20 / 229
第1章 新しい世界
14 二人の舞姫
しおりを挟む
翌日、目を覚ますと体が軽くなっていた。昨日までの体の怠さも嘘のように消えていて驚く。
これも殿下が治癒魔法を施してくれたお陰なのだろう。後でお礼を言わないと。
気持ちも前向きになった事だし、と私は起きて早々着替えを済ませると、レッスンを行っている部屋へと向かったのだった。
中には既に姉様がおり、私に気が付くと姉様は驚いた顔をした後、心配そうに眉を下げ、本当に私が大丈夫なのかどうかをじっと様子を伺い観察しているようだった。
「エルっ、もう動いて大丈夫なの?」
「もう大丈夫です。昨日はぐっすり眠れましたし、母様の治癒で元気になりました」
母様も私が知らない内に治癒を施してくれていたのだろうけれど、その前に殿下が一時的とはいえ治癒を行ってくれたお陰の方が大きい。けれど、今はそれを口外しない方が良い気がして、咄嗟に母様に直してもらったと言っただけ。まあ嘘ではないから良いよね。
「そうなのね。本当に良かったわ。もう無理はしないで、辛かったら直ぐに言うのよ」
「はい」
姉様ったら母様と同じ事言っている。やっぱり親子なんだな、何て微笑ましくなった。
心がほっこりしたけど、いつまでも和んでいるわけにもいかない。気持ちを切り替えて、迷惑をかけてしまった分、しっかりと取り戻さないと!
そう思い私は気合を入れ直したのだった。
それから必死にレッスンを続け、早いもので祝祭までもう間近というところまで来ていた。あの日から体調管理は一層気を付けていた為、その甲斐あり体調を崩す事なくレッスンも順調だった。
倒れてしまってからと言うもの、過保護だった人達(主に父様、母様、姉様)がもっと過保護になってしまい、申し訳なく思いながらもそれは少し引くレベルで……ちょっと怖かった。
その事は困ったなと思っていたのだが、それとは正反対に、暇があれば屋敷に現れていたあの殿下が、あの日以来ぱったりと屋敷に来なくなり、その代わりに手紙が届くようになった事には驚いた。
その届いた手紙には私の事を案じてくれている文章が並んでいて、直接でなく手紙といういつもとは違うやり取りに新鮮さも感じつつ、丁寧な文を読むたびに嬉しさが伴うのだった。
とは言っても皆が皆こんな感じではなくて、舞を教えてくれていたナタリー先生は変わらずで、一時は先生なりの気遣いを感じたけれど、それ以外で私を特別扱いしないでいつも通り接してくれて。私はその事に深く感謝したのだった。
まあその中、ルカには無茶し過ぎだと勿論怒られたのだが……。
そんな日々が続き迎えた祝祭当日。
私は姉様と共に祝祭、舞姫の会場となる宮殿へと来ていた。
ヴァイス宮殿。別名、白き宮殿とも呼ばれる、白を基調とした作りの見る人の目を釘付けにする美しい宮殿。その姿は雪が降った後のように美しく、外装と内装もどこもかしこも真っ白で洗練された建物だった。
神聖さすら感じさせるこの宮殿では、結婚式等にも使用されているらしい。
それにこれは余談だけれど、宮殿と言われているこの建物は元々権力のあったある貴族の屋敷だったとか。
今は勿論住んでいる人はいないけれど、昔は人がいたのかと考えたらとても豪華な生活をしていたんだろうな、と思わず感嘆してしまう。
まあだからこそ今ではこうして国の大切な行事に使用されているのだろうけど。
……それにしても広い。とにかく広い。迷子にならないように気を付けないと。
そんな宮殿の中は思っていた倍以上の広さを誇っていて、足を踏み入れるなり早々に不安になってしまった。どこもかしこも豪華な装飾が施されており、その美しさに目を奪われそうになり、私はフルフルと頭を振り、前を歩く姉様を見失わないようにと必死になって後を追いかける。
そうして何とか迷わずに用意された部屋へと着き、早速お着替えタイム。衣装は勿論普段の服装とは異なり、舞姫用にデザインされたものを着用する。
