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第二章 Gambling with the Devil
2-14-5 Pandemonium
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「誰だ! そこに居るのは誰だ! どけ!」
玄関扉の内側からの怒号は、ランがその場を離れた事であっけなく前のめりになる。
「邪魔するんじゃ……」
男はランに掴み掛らんばかりの剣幕で迫るが、間近で見たランの姿に困惑する。
「ちっ、女かよ」
ランのセーターはオーバーサイズなシルエットの女性物で、細身のパンツと相まって傍から見ればランは女性にしか見えない。
相手が男なら殴ってでも排除するのがこの男の信条だが、対象とする人物に情を持つ交際相手の様な女性に手を出せば相手が激昂し、仕事が面倒になる事は知っている。
ランと男が一瞬のにらみ合いになった瞬間、もう一人の男が今を脱し、玄関を開けた。
「あ!」
ランは盛大に声を上げた。その唐突な行為と清涼にもう一人の男はひるむが、既に外へ出た男はにらみ合いから逃れてレインの車へと向かってしまう。だが、車両に押し込めなければレインを連れ去る事は出来ないと考えるリンはその場から動けない。
「おいこら、出て来い、凍死したいのか、馬鹿野郎!」
革靴攻撃にも負けず飛び出してきた男は車の窓を叩くが、中でレインがどうしているのかには気付いていない。
「これは緊急避難です!」
男は口実を叫ぶと、フロントガラスに拳を突っ込んだ。
およそ何が起こるかを察知したレインは男が拳を叩き込むより先に扉を開け、それを盾に車の後方へと逃れたが、盛大な警報装置の悲鳴は深夜の住宅街に広がった。
「くそ、てめぇ!」
男は悲鳴を上げる警報装置に混乱しながらも、車の向こうへと逃げてゆくレインを追いかけようとする。
「ええかげんにせんかい!」
リンの怒号にも男は止まらない。だが、すぐに男の悲鳴が警報音の向こうから上がる。
それは、男の目の前で一瞬の閃光が走り、盛大な煙幕が広がった事によるものだった。
リンは開けられたのが助手席である事からレインが何をしたのかを理解する。一方、突然発火した発煙筒に男は混乱し、その発生源を探して慌てふためいている。
「あーあ……あ」
発煙筒をどうやって始末しようか、辺りを見回したリンの目に留まったのは、冷え切った水の溜まったバケツと蛇口から続くホースだった。
奇声を上げてむせ返りながら発煙筒を探す男に向け、リンはバケツ一杯の水を浴びせた。
「消火消火、火の用心や!」
リンは蛇口を開けてから家の裏手へと回っており、既にホースからは冷水が溢れ出している。
「やめ、おい、やめろ!」
枯れた植木鉢に投げ捨てられた発煙筒と同時に、腰を抜かした男が水浸しにされてゆく。
「喧嘩と火事は江戸の華ゆーけどな、今日日燃えたら有毒ガスしか出ぇへんのや!」
リンは男に水を浴びせつつも、発煙筒の投げられた周囲に水を撒き、すっかり水没した発煙筒を拾い上げた。
一方、発煙筒を植木鉢に投げ捨てたレインは混乱から盲点と化した勝手口に回って屋内へと戻り、トイレに籠城していた。
警報音はいまだ止まず、屋内ではレインの父親と鴇田が言い争い、玄関先ではもう一人の男がランに投げられた靴の直撃を受けて悶絶し、争いを逃れたランはリンに代わって横付けされた車の傍らに立ち尽くす。
だが、途方もない混乱も現実には一瞬の出来事でしかなかった。
程無くして警報音とは周波数の違うサイレンが鳴り響き、横付けされた車両と警報音にただならぬ事態を予見した警察官は拳銃を構えてレイン宅の敷地へと踏み込んだ。
「やっとかいな」
