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第1章 新しい世界
13 束の間のおやすみ
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目を開けると自分の部屋の見慣れた天井が目に入る。
あれ……?私…どうしたんだっけ?
覚めきっていない頭で記憶を遡る。
確か、殿下が屋敷に来訪して来て、少しお話をして……そのあと……。
そこまで思い返したところで急激に頭が冴えてくる。
そうだ!殿下と話している途中で急に体調が悪くなって、そのまま倒れた……?
朧気ながらも殿下が介抱して下さっていたような……、もしそうなら私はとんでもない事をっ!
「あら、気が付いたのね。良かったわ。体調はどうかしら?」
一人頭を抱えていると聞こえてくる優しい声。頭を動かして声の方を見ると、母様が花のように美しい微笑みを湛えていた。
「母様」
母様は寝台の傍まで歩いてくると、私の額に手をあてる。どうやら熱があるかどうかを確認してくれているらしい。
「熱は引いたようね。良かったわ」
ひんやりとした手が心地良い。けれど熱がないのを確認すると、その心地良さも離れてしまった。
母様は寝台の傍に置いてある椅子にそっと腰を下ろす。
「心配をかけてごめんなさい」
「そんな顔しないで。きっと慣れない事をしたから少し疲れてしまっただけよ」
しゅんとする私を宥める母様。
それにも申し訳なく気が引けてしまって、かけ布団を引っ張りその顔を隠す。
するとそれにクスリと母様は一笑しそっと頭を撫でてくれた。
……迷惑をかけたのに優しい人だな。
「今日はゆっくり休んで、ちゃんと元気になってからレッスンを再開しましょうね。
それと次からは体調が悪くなったら直ぐに教えて頂戴ね」
「…はい、すみません。あっ、母様」
そう言って席を立った母様に、そう言えばと思い出し声を掛けて引き留める。
「どうしたの?」
「あの、ここまで運んで下さったのって……もしかして……」
口籠りながら恐る恐る言葉にすると、それを母様は正しく理解してくれたらしい。
そしてその答えを聞いた時、私が後悔したのも言うまでもない。
「そう。貴方をここまで運んで下さったのは殿下よ。
そして付け加えると私が貴方と殿下の元に駆けつけるまでの間、治癒魔法で処置して下さったのも殿下よ」
「……や、やっぱり」
朧気な意識の中、介抱をしてくれていたのは分かっていたけれど、あれはやはり殿下だったんだっ!
ど、ど、どうしよう!
友人とは言え王太子である殿下に、緊急事態と言っても介抱に魔法まで使わせてしまい、更に意識のない私を部屋まで運ばせてしまったなんて……。
とてつもないご迷惑を……!
今回の件は自分の体調管理が疎かだったから起こった事で、自業自得だ。
それなのに…、私怒られるかな……?