どんな感じなのかと事前に衣装を見せてもらったが、一言で言うと露出多くないか?だった。
特に肩とお腹と足の部分が。何というか、アラブの綺麗な踊り子さんが着ているような衣装、とでもいえば良いのだろうか。
先程も言ったように両肩が開いており、お腹も見せつけているような印象を受ける。
下は長いスカートになっていて、一部切れ目が入ったスリットタイプ。生地は薄く軽いが、透けて見えてしまいそうで、少しでも風が吹けば舞い上がってしまいそうだった。
スリットになっている為足が出る形だ。
これは人前に出るのが憚れるような衣装だが、歴代の舞姫達も来ていたのだと思うと何だか遠い目になった。
最初は着るのか……って半分諦めていたけれど、駄目押しでこれ以外の衣装は準備できないのかと確認したところ、直ぐに用意すると言われてしまった。こうして何と言う事もなくあっさりと、他の露出の少ない衣装を姉様の分も合わせて二着、用意してもらう事に成功したのだった。
あまりにも簡単に要望が通ってしまい、こちらの方が逆に拍子抜けしてしまう展開となった。
と言う事で、新しく用意された衣装にチェンジ。
こちらの衣装は形は一緒だけど、肩の部分に袖を付けてもらい、スカートの生地も透けないもの、そして大きく裂けていないものに変え、極力露出がないものと仕上がっている。
その代わりとでも言うように、飾りの装飾が増え少し動く度シャラシャラっと音が鳴るのが気になってしまうけれど。
ちなみに、衣装は色違いではあるが姉様とお揃い。姉様の方は瞳の色に合わせた鮮やかなオレンジの衣装。私の方も瞳に合わせてピンクがかった紫の衣装となっている。
更に髪には花姫の象徴である、衣装と同じ色の花の冠が乗り、髪型はお互い変わらないものの、それでも冠が豪華さを十分に醸し出していた。
そんなこんなで豪華な衣装に早変わりした私は、興味本位で姿見の前に立つと何となくクルっとその場で一回りしてみる。
わぁっ、凄い…!これ本当に私?
姿見に映った自分の姿に思わずそんな感想を抱く。普段と違う服装と雰囲気に見惚れそうになり、慌てて頭を振る。
…な、なに自分の姿に見惚れてるの!?これじゃ、あまるでナルシストだよっ!!
自分で自分に突っ込みを入れる始末。
「エル」
そんな自分に見惚れるという行為に幻滅していると、ふと後ろから声がかかった。そのタイミング良くかけられたその声の方へと意識が向いたのは幸いと言えるだろう。
振り向くと準備が済んだらしい姉様がにこりと微笑んでいた。
わぁ!!姉様とっても綺麗。
そんな感想を抱きつつ、自分の事はすっかり忘れて、今度こそ目の前の麗人に見惚れてしまったのだった。
何て言ったって私よりも何倍も綺麗で、なんかもう眩しいくらいだ。
姉様は今十二歳。
前世で言えば小学六年生になるけれど、その年で既にスタイルが良く、その物腰から大人びて見える。だからこういった衣装も、というかなんでも姉様にかかれば似合ってしまうのだ。羨ましいよ、姉様。
私なんてまだまだお子ちゃまだから、胸元も寂しい感じになってしまっているし……。…いや、自分で言ってて悲しいくなるから考えるのをやめよう。
「凄く似合っているわよっ!可愛い!!流石私の妹ねっ!」
私の姿を捉えるなり、べた褒めの嵐。更に姉様は私の小さな体を思い切りギュっと抱きしめてくる。
「わっ!姉様」
勢いよく抱き着かれて倒れそうになるが、興奮状態の姉様に何を言っても無駄だろうと私は諦めの境地になり、最早されるがままだった。
「もう本当に可愛いんだから。誰にも見せたくないわ」
姉様はそう言うと私の頬に自分の頬をくっつける。
姉様ってば…。公の場では控えてるけれど、人の目がないとこんな感じでスキンシップをとって来るから困る。私も大切にされているなって実感するから嬉しいのだけれど、中身が年相応ではない為に抱き着かれる度、その柔らかさをつい自分と比べてしまいショックを受けているのだ。
