夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第二章 Gambling with the Devil

2-7-3  Summer's glory

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 ミカの自宅に一泊し、レインは車を借りて国道へと出て行った。
 車載カメラで景色を録画しながら、草の生い茂る休耕田の脇や鬱蒼とした山の谷間を抜け、港を目指す。
「カメラには映ってるかな? さっきの脇道が、古い精神病院に続いてた道。今は診療やめて廃墟らしいんだけど、少し前までは現役だった」
「山の中の病院?」
「ううん、山の上。少し前まで、其処から出るに出られない人も居たわ」
「そっか」
「大体、病院の名前言って、其処に入ったといえばお察し、みたいな歴史よ」
「戦前の小説みたいだね」
「そうね」
 薄気味悪い湿度のこもった山の谷間を抜けると、沿岸らしい開けた低地に入る。
「一気に明るくなったね」
「海抜低すぎて高潮来るけどね」
 車は国道の端に向けて走るが、終点に向かうのが目的ではない。
「商店街の先のコンビニで曲がって、駅の裏の駐車場ね」
 ミカの大雑把な案内と適当なカーナビを頼りにレインは駅の裏手へと回る。

「あー、満車みたいだ」
「Uターンは出来る? 引き返してショッピングモールに行こ」
「おっけー」
 飛び込みで駐車出来る場所は無く、レインは駐車場で車を回して国道へと戻る。
「ナビは郵便局を目安に進めば道に入れると思う」
「はーい」
 旅客船の港の雰囲気だけを感じながら、レインは中心地へと引き返し、目的の交差点でウインカーを出した。
「インは奥にあるから、看板を目印に交差点を曲がって、速度落として少し奥まで」
 ミカの案内通りに駐車場に入ったはいいが、一階の平面駐車場は既に満車の合図が出ている。 
「屋上はいつも空いてるから、入ったらちょっと左手のスロープに。一気に上がったら屋上、勾配だけ気を付けて」
 少しばかり急なスロープを越え、レインは屋上の駐車スペースへと辿り着く。
 車を降りるとそこはかとなく潮風が感じられるが、混凝土は既に焼け付いていた。
「屋上ってこうなってたんだね」
「うん、海は見えないけど、風は気持ちがいい」
 一年数カ月前、レインは世間の混乱を掻い潜る様に訪れた事はあるが、駅から徒歩で訪れた為、屋上の景色を見るのは初めてだった。

 二人の入ったショッピングモールは地域で最大の商業施設だが、取り立てて見るべき物は無く、廃止された公共施設機能が移設されている為にテナントも多くは無い。ただ、生活に必要な物を買う上での需要はそれなりに残されている。
 それでもレインにとっては、初めてミカと顔を合わせた印象深い建物であった。
 まだ世間の混乱は著しく、東京から地方へ誰かが来たと分かれば後ろ指を差されかねない時期、ミカは施設の一角を借りて個展という名のオフ会を開いた。
 ミカとレインが出会ったのは二年余り前、創作物の公開が出来るサービス上の事だった。
 ミカは決して人気のあるクリエイターではなかったが、偶然にその作品を見つけたレインはミカの作品に興味を持ち、作者に並々ならぬ関心を持ってしまった。
 だが、用心深いミカは実際にファンと会う事には消極的で、なおかつ、世間は混乱の真っただ中に在り、とても面会が出来る様な情勢ではなかった。
 しかし、レインのミカに対する興味関心は留まる所を知らなかった。

 レインの熱意に対し、それなりの誠意を見せようと思案したミカはクラウドファウンディングで資金を募っての個展という形式でレインと会う事を承諾し、支援者はレイン一人という奇妙な結果でそれを実現させた。
 個展会場とする講義室を借りた時間は約三時間、バーチャル個展の撮影を名目にし、額装したイラストの展示やアクセサリーの即売会風の飾りつけを行ってミカはカメラを回した。
 レインが会場となった講義室に着いたのは借り上げ時間が残り一時間となった頃、手土産も無ければ互いにマスクを外す事も無いままだったが、ミカの作品にまつわる話からレインの音楽に関する話題まで、撤収が始まっても会話は終わらなかった。
 結局、運搬の手伝いとミカの送迎の為にやってきた父親とレインが顔を合わせる事となり、ミカは直接会うまで来客である相手の性別は知らなかったと白を切り通した。
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