知らず知らずの内に背中に嫌な汗が滲む。
「あの時の殿下はとても凛々しかったわ。普段は可愛い方だけれど、貴方を運ぶ姿はとても頼もしかったわ」
「……」
焦る私とは対照的にその時の事を思い返してうっとりとする母様。しかも何故か凄く嬉しそうなんだけど。
「大丈夫でしょうか…。私殿下に粗相を」
「大丈夫よ。殿下は優しい人。あれくらいで怒ったりしないわ。ただ次に会った時はちゃんとお礼を言うのよ」
「…はい」
「それに殿下も舞姫の事楽しみにしてくれているのでしょう?ならレッスンに励んで、本番でその成果を披露する事がお礼にもなるはずよ」
そっか、言葉だけでなく態度で示すって事だね。
祝祭には国王陛下、王妃様、そして殿下もいらっしゃる。ならばその舞台で殿下にがっかりされないような、立派な舞姫を演じて見せるのが私も役目。
「そうですね。母様、私早く元気になってまたレッスン頑張ります!」
「ええ、私も楽しみにしているわ」
布団から顔を出し元気良く告げると、母様も安心したように笑みを深めた。
「さあ、そろそろ休んだ方が良いわ」
「はい。おやすみなさい、母様」
「おやすみさない、エル」
去り際、母様は私の頭を一撫ですると今度こそ部屋を出ていったのだった。
「良かったわね、エルちゃん」
出ていったのを見計らい降ってくるまた別の声。
「ウル」
ふわふわと宙に漂うウルティナが、子供のような笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
「倒れたときは驚いたわよ」
「ごめんなさい」
倒れた時見られていたのか、と思いながら私は素直に謝る。
「ううん、私の方こそごめんなさい」
すると何故かウルの方が眉を下げ申し訳なさそうな顔をする。
「どうして謝るんです?」
「私が力を使えたら治してあげられたのに」
そう言い今にも泣き出しそうに瞳を潤ませる。その様子がなんとも年相応の幼子に見えてしまい、こちらの方が心が痛くなる。
しかし彼女の純粋な気持ちには嬉しさが込み上げてくる。自然と浮かんだ笑みが零れた。
「ありがとうございます。その気持ちだけで十分ですよ」
そう言ってもまだ心配そうにするウルに、私は片手を伸ばす。先程母様が私にしてくれたように、金に輝く艶やかな髪をゆっくりと撫でていく。
「エルちゃんありがとう。体調が悪いのにごめんね」
「これくらいどうって事ないですよ」
正直言えば完全回復はしていないけれど、それでも笑顔を向けると彼女も笑ってくれた。
「それじゃあ、私はそろそろ行くわ。早く元気になってね、エルちゃん」
彼女はそう言って一瞬にしてその姿を消した。けれど姿は見えなくとも近くにはいてくれているのだろう。その事が今は何よりも心強かった。
色々な人に心配をかけてしまって……。だから早く治さないとね。
そう思い瞼を閉じる。
そう言えば前世でもこんな事があったような。何て前世の記憶に思いを馳せていると、段々と眠気が押し寄せてくる。
それに私は意識を委ね心地良い眠りについたのだった。
あれ……?私…どうしたんだっけ?
覚めきっていない頭で記憶を遡る。
確か、殿下が屋敷に来訪して来て、少しお話をして……そのあと……。
そこまで思い返したところで急激に頭が冴えてくる。
そうだ!殿下と話している途中で急に体調が悪くなって、そのまま倒れた……?
朧気ながらも殿下が介抱して下さっていたような……、もしそうなら私はとんでもない事をっ!
「あら、気が付いたのね。良かったわ。体調はどうかしら?」
一人頭を抱えていると聞こえてくる優しい声。頭を動かして声の方を見ると、母様が花のように美しい微笑みを湛えていた。
「母様」
母様は寝台の傍まで歩いてくると、私の額に手をあてる。どうやら熱があるかどうかを確認してくれているらしい。
「熱は引いたようね。良かったわ」
ひんやりとした手が心地良い。けれど熱がないのを確認すると、その心地良さも離れてしまった。
母様は寝台の傍に置いてある椅子にそっと腰を下ろす。
「心配をかけてごめんなさい」
「そんな顔しないで。きっと慣れない事をしたから少し疲れてしまっただけよ」
しゅんとする私を宥める母様。
それにも申し訳なく気が引けてしまって、かけ布団を引っ張りその顔を隠す。
するとそれにクスリと母様は一笑しそっと頭を撫でてくれた。
……迷惑をかけたのに優しい人だな。
「今日はゆっくり休んで、ちゃんと元気になってからレッスンを再開しましょうね。
それと次からは体調が悪くなったら直ぐに教えて頂戴ね」
「…はい、すみません。あっ、母様」
そう言って席を立った母様に、そう言えばと思い出し声を掛けて引き留める。
「どうしたの?」
「あの、ここまで運んで下さったのって……もしかして……」
口籠りながら恐る恐る言葉にすると、それを母様は正しく理解してくれたらしい。
そしてその答えを聞いた時、私が後悔したのも言うまでもない。
「そう。貴方をここまで運んで下さったのは殿下よ。
そして付け加えると私が貴方と殿下の元に駆けつけるまでの間、治癒魔法で処置して下さったのも殿下よ」
「……や、やっぱり」
朧気な意識の中、介抱をしてくれていたのは分かっていたけれど、あれはやはり殿下だったんだっ!