とは言えそれは私が勝手にショックを受けているだけであって、姉様には悪気はないので怒るに怒れないけれど。
「姉様、そろそろ時間ですよ!行かないと」
「あ、そうね。ごめんなさい」
興奮して周りが見えなくなっていた姉様にそう言うと、直ぐに思考を切り替えて私から手を放してくれる。
そして今の今までの様子が嘘のように、凛々しいものへと変わった。
「大丈夫よ。私が付いているもの」
緊張しているのが伝わったのか、姉様はそう言って私の頭を撫でてくれた。頼もしい姉の姿に心が震え、緊張も些か和らいだ気がする。
「ありがとうございます、姉様」
段々勇気が湧き、私は姉様に笑顔で感謝を述べたのだった。
「失礼致します。お時間となりました。舞姫様方、舞台へと御上がり下さい」
その時、ちょうど使用人の女性が呼びに来たところで、舞台へと私達を促す。
「それじゃ、行きましょうか」
「はいっ!」
いよいよだ、とお互いの顔を見た私達は力強く頷いたのだった。
使用人の女性に案内され、いざ舞台へと上がるとその途端、待ちわびていたと言わんばかりの大きな歓声が四方から上がった。
私達に向けられた歓声の大きさに驚きつつも周囲を見回すと、舞台の前に用意されていた客席が目に入り、その最前列には国王陛下、王妃様、殿下と並んで座っており、その他にも名の知れた貴族の方々の姿も見られた。
その方々からの視線と民の人達の視線とが、舞台に立つ私達二人に一気に注がれる。
しかも殿下が目をキラキラさせて、今にも身を乗り出しそうになっているのが見えてしまい、私はお願いですから大人しくしていて下さい!と心の中で必死にお願いする羽目になったのだった。
けれどそう思ったのも一瞬で、直ぐに自分の役目を思い出し切り替える。
程なくして歓声が治まり、それを見計らい習った通りの動きでゆっくりと一礼する。そして私達が揃って顔を上げると同時に、聴く人の心を魅了するような美しい音楽が流れだす。私達はその音を合図に、音色に合わせ練習通りの舞を舞っていく。
私の中でのイメージとしては、氷の上でスケートを滑るような感覚で体を動かす。クルクルと回る毎に衣装が靡き、衣装に装飾された飾りも涼やかな音を鳴らした。
更に舞台上には演出で花弁が散りばめられ、風が吹くと色とりどりの花弁を空に舞い上がらせていく。その何とも幻想的な光景に観客人達は、誰もが息をするのも忘れて魅入っているようだった。
その中心で舞う私自身、直前まで感じていた緊張感はもうなく、寧ろ楽しいと思っていた。こんなにも華やかな場所で、自分に与えられた役目をこうして果たせる事に喜びで胸がいっぱいになる。
余裕も出来、舞いながら何となく殿下の顔を盗み見ると彼と目が合う。何だかそれだけで嬉しくなってしまい、私はつい笑ってしまった。それに対して殿下は目を見開いて驚いたまま暫し固まっていて、それがまた可笑しくて私はまた笑ってしまったのだった。
漸くレッスンの成果を見せられるのだから、しっかり見ていて下いね、殿下。
心の中で彼にそう語りかけると私は最後の舞を精一杯舞ったのだった。
その後、無事舞は終了し大成功をおさめた。見ていた観客の人達からは始まりの時よりも大きな歓声が上がり、会場全体に響き渡ったのだった。
それを受けて私と姉様はお互い顔を見合わせると、感謝の気持ちを込めて最初と同じく深く一礼する。
疲労感はあるが楽しかった。それにこんなにも喜んでくれる人達がいる。レッスンを頑張ったかいがあったと言うものだ。
沢山の拍手と歓声の中、確かな達成感を感じながら、私達は名残惜しくも舞台を降りて行く。
去り際に国王陛下と王妃様が笑みを浮かべて拍手を送って下さっているのが目に入り、私は感激のあまり涙が浮かびそうになる。
しかしそれをぐっと堪え最後まで笑顔で居続けた。
こうして花弁舞う美しい舞姫の舞台は無事大成功で幕を閉じたのだった。
