京宮は遠い目で、鬱蒼とした木々の茂る葉を見上げた。
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