サイレンを聞いたリンは男に背を向けない様にその場を離れ、横付けされた車両の傍でランはへたり込む。
「あぁ、もう煩うてかなわんわ……」
玄関扉の内側からの怒号は、ランがその場を離れた事であっけなく前のめりになる。
「邪魔するんじゃ……」
男はランに掴み掛らんばかりの剣幕で迫るが、間近で見たランの姿に困惑する。
「ちっ、女かよ」
ランのセーターはオーバーサイズなシルエットの女性物で、細身のパンツと相まって傍から見ればランは女性にしか見えない。
相手が男なら殴ってでも排除するのがこの男の信条だが、対象とする人物に情を持つ交際相手の様な女性に手を出せば相手が激昂し、仕事が面倒になる事は知っている。
ランと男が一瞬のにらみ合いになった瞬間、もう一人の男が今を脱し、玄関を開けた。
「あ!」
ランは盛大に声を上げた。その唐突な行為と清涼にもう一人の男はひるむが、既に外へ出た男はにらみ合いから逃れてレインの車へと向かってしまう。だが、車両に押し込めなければレインを連れ去る事は出来ないと考えるリンはその場から動けない。
「おいこら、出て来い、凍死したいのか、馬鹿野郎!」
革靴攻撃にも負けず飛び出してきた男は車の窓を叩くが、中でレインがどうしているのかには気付いていない。
「これは緊急避難です!」
男は口実を叫ぶと、フロントガラスに拳を突っ込んだ。
およそ何が起こるかを察知したレインは男が拳を叩き込むより先に扉を開け、それを盾に車の後方へと逃れたが、盛大な警報装置の悲鳴は深夜の住宅街に広がった。
「くそ、てめぇ!」
男は悲鳴を上げる警報装置に混乱しながらも、車の向こうへと逃げてゆくレインを追いかけようとする。
「ええかげんにせんかい!」
リンの怒号にも男は止まらない。だが、すぐに男の悲鳴が警報音の向こうから上がる。
それは、男の目の前で一瞬の閃光が走り、盛大な煙幕が広がった事によるものだった。
リンは開けられたのが助手席である事からレインが何をしたのかを理解する。一方、突然発火した発煙筒に男は混乱し、その発生源を探して慌てふためいている。
「あーあ……あ」
発煙筒をどうやって始末しようか、辺りを見回したリンの目に留まったのは、冷え切った水の溜まったバケツと蛇口から続くホースだった。
奇声を上げてむせ返りながら発煙筒を探す男に向け、リンはバケツ一杯の水を浴びせた。
「消火消火、火の用心や!」
リンは蛇口を開けてから家の裏手へと回っており、既にホースからは冷水が溢れ出している。
「やめ、おい、やめろ!」
枯れた植木鉢に投げ捨てられた発煙筒と同時に、腰を抜かした男が水浸しにされてゆく。
「喧嘩と火事は江戸の華ゆーけどな、今日日燃えたら有毒ガスしか出ぇへんのや!」
リンは男に水を浴びせつつも、発煙筒の投げられた周囲に水を撒き、すっかり水没した発煙筒を拾い上げた。
一方、発煙筒を植木鉢に投げ捨てたレインは混乱から盲点と化した勝手口に回って屋内へと戻り、トイレに籠城していた。
警報音はいまだ止まず、屋内ではレインの父親と鴇田が言い争い、玄関先ではもう一人の男がランに投げられた靴の直撃を受けて悶絶し、争いを逃れたランはリンに代わって横付けされた車の傍らに立ち尽くす。
だが、途方もない混乱も現実には一瞬の出来事でしかなかった。
程無くして警報音とは周波数の違うサイレンが鳴り響き、横付けされた車両と警報音にただならぬ事態を予見した警察官は拳銃を構えてレイン宅の敷地へと踏み込んだ。
「やっとかいな」
サイレンを聞いたリンは男に背を向けない様にその場を離れ、横付けされた車両の傍でランはへたり込む。
「あぁ、もう煩うてかなわんわ……」
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