これも殿下が治癒魔法を施してくれたお陰なのだろう。後でお礼を言わないと。
気持ちも前向きになった事だし、と私は起きて早々着替えを済ませると、レッスンを行っている部屋へと向かったのだった。
中には既に姉様がおり、私に気が付くと姉様は驚いた顔をした後、心配そうに眉を下げ、本当に私が大丈夫なのかどうかをじっと様子を伺い観察しているようだった。
「エルっ、もう動いて大丈夫なの?」
「もう大丈夫です。昨日はぐっすり眠れましたし、母様の治癒で元気になりました」
母様も私が知らない内に治癒を施してくれていたのだろうけれど、その前に殿下が一時的とはいえ治癒を行ってくれたお陰の方が大きい。けれど、今はそれを口外しない方が良い気がして、咄嗟に母様に直してもらったと言っただけ。まあ嘘ではないから良いよね。
「そうなのね。本当に良かったわ。もう無理はしないで、辛かったら直ぐに言うのよ」
「はい」
姉様ったら母様と同じ事言っている。やっぱり親子なんだな、何て微笑ましくなった。
心がほっこりしたけど、いつまでも和んでいるわけにもいかない。気持ちを切り替えて、迷惑をかけてしまった分、しっかりと取り戻さないと!
そう思い私は気合を入れ直したのだった。
それから必死にレッスンを続け、早いもので祝祭までもう間近というところまで来ていた。あの日から体調管理は一層気を付けていた為、その甲斐あり体調を崩す事なくレッスンも順調だった。
倒れてしまってからと言うもの、過保護だった人達(主に父様、母様、姉様)がもっと過保護になってしまい、申し訳なく思いながらもそれは少し引くレベルで……ちょっと怖かった。
その事は困ったなと思っていたのだが、それとは正反対に、暇があれば屋敷に現れていたあの殿下が、あの日以来ぱったりと屋敷に来なくなり、その代わりに手紙が届くようになった事には驚いた。
その届いた手紙には私の事を案じてくれている文章が並んでいて、直接でなく手紙といういつもとは違うやり取りに新鮮さも感じつつ、丁寧な文を読むたびに嬉しさが伴うのだった。
とは言っても皆が皆こんな感じではなくて、舞を教えてくれていたナタリー先生は変わらずで、一時は先生なりの気遣いを感じたけれど、それ以外で私を特別扱いしないでいつも通り接してくれて。私はその事に深く感謝したのだった。
まあその中、ルカには無茶し過ぎだと勿論怒られたのだが……。
そんな日々が続き迎えた祝祭当日。
私は姉様と共に祝祭、舞姫の会場となる宮殿へと来ていた。
ヴァイス宮殿。別名、白き宮殿とも呼ばれる、白を基調とした作りの見る人の目を釘付けにする美しい宮殿。その姿は雪が降った後のように美しく、外装と内装もどこもかしこも真っ白で洗練された建物だった。
神聖さすら感じさせるこの宮殿では、結婚式等にも使用されているらしい。
それにこれは余談だけれど、宮殿と言われているこの建物は元々権力のあったある貴族の屋敷だったとか。
今は勿論住んでいる人はいないけれど、昔は人がいたのかと考えたらとても豪華な生活をしていたんだろうな、と思わず感嘆してしまう。
まあだからこそ今ではこうして国の大切な行事に使用されているのだろうけど。
……それにしても広い。とにかく広い。迷子にならないように気を付けないと。
そんな宮殿の中は思っていた倍以上の広さを誇っていて、足を踏み入れるなり早々に不安になってしまった。どこもかしこも豪華な装飾が施されており、その美しさに目を奪われそうになり、私はフルフルと頭を振り、前を歩く姉様を見失わないようにと必死になって後を追いかける。
そうして何とか迷わずに用意された部屋へと着き、早速お着替えタイム。衣装は勿論普段の服装とは異なり、舞姫用にデザインされたものを着用する。
どんな感じなのかと事前に衣装を見せてもらったが、一言で言うと露出多くないか?だった。
