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第7章 Memory~二人の記憶~
4 回りだす歯車
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「お前達は『前世』と言うものを信じるか?」
ルリ様から放たれたその言葉に私は心臓が飛び出るかと思う程驚いた。
まさかそのワードが今、それもこんなに緊迫した状況で出てくるなんて思わないもの。
もし何か口に含んでいたなら噴き出していたかもしれない……。
口に何も入っていなくて良かったと心底思う……。
「は?前世?」
私はその動揺を隠す事に必死で咄嗟に返事を返せなかったけど、代わりにレヴィ君が反応してくれた。
私と違ってレヴィ君はルリ様の言葉に不信感と言うか、いきなり突拍子もない事を言われて、何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げていた。
まあその反応が普通だよね。
レヴィ君と同じく、声には出さないもののルカも首を傾げ、ルリ様の次の言葉を待っているようだった。
「いきなりそんな事を言われても意味が分からない、と言った顔だな。だが何もふざけてこんな事を聞いているわけではない。妾は本気だ」
冗談を言う事だって多少はあるけど、ふざけちゃいけない場所で冗談を言う人じゃないし、ルリ様がふざけていない事はこの場にいる全員が分かっているだろうけど……。
「……そんな事をいきなり言われてもな。前世なんて考えた事もないしな」
「僕も言葉は知っていても深く考えた事はありませんね」
ルリ様の真剣な表情に二人は渋々己の思っている事を口にし、その返答を聞いたルリ様は口元に手を当てながら一人唸り、それから私に視線を向けてきた。
「そうか。エルはどうだ?……エル?」
「は、はいっ」
声を掛けられても咄嗟に反応できなかった私を不思議に思ったのか、ルリ様は私の顔を覗き込むようにしてもう一度名前を呼ぶ。
それに一瞬遅れて返事をして、訝し気に見つめてくるルリ様に私は精一杯の笑顔を見せた。
「どうした?」
「いえ、何でもありません。えっと、前世、の事ですよね?私も言葉は知っていますがそこまで考えた事はありませんね」
私はそう言い切った。けど実際は心苦しくて仕方ない。だって今言った事は嘘、だから。
それに自分が一番良く知っていて馴染みのある言葉なんだから。
でもそれを他の人の口から聞いた瞬間、こんなにも動揺するなんて思ってもみなくて、そんな自分に一番驚いてしまったけど。
なんとなく、私が生まれ変わりをしていて、前世の記憶も全て覚えているって事を話さないといけない時がいつか来るんじゃないかってずっと思ってた。
でも話せなかったんだ。それは単に馬鹿にされるとか、信じてもらえないからとか、そういう理由じゃなくて今の自分と前に自分。同じであるように見えて違う存在。
前世の記憶があるからってもう前の私の人生は終わっていて、今はこの世界のエルシアとして新しい人生を歩んでいるわけで。
う~ん、何て言ったらいいのかな?
今この世界で生きる私にとって大切な人達は勿論この世界の私しか知らない。
そんな私が実は生まれ変わりで、前世の記憶を持っているなんて言っても混乱させてしまうだけだし、せっかく平穏な日々を送れているのに、それを敢えて自分から壊しに行く必要なんてない。
だったら誰にも真実は言わないで自分だけが知っていれば良いんじゃないかって。ただ前世の記憶がこの世界で役に立つならそれを有効活用しようと思っていたってだけで。
つまりは、私はこの世界の人達には今の私自信を見てほしいんだよね。
前世の記憶の事を話せば、中には貴重だと言って欲しがる人がいるかもしれない。
それは今の生活を脅かされる事になるし、私の望んだ幸せな人生を目指す事が叶わなくなる。
だからそうならないためにも、危険な芽は摘み取っておくのがセオリーってものでしょ!
何か良い事言っているようで結局のところ、自分のために行動しているだけなんだけどね……。
語りすぎた……。そろそろ本題に戻ろう。
と言うかルリ様がそんな突拍子もない事を聞いて来たって事もだけど、一番は私達に話があると言ってここに集めたのに、どうして前世なんて事を聞いてきたのかって事だよね?
