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第二章 Gambling with the Devil
2-9-2 混ざり合わないふたつの存在
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ハリーに離脱の意向を伝えた数日後、ルーシーは鴇田にも離脱の意向を伝えた。その場では年齢の離れたメンバーとの活動に不安がある事、社会的な自粛ムードでかねてから活動に対する意欲が低下していた事を理由として述べ、早急に後任者を探して欲しいと言った。
――金銭的に苦しく、音楽活動もままならないまま音楽に携わって悶々としていた時、声を掛けていただいた事、今でも感謝しています。こんな形で終わらせる事になってしまい、本当に申し訳ありません。
ルーシーの言葉に覚悟を見た鴇田は慰留を諦めた。
ルーシーの去った部屋の中、鴇田は来し方を思い返す。
二十数年前、鴇田はプロデビューを目指したバンドマンであり、幾らかの経済的余裕があった事から専門学校でレコーディングエンジニアの勉強をしていた。
学生としてバンドに参加する鴇田はバイトを掛け持ちしながら活動をする他のメンバーから顰蹙を買っていたが、学校で知り合う事の出来る業界人とは可能な限り接触を図り、プロデビューの為に何をすべきかを模索していた。
そうしてメンバーの目に触れない場所でバンドの為に技術的の習得し、その先を見据えたコネクションの構築に奔走していた鴇田だったが、水面下での努力は報われず、一人だけ学生で気楽に活動しているのが許せないという理不尽な理由で彼はバンドを追放されてしまった。
しかし、皮肉にも業界人とのつながりから鴇田は就職が叶い、立ち上がったばかりの芸能事務所、ブラストバスターで若いバンドマンやアイドルの為に働き始めたのだ。
それから数年、知らない業界ではないが慣れない仕事に翻弄される中、最大の試練がイエロー・リリー・ブーケからテリーが離脱した事だった。
アビーが病気の為に脱退を余儀なくされた事も大きな困難ではあったが、その時はケリーが早々に後任者を見つけてきた事、緊急事態に際し社長やレーベルのプロデューサーまでもが後任探しに奔走した事で、鴇田の負担はそれほどなかった。
だが、テリーの離脱はツアー真っ只中の出来事であり、二週間の間に曲を覚えてステージ出せる人間を探すという無理難題に直面したのだ。
どうやって人材を探すべきか、考える余裕さえなかった鴇田は真っ先に母校の恩師を頼り、適当な人材が居ないか探し出そうとした。そしてその時に紹介されたのが、当時ドラム演奏の講師をしていたルーシーだった。
鴇田とルーシーが初めて対面した時点で、次のライブまで十日余り。恩師は音大卒の教え上手だとルーシーを紹介したが、鴇田が最も懸念したのはその見た目の事だった。仮にサポートメンバーだとしても、他のメンバーからあまりに見劣りする人材を採用する事は出来ないと考えていたのだ。
だが、鴇田の心配は杞憂に終わった。バンドの中心であるケリーとハリーからは少し年上になるが、引き締まった体に整った顔立ち、身長は180センチほどという、まさに求めていた人材が其処に居たのである。
当時のルーシーは生活に窮して荒んだ目つきをしており、垢抜けず鬱屈した影をまとってはいたものの、鴇田にとっては最高の原石であり、メンバーの相性が良ければそのまま採用してもよいと思ったほどである。しかも、リハーサルに呼び出したところでレインと親戚関係にある事も判明し、鴇田はその時に運命を感じていた。
自分がやってきた事の全ては、この為だったのだ、と。
以来十三年あまり、レインの脱退を経てもルーシーは鴇田を恩人としてバンド活動を続けてきたが、その関係は今、鷲塚が連れてきた若いギタリストの加入によって終わろうとしている。それは鴇田の信頼と自尊心を同時に棄損し、彼が守ろうとしたバンドそのものの瓦解さえも招きかねない事態だった。
「どうしたものか」
イエロー・リリー・ブーケの活動に携わった時間は鴇田の人生のほぼ三分の一を占める。バンドが解散を決め、ビジネスがそれを越えられなくなるその瞬間、バンドの寿命が訪れるまで添い遂げる事を彼は望むが、彼自身の人生を鑑みれば、次の仕事を始めるべき分岐点でもある。