特に肩とお腹と足の部分が。何というか、アラブの綺麗な踊り子さんが着ているような衣装、とでもいえば良いのだろうか。
先程も言ったように両肩が開いており、お腹も見せつけているような印象を受ける。
下は長いスカートになっていて、一部切れ目が入ったスリットタイプ。生地は薄く軽いが、透けて見えてしまいそうで、少しでも風が吹けば舞い上がってしまいそうだった。
スリットになっている為足が出る形だ。
これは人前に出るのが憚れるような衣装だが、歴代の舞姫達も来ていたのだと思うと何だか遠い目になった。
最初は着るのか……って半分諦めていたけれど、駄目押しでこれ以外の衣装は準備できないのかと確認したところ、直ぐに用意すると言われてしまった。こうして何と言う事もなくあっさりと、他の露出の少ない衣装を姉様の分も合わせて二着、用意してもらう事に成功したのだった。
あまりにも簡単に要望が通ってしまい、こちらの方が逆に拍子抜けしてしまう展開となった。
と言う事で、新しく用意された衣装にチェンジ。
こちらの衣装は形は一緒だけど、肩の部分に袖を付けてもらい、スカートの生地も透けないもの、そして大きく裂けていないものに変え、極力露出がないものと仕上がっている。
その代わりとでも言うように、飾りの装飾が増え少し動く度シャラシャラっと音が鳴るのが気になってしまうけれど。
ちなみに、衣装は色違いではあるが姉様とお揃い。姉様の方は瞳の色に合わせた鮮やかなオレンジの衣装。私の方も瞳に合わせてピンクがかった紫の衣装となっている。
更に髪には花姫の象徴である、衣装と同じ色の花の冠が乗り、髪型はお互い変わらないものの、それでも冠が豪華さを十分に醸し出していた。
そんなこんなで豪華な衣装に早変わりした私は、興味本位で姿見の前に立つと何となくクルっとその場で一回りしてみる。
わぁっ、凄い…!これ本当に私?
姿見に映った自分の姿に思わずそんな感想を抱く。普段と違う服装と雰囲気に見惚れそうになり、慌てて頭を振る。
…な、なに自分の姿に見惚れてるの!?これじゃ、あまるでナルシストだよっ!!
自分で自分に突っ込みを入れる始末。
「エル」
そんな自分に見惚れるという行為に幻滅していると、ふと後ろから声がかかった。そのタイミング良くかけられたその声の方へと意識が向いたのは幸いと言えるだろう。
振り向くと準備が済んだらしい姉様がにこりと微笑んでいた。
わぁ!!姉様とっても綺麗。
そんな感想を抱きつつ、自分の事はすっかり忘れて、今度こそ目の前の麗人に見惚れてしまったのだった。
何て言ったって私よりも何倍も綺麗で、なんかもう眩しいくらいだ。
姉様は今十二歳。
前世で言えば小学六年生になるけれど、その年で既にスタイルが良く、その物腰から大人びて見える。だからこういった衣装も、というかなんでも姉様にかかれば似合ってしまうのだ。羨ましいよ、姉様。
私なんてまだまだお子ちゃまだから、胸元も寂しい感じになってしまっているし……。…いや、自分で言ってて悲しいくなるから考えるのをやめよう。
「凄く似合っているわよっ!可愛い!!流石私の妹ねっ!」
私の姿を捉えるなり、べた褒めの嵐。更に姉様は私の小さな体を思い切りギュっと抱きしめてくる。
「わっ!姉様」
勢いよく抱き着かれて倒れそうになるが、興奮状態の姉様に何を言っても無駄だろうと私は諦めの境地になり、最早されるがままだった。
「もう本当に可愛いんだから。誰にも見せたくないわ」
姉様はそう言うと私の頬に自分の頬をくっつける。
姉様ってば…。公の場では控えてるけれど、人の目がないとこんな感じでスキンシップをとって来るから困る。私も大切にされているなって実感するから嬉しいのだけれど、中身が年相応ではない為に抱き着かれる度、その柔らかさをつい自分と比べてしまいショックを受けているのだ。
とは言えそれは私が勝手にショックを受けているだけであって、姉様には悪気はないので怒るに怒れないけれど。