ど、ど、どうしよう!
友人とは言え王太子である殿下に、緊急事態と言っても介抱に魔法まで使わせてしまい、更に意識のない私を部屋まで運ばせてしまったなんて……。
とてつもないご迷惑を……!
今回の件は自分の体調管理が疎かだったから起こった事で、自業自得だ。
それなのに…、私怒られるかな……?
知らず知らずの内に背中に嫌な汗が滲む。
「あの時の殿下はとても凛々しかったわ。普段は可愛い方だけれど、貴方を運ぶ姿はとても頼もしかったわ」
「……」
焦る私とは対照的にその時の事を思い返してうっとりとする母様。しかも何故か凄く嬉しそうなんだけど。
「大丈夫でしょうか…。私殿下に粗相を」
「大丈夫よ。殿下は優しい人。あれくらいで怒ったりしないわ。ただ次に会った時はちゃんとお礼を言うのよ」
「…はい」
「それに殿下も舞姫の事楽しみにしてくれているのでしょう?ならレッスンに励んで、本番でその成果を披露する事がお礼にもなるはずよ」
そっか、言葉だけでなく態度で示すって事だね。
祝祭には国王陛下、王妃様、そして殿下もいらっしゃる。ならばその舞台で殿下にがっかりされないような、立派な舞姫を演じて見せるのが私も役目。
「そうですね。母様、私早く元気になってまたレッスン頑張ります!」
「ええ、私も楽しみにしているわ」
布団から顔を出し元気良く告げると、母様も安心したように笑みを深めた。
「さあ、そろそろ休んだ方が良いわ」
「はい。おやすみなさい、母様」
「おやすみさない、エル」
去り際、母様は私の頭を一撫ですると今度こそ部屋を出ていったのだった。
「良かったわね、エルちゃん」
出ていったのを見計らい降ってくるまた別の声。
「ウル」
ふわふわと宙に漂うウルティナが、子供のような笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
「倒れたときは驚いたわよ」
「ごめんなさい」
倒れた時見られていたのか、と思いながら私は素直に謝る。
「ううん、私の方こそごめんなさい」
すると何故かウルの方が眉を下げ申し訳なさそうな顔をする。
「どうして謝るんです?」
「私が力を使えたら治してあげられたのに」
そう言い今にも泣き出しそうに瞳を潤ませる。その様子がなんとも年相応の幼子に見えてしまい、こちらの方が心が痛くなる。
しかし彼女の純粋な気持ちには嬉しさが込み上げてくる。自然と浮かんだ笑みが零れた。
「ありがとうございます。その気持ちだけで十分ですよ」
そう言ってもまだ心配そうにするウルに、私は片手を伸ばす。先程母様が私にしてくれたように、金に輝く艶やかな髪をゆっくりと撫でていく。
「エルちゃんありがとう。体調が悪いのにごめんね」
「これくらいどうって事ないですよ」
正直言えば完全回復はしていないけれど、それでも笑顔を向けると彼女も笑ってくれた。
「それじゃあ、私はそろそろ行くわ。早く元気になってね、エルちゃん」
彼女はそう言って一瞬にしてその姿を消した。けれど姿は見えなくとも近くにはいてくれているのだろう。その事が今は何よりも心強かった。
色々な人に心配をかけてしまって……。だから早く治さないとね。
そう思い瞼を閉じる。
そう言えば前世でもこんな事があったような。何て前世の記憶に思いを馳せていると、段々と眠気が押し寄せてくる。
それに私は意識を委ね心地良い眠りについたのだった。
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