理由は分からないけど、何かがあってそのワードが浮かび上がって来たって事だよね。
ルリ様と前世なんて言葉、全然結びつかないし。
「……そうだな。普通に生きていればそんな事考える事もないか」
「急にどうしたんですか?そんな話をこの場で敢えてするなんて」
何気なく問いかけた私にルリ様は答えず沈黙し、何かを考えている様子を見せた後、静かに口を開いた。
「お前達に言っておかなければならない話があると言っただろう?今話したのはそれに繋がっているかもしれない事なんだ」
「一体どういう事なんだ?」
レヴィ君が興味深そうに前のめりになって話を促す。
少し興奮しているのかレヴィ君、口調がさっきまでと違っていつも通りに戻っちゃってますけどね。
でもルリ様はもうそんな事はどうでも良いみたいで、咎める事もないからまあ良かったけど。
「以前妾はお前達二人と良く似た、いや瓜二つと言っても過言ではない人物に会った事がある」
「正確にはその人物と姫様は友人関係だったのです」
ルリ様の発言にクラウスさんが更に説明を付け加えると、それにルリ様は一つ頷き言葉を続けた。
「そうだな。あの二人とは友人と呼べる仲だったと妾は思っている」
その二人の人物の事を思い出しているのか、どこか懐かしそうな表情を浮かべるルリ様。
「あの、その二人はそんなに私達に似ているんですか?それに友人関係だった、ってまるで今はそうではないような言い方でしたけど」
「ああ、本当にそっくりだ。それに友人関係だった、と言うのは間違えてはいない。二人にはもう会えないのだから」
それって、まさか……。
「察していると思うが既に二人はこの世にはいない。そして二人が生きていたのは今から、そうだな妾にとってはつい先日の事のように感じるがお前達からしたら五百年以上は昔の事になる」
「えっ!?五百年以上も前……ですか?」
またしても突拍子もない数字に度肝を抜かれる事になった。
確かにルリ様は人間ではないし、長生きもするって知っているけど、五百年以上前って……。いや、凄いね。
正体を知っていても、ついルリ様の可憐な外見を見ているとその事を忘れがちになっちゃうんだよね……。
そう考えると改めてヴァンパイアって種族は長生きなんだなって思い知らされる。
「なるほどな。それで俺達にそんな話をしたってわけか」
驚く私とは反対に合点がいったと納得したように呟くレヴィ君。
「察しが良いな。そうだ、妾の言いたい事はもう分かっただろう?」
「ああ、俺達があんたの友人とやらの生まれ変わりかもしれない。そう言いたいんだな?」
え……。えっ!?
待って待って、それはおかしくない?
えっと確かに生まれ変わりも前世もあるよ。現に私生まれ変わっているし、前世の記憶もあるからね。
でもこうして一度私は生まれ変わりをしているわけで、だからレヴィ君はともかく、私はルリ様の言うその話とは関係ないんじゃないのかなって思いますけど……。
「そうだ。こんな事、正直妾でも馬鹿げていると思う反面、そうなのではとどこか疑問もあった。だが先日それが確信に変わったんだ」
ルリ様は凄く真剣な眼差しで私達を見つめる。こんな話やめましょうと言いたいところだけど、彼女の鋭い瞳がそれを許さない。
ルリ様は確かに真剣なんだけど、少し必死なようにも見えて、それはただ真相を知りたいだけじゃなさそうだ。
「どうして確信を持てたんですか?」
黙り込んでしまった私に代わってルカが話を繋げてくれる。
「お前達なら良く知っているはずだ。先日行われた魔法乱舞。そこでの事だ」
そう言うとルリ様はクラウスさんに目配せし、それを受けたクラウスさんは頷くと彼女に代わって話しだした。
クラウスさんの話は今言った魔法乱舞での出来事。
彼は先日行われた魔法乱舞の会場にいて、私達の対戦を陰ながら見守っていてくれていたらしい。
でも彼はそこで思わぬ人物を目撃した。
それがここにいるレヴィ君で、そしてその事がきっかけでルリ様の考えは確信へと変わったらしい。
ルリ様はその友人と言っていた二人の内の一人と私の容姿がそっくりな事に初めて会った時に気づいた。確かにあの時、ルリ様は驚いていた。でもそれは単なる偶然だと思っていたんだけど、そこでもう一人の人物、レヴィ君がその人ともそっくりであったため、流石にこれは偶然ではないと悟ったらしい。
そして極めつけは……。
「レヴィ、お前首飾りを持っているか?」
「ああ、持っているが」
「見せてくれ」
そう言うルリ様にレヴィ君は先日私にも見せてくれた首飾りを首から外すと彼女に渡し、それを見たルリ様は明らかに表情を変えた。
「……これだ。やはり、そうか」
首飾りを見て彼女はなにか一人で呟いていた。