「手放すなど……いや、潮時、か」
鴇田は覚悟した。ルーシーがケリーに脱退を告げた後、バンドを次に推し進めるまでが自分の為すべき仕事である、と。
――金銭的に苦しく、音楽活動もままならないまま音楽に携わって悶々としていた時、声を掛けていただいた事、今でも感謝しています。こんな形で終わらせる事になってしまい、本当に申し訳ありません。
ルーシーの言葉に覚悟を見た鴇田は慰留を諦めた。
ルーシーの去った部屋の中、鴇田は来し方を思い返す。
二十数年前、鴇田はプロデビューを目指したバンドマンであり、幾らかの経済的余裕があった事から専門学校でレコーディングエンジニアの勉強をしていた。
学生としてバンドに参加する鴇田はバイトを掛け持ちしながら活動をする他のメンバーから顰蹙を買っていたが、学校で知り合う事の出来る業界人とは可能な限り接触を図り、プロデビューの為に何をすべきかを模索していた。
そうしてメンバーの目に触れない場所でバンドの為に技術的の習得し、その先を見据えたコネクションの構築に奔走していた鴇田だったが、水面下での努力は報われず、一人だけ学生で気楽に活動しているのが許せないという理不尽な理由で彼はバンドを追放されてしまった。
しかし、皮肉にも業界人とのつながりから鴇田は就職が叶い、立ち上がったばかりの芸能事務所、ブラストバスターで若いバンドマンやアイドルの為に働き始めたのだ。
それから数年、知らない業界ではないが慣れない仕事に翻弄される中、最大の試練がイエロー・リリー・ブーケからテリーが離脱した事だった。
アビーが病気の為に脱退を余儀なくされた事も大きな困難ではあったが、その時はケリーが早々に後任者を見つけてきた事、緊急事態に際し社長やレーベルのプロデューサーまでもが後任探しに奔走した事で、鴇田の負担はそれほどなかった。
だが、テリーの離脱はツアー真っ只中の出来事であり、二週間の間に曲を覚えてステージ出せる人間を探すという無理難題に直面したのだ。
どうやって人材を探すべきか、考える余裕さえなかった鴇田は真っ先に母校の恩師を頼り、適当な人材が居ないか探し出そうとした。そしてその時に紹介されたのが、当時ドラム演奏の講師をしていたルーシーだった。
鴇田とルーシーが初めて対面した時点で、次のライブまで十日余り。恩師は音大卒の教え上手だとルーシーを紹介したが、鴇田が最も懸念したのはその見た目の事だった。仮にサポートメンバーだとしても、他のメンバーからあまりに見劣りする人材を採用する事は出来ないと考えていたのだ。
だが、鴇田の心配は杞憂に終わった。バンドの中心であるケリーとハリーからは少し年上になるが、引き締まった体に整った顔立ち、身長は180センチほどという、まさに求めていた人材が其処に居たのである。
当時のルーシーは生活に窮して荒んだ目つきをしており、垢抜けず鬱屈した影をまとってはいたものの、鴇田にとっては最高の原石であり、メンバーの相性が良ければそのまま採用してもよいと思ったほどである。しかも、リハーサルに呼び出したところでレインと親戚関係にある事も判明し、鴇田はその時に運命を感じていた。
自分がやってきた事の全ては、この為だったのだ、と。
以来十三年あまり、レインの脱退を経てもルーシーは鴇田を恩人としてバンド活動を続けてきたが、その関係は今、鷲塚が連れてきた若いギタリストの加入によって終わろうとしている。それは鴇田の信頼と自尊心を同時に棄損し、彼が守ろうとしたバンドそのものの瓦解さえも招きかねない事態だった。
「どうしたものか」
イエロー・リリー・ブーケの活動に携わった時間は鴇田の人生のほぼ三分の一を占める。バンドが解散を決め、ビジネスがそれを越えられなくなるその瞬間、バンドの寿命が訪れるまで添い遂げる事を彼は望むが、彼自身の人生を鑑みれば、次の仕事を始めるべき分岐点でもある。
「手放すなど……いや、潮時、か」
鴇田は覚悟した。ルーシーがケリーに脱退を告げた後、バンドを次に推し進めるまでが自分の為すべき仕事である、と。
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