「姉様、そろそろ時間ですよ!行かないと」
「あ、そうね。ごめんなさい」
興奮して周りが見えなくなっていた姉様にそう言うと、直ぐに思考を切り替えて私から手を放してくれる。
そして今の今までの様子が嘘のように、凛々しいものへと変わった。
「大丈夫よ。私が付いているもの」
緊張しているのが伝わったのか、姉様はそう言って私の頭を撫でてくれた。頼もしい姉の姿に心が震え、緊張も些か和らいだ気がする。
「ありがとうございます、姉様」
段々勇気が湧き、私は姉様に笑顔で感謝を述べたのだった。
「失礼致します。お時間となりました。舞姫様方、舞台へと御上がり下さい」
その時、ちょうど使用人の女性が呼びに来たところで、舞台へと私達を促す。
「それじゃ、行きましょうか」
「はいっ!」
いよいよだ、とお互いの顔を見た私達は力強く頷いたのだった。
使用人の女性に案内され、いざ舞台へと上がるとその途端、待ちわびていたと言わんばかりの大きな歓声が四方から上がった。
私達に向けられた歓声の大きさに驚きつつも周囲を見回すと、舞台の前に用意されていた客席が目に入り、その最前列には国王陛下、王妃様、殿下と並んで座っており、その他にも名の知れた貴族の方々の姿も見られた。
その方々からの視線と民の人達の視線とが、舞台に立つ私達二人に一気に注がれる。
しかも殿下が目をキラキラさせて、今にも身を乗り出しそうになっているのが見えてしまい、私はお願いですから大人しくしていて下さい!と心の中で必死にお願いする羽目になったのだった。
けれどそう思ったのも一瞬で、直ぐに自分の役目を思い出し切り替える。
程なくして歓声が治まり、それを見計らい習った通りの動きでゆっくりと一礼する。そして私達が揃って顔を上げると同時に、聴く人の心を魅了するような美しい音楽が流れだす。私達はその音を合図に、音色に合わせ練習通りの舞を舞っていく。
私の中でのイメージとしては、氷の上でスケートを滑るような感覚で体を動かす。クルクルと回る毎に衣装が靡き、衣装に装飾された飾りも涼やかな音を鳴らした。
更に舞台上には演出で花弁が散りばめられ、風が吹くと色とりどりの花弁を空に舞い上がらせていく。その何とも幻想的な光景に観客人達は、誰もが息をするのも忘れて魅入っているようだった。
その中心で舞う私自身、直前まで感じていた緊張感はもうなく、寧ろ楽しいと思っていた。こんなにも華やかな場所で、自分に与えられた役目をこうして果たせる事に喜びで胸がいっぱいになる。
余裕も出来、舞いながら何となく殿下の顔を盗み見ると彼と目が合う。何だかそれだけで嬉しくなってしまい、私はつい笑ってしまった。それに対して殿下は目を見開いて驚いたまま暫し固まっていて、それがまた可笑しくて私はまた笑ってしまったのだった。
漸くレッスンの成果を見せられるのだから、しっかり見ていて下いね、殿下。
心の中で彼にそう語りかけると私は最後の舞を精一杯舞ったのだった。
その後、無事舞は終了し大成功をおさめた。見ていた観客の人達からは始まりの時よりも大きな歓声が上がり、会場全体に響き渡ったのだった。
それを受けて私と姉様はお互い顔を見合わせると、感謝の気持ちを込めて最初と同じく深く一礼する。
疲労感はあるが楽しかった。それにこんなにも喜んでくれる人達がいる。レッスンを頑張ったかいがあったと言うものだ。
沢山の拍手と歓声の中、確かな達成感を感じながら、私達は名残惜しくも舞台を降りて行く。
去り際に国王陛下と王妃様が笑みを浮かべて拍手を送って下さっているのが目に入り、私は感激のあまり涙が浮かびそうになる。
しかしそれをぐっと堪え最後まで笑顔で居続けた。
こうして花弁舞う美しい舞姫の舞台は無事大成功で幕を閉じたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる