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第3章 魔法の世界

8 紅の姫

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唖然として見ていると少女が岩の上から飛び降りて私達の目の前に降り立った。

動作がやけに軽やかで背中に羽でも生えているのかと思うくらい。

そうそう魔法で飛ぶこと自体は出来ない事も無い。でもこの魔法はとにかくコントロールが難しい。だから好き好んで使う人はいない。空中で制御できなくなったら落ちちゃいますからね……。

あ、でもそれはあくまで人の場合で、ウルなどの精霊はまた話が別みたい。

ずっと飛んでいられるみたいだからちょっと羨ましい……。


そのウルは赤髪の少女を凝視。驚いているけど、どこか嬉しそうにも見える。知り合いってこと?

それに直感でしかないけどあの子、人間?

う~ん。考えてもわかんないけど、彼女は何者なんだろう。


「久しいな、ウルティナ」

唐突に声をかけられて、その言葉に私はウルを見上げた。

「本当に久しぶりね。まさかこんな所で会うなんてね」

おお!本当に知り合いのようね。

「ここは妾の庭も同然だ。妾がいてもおかしくはない。むしろお前がいる方が驚く」

「そう言われればそうね」

状況判断が出来ないまま二人の会話は続いていくけど分かったこともある。

赤髪の少女はウルを知っていて、口振りからも随分親しいようだし、それにさっきウルにお前って言っていたし、なんか凄いな。

いくら幼い容姿をしていると言っても精霊だからね、ウルは。それと自分のことを妾って言っていたよね。

位の高い人ってことなのかな?今までそんな言い方聞いたことないし、小説でしかないかもしれない。

「あ、そうだわ。紹介するわね、私のお友達のエルちゃんよ」

「えっ、あ、えっと…、エルシア・シェフィールドと言います」

ウルが急に顔を輝かせたかと思ったら突然話を振られて慌てる私。

「そうか」

そう言って赤髪の少女は今度は私を凝視してきた。それに私はぱちくりさせながら見返す。

暫くすると視線をそらして一人呟いた。

「……似ているな」

「そうでしょうね」

意味が分からず何も言えない私に代わってウルが答える。

「だから一緒にいるのか?」

「……どうかしら。自分でもよく分からないわ」

「そうか」

どこか遠い昔を思い返して惜しんでいるみたい。そんな二人の間に入れなくてどうしようかと戸惑っていると、

「ああ、そう言えば怪我はないか?」

思い出したように少女が私に声をかける。

「あ、はい。助けていただきありがとうございました」

私がそう言うとほっとした表情を見せた。

「ならば良かった」

「あの……」

名前も聞いていないからなんて呼べばわからなくて言葉に詰まっていると、それを察したようで少女があとを続ける。

「すまない、まだ名乗っていなかったな。妾は――」



「姫様!!こんなところにいたのですかっ!探しましたよ」

まるでタイミングを見計らったかのように少女の言葉を遮る声。その人物は酷く慌てた様子でこちらに駆け寄って来る。

少女が振り返って声の主を見たから私も同じように視線を移してみる。

視線の先には慌ててこちらに歩みよってくる一人の少年の姿があった。年はルカと同じくらいか少し年上くらいかな?髪は緑色で瞳は赤色。何となくそれだけで兄弟かと思ってしまう。

さっきの会話からそれは無いなと思うけど、姫様って何……?

「遅いぞクラウスっ!」

「申し訳ございません」

「足止めでもくらったのか?」

「はい。少々手間取りました」

私たちの目の前で何やら物騒なこと?を話している二人。


「あの……、御二人は一体……」

すっかり二人の世界に入ってしまった二人に恐る恐る話しかけると、それに気づいてクラウスさんが咳ばらいを一つしてこちらに向き直った。

「申し訳ありません。このようなところをお嬢さんに見られてしまうとは。失礼しました。私はクラウスと申します」

謝罪と自己紹介をしながら優雅にお辞儀をして、それから隣にいる少女を見て紹介するように、

「そしてこちらは我がアインフェルト王国を統治しておられる、ルリアーナ様でございます」

ニッコリと優しく微笑むクラウスさん。唖然とする私。

「それからウルティナ様も、お久しぶりでございます」

「ええ、久しぶり。クラウスちゃんも元気そうでなによりだわ」

少女からウルへ視線が移ったかと思ったら、さっきと同じような会話が繰り返される。

少女だけでなく少年とも知り合いのようで、久しぶりに会えた友達との再会をお互い嬉しそうにしていた。

少女と青年、そしてウルをただただ見返すばかりの私。でもさっきの言葉を思い返して、一歩遅れての一言、

「じょ、女王様……?」

一歩遅れてようやく出た一言がそれだった。驚くことばかり次々と起こって状況を理解するのに時間がかかった。

三人が知り合いってことにも驚いているけど、それよりも目の前の少女が王国を統治している人物で、所謂女王様ってことなわけで。

色々想定外すぎて何から言葉にすればいいのやら。だってまさかだもの。まさか女王様がこんなところにいるなんて思いませんよ。

そしてウルとはどう言った関係なのかも気になるし、会話も気になる。



私が誰かに似ている……?


「ルリアーナ・リーリス・アインフェルト。これが妾の名前だ」

改めて名乗りをあげる少女ーールリアーナ様。そこでようやく気づく。なるほど。

王家の方だったから何となく知ってるような、感じたことがあるような雰囲気があったのかと。

そう言えば私は自国の王子様と友人でした。王家独特の威厳を放つオーラ?そう言うの考えてみれば殿下にもあったかも。

と言うか私ってどうしてこうも王族の方々と関りを持ってしまうのでしょうか……。


「エルシアと言ったな。お前の着ているその服はエスワール魔法学院のものだな?」

「は、はい。御存じなのですか?」

「まあそれくらいは知っているさ。それでお前はそこの生徒なのだろう?」

「はい。おっしゃる通りです」

それから私はここに来るまでの経緯を簡単に女王様に話しそれを聞いた彼女は頷くと、

「なるほど、そうだったか。ではこのままお前をここで足止めしておくわけにはいかないな。また日を改めてお前を妾の城に招待しよう。構わないか?」

思わぬ方向に展開していく話に一瞬どうしたらいいのか分からなくなって返答に困る。

「は、はい」

でも女王様からの招待はさすがに断れない。

「そうか。ああ、そこに転がっている輩は後で妾の配下の者に片付けさせる。お前は気にせず帰るんだ。ウルティナ、彼女を頼むぞ」

「ええ、任せて」

「よし、行くぞクラウス」

「はい。それではエルシア様、ウルティナ様また後日に。失礼致します」

そう言い残し二人は元来た道を戻って行ってしまった。

後に残るのは理解が追いつかずポカーンとする私と、嬉しそうな表情のウルと、さっき倒して拘束魔法で拘束され、床に倒れている男達だけ。


暫くしてようやく落ち着いてきて、仕方がないから私達も宿へと戻って行った。


この時は混乱してて忘れては行けないことをすっかり忘れていて、そのことに気づいたのは宿へ帰ってからの話。

そして宿へ戻り、一人で行ったことをユキに怒られるのも少し後の話……。
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