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第二章 Gambling with the Devil
2-8-3 水と油
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メンバー一同と滝上が初めて顔を合わせてから一週間余り、二度目の面会はブラストバスター本社の練習場所で行われた。
「随分シンプルな構成なんだな」
滝上の持ち込んだギター機材を見て、ハリーが声を掛けた。
「普段はもっとエフェクターつないだりしてる?」
「いえ、これで全部っす」
「そっか」
ハリーが自分の支度に戻ったところで、ルーシーは備品の入った引き出しから耳栓を取り出して滝上に近付いた。
「耳栓は持ってきたかい?」
ルーシーの問いに滝上は首を傾げる。
「此処じゃあモニターから直接音を聞く事になる。ドラムも近い距離で聞く事になるから、した方がいい」
「そんなのしたら音聞こえ無くないっすか?」
差し出された耳栓を見て、滝上は表情を歪ませる。
「工事現場のイヤーマフとは違うから、必要な音は聞こえるはずだよ。耳を傷めたら話にならない」
「別にいいっすよ、自分、いつもこれでやってるんで」
ルーシーは明らかに眉を顰め、見限る様に踵を返す。見かねたハリーが滝上に耳栓をした方がいいと再度説明をするが、軟骨に開けたピアスに引っかかるとの理由で滝上はそれを断った。
出だしから一抹の不安を抱えたまま始まった滝上とのリハーサルは、次第に軋むような緊張感を増してゆく。
滝上は音楽的な知識を持たないままその才能を開花させたギタリストであったが、合奏となると技術的な部分の未熟さが目立っていた。特に演奏技術の高かったコリーが携わった楽曲ではその未熟さが露わになり、勢いだけでは誤魔化しきれない粗が出る。
かみ合わない演奏と雑なギターの音色にハリーの表情は曇っていく。
「すみません、なんか暑くなってきたんで、上着脱がせてくださいっす」
三曲を終えたところでハリーとルーシーが顔を見合わせていると、滝上は一度ギターを下ろしてパーカーを脱いだ。その姿を見たルーシーは思わず声が出るの口を押さえて誤魔化す。
「……すげぇな、それ」
ハリーの言葉に、滝上は照れ臭そうに笑った。
「これでもまだ完成じゃないんすけどね」
滝上の腕には伝統文様を模した和風の刺青が刻まれており、それは上腕から肩甲骨までの広い範囲へと延びている。
「ケリー、一度メトロノームでやってみて欲しいんだけど、良いかな」
滝上の刺青に圧倒されつつ、ルーシーはケリーに呼びかける。
「え?」
「リズム感、ちょっと確かめたい」
「あ、う、うん……」
ケリーはどことなく戸惑いながらもそれを了承した。
「それじゃあケリー、ギターとボーカルでデュオっぽく頼むよ」
「あ、うん……あ、でも入りだけは合図してくれる?」
「分った」
ルーシーはメトロノームを鳴らし、演奏開始の合図を出した。
ルーシーはメトロノームに合わせて鳴らされるベースを基準に、滝上のギターとケリーの歌声に集中を向け、滝上の手元を注視した。
一方、ハリーはギターソロに入る段階でベースの音を止め、滝上がリフに復帰するのを待った。そして滝上のギターがリフに復帰したところから、メトロノームとギターのリズムはかみ合わなくなる。
ケリーは滝上のギターに合わせるように歌を歌うが、困惑気味にケリーがハリーを見遣った時、ハリーは呆れたような表情を一瞬だけケリーに見せた。
やがてルーシーはメトロノームを止め、滝上を見る。
「滝上君、指を怪我してるのかい?」
「え?」
「ピック、中指でしか支えてないよね」
「あ、あぁ、これっすか?」
滝上は強張った様な右手の指を見せる。
「これ、前の仕事で怪我してから動かなくって」
「それは随分不自由じゃないのかい?」
「あ、大丈夫っす」
あっけらかんとする滝上を前に、ルーシーとハリーは思わず顔を見合わせた。
「それと…‥左手も痛めた事があるのかな? 見た感じ、さっきから小指と薬指が固まってるように見えるんだけど」
「え?」
「パワーコードにしても押さえ方が不自然に見えたんだが」
「あー、これっすね……実は中学の頃に折ってて、なんかいいように動かなくなったんすよ。でも大丈夫っす」
絶句するルーシーの向こうでハリーとケリーは顔を見合わせ、ケリーは引き攣った表情を何とか誤魔化しながら口を開いた。
「ま、まあ、大丈夫なら、それでいいよ……じゃ、残りの曲合わせてみよっか」
ケリーはその場を取り繕い、この日は予定の楽曲を全て演奏してから散会となった。
「随分シンプルな構成なんだな」
滝上の持ち込んだギター機材を見て、ハリーが声を掛けた。
「普段はもっとエフェクターつないだりしてる?」
「いえ、これで全部っす」
「そっか」
ハリーが自分の支度に戻ったところで、ルーシーは備品の入った引き出しから耳栓を取り出して滝上に近付いた。
「耳栓は持ってきたかい?」
ルーシーの問いに滝上は首を傾げる。
「此処じゃあモニターから直接音を聞く事になる。ドラムも近い距離で聞く事になるから、した方がいい」
「そんなのしたら音聞こえ無くないっすか?」
差し出された耳栓を見て、滝上は表情を歪ませる。
「工事現場のイヤーマフとは違うから、必要な音は聞こえるはずだよ。耳を傷めたら話にならない」
「別にいいっすよ、自分、いつもこれでやってるんで」
ルーシーは明らかに眉を顰め、見限る様に踵を返す。見かねたハリーが滝上に耳栓をした方がいいと再度説明をするが、軟骨に開けたピアスに引っかかるとの理由で滝上はそれを断った。
出だしから一抹の不安を抱えたまま始まった滝上とのリハーサルは、次第に軋むような緊張感を増してゆく。
滝上は音楽的な知識を持たないままその才能を開花させたギタリストであったが、合奏となると技術的な部分の未熟さが目立っていた。特に演奏技術の高かったコリーが携わった楽曲ではその未熟さが露わになり、勢いだけでは誤魔化しきれない粗が出る。
かみ合わない演奏と雑なギターの音色にハリーの表情は曇っていく。
「すみません、なんか暑くなってきたんで、上着脱がせてくださいっす」
三曲を終えたところでハリーとルーシーが顔を見合わせていると、滝上は一度ギターを下ろしてパーカーを脱いだ。その姿を見たルーシーは思わず声が出るの口を押さえて誤魔化す。
「……すげぇな、それ」
ハリーの言葉に、滝上は照れ臭そうに笑った。
「これでもまだ完成じゃないんすけどね」
滝上の腕には伝統文様を模した和風の刺青が刻まれており、それは上腕から肩甲骨までの広い範囲へと延びている。
「ケリー、一度メトロノームでやってみて欲しいんだけど、良いかな」
滝上の刺青に圧倒されつつ、ルーシーはケリーに呼びかける。
「え?」
「リズム感、ちょっと確かめたい」
「あ、う、うん……」
ケリーはどことなく戸惑いながらもそれを了承した。
「それじゃあケリー、ギターとボーカルでデュオっぽく頼むよ」
「あ、うん……あ、でも入りだけは合図してくれる?」
「分った」
ルーシーはメトロノームを鳴らし、演奏開始の合図を出した。
ルーシーはメトロノームに合わせて鳴らされるベースを基準に、滝上のギターとケリーの歌声に集中を向け、滝上の手元を注視した。
一方、ハリーはギターソロに入る段階でベースの音を止め、滝上がリフに復帰するのを待った。そして滝上のギターがリフに復帰したところから、メトロノームとギターのリズムはかみ合わなくなる。
ケリーは滝上のギターに合わせるように歌を歌うが、困惑気味にケリーがハリーを見遣った時、ハリーは呆れたような表情を一瞬だけケリーに見せた。
やがてルーシーはメトロノームを止め、滝上を見る。
「滝上君、指を怪我してるのかい?」
「え?」
「ピック、中指でしか支えてないよね」
「あ、あぁ、これっすか?」
滝上は強張った様な右手の指を見せる。
「これ、前の仕事で怪我してから動かなくって」
「それは随分不自由じゃないのかい?」
「あ、大丈夫っす」
あっけらかんとする滝上を前に、ルーシーとハリーは思わず顔を見合わせた。
「それと…‥左手も痛めた事があるのかな? 見た感じ、さっきから小指と薬指が固まってるように見えるんだけど」
「え?」
「パワーコードにしても押さえ方が不自然に見えたんだが」
「あー、これっすね……実は中学の頃に折ってて、なんかいいように動かなくなったんすよ。でも大丈夫っす」
絶句するルーシーの向こうでハリーとケリーは顔を見合わせ、ケリーは引き攣った表情を何とか誤魔化しながら口を開いた。
「ま、まあ、大丈夫なら、それでいいよ……じゃ、残りの曲合わせてみよっか」
ケリーはその場を取り繕い、この日は予定の楽曲を全て演奏してから散会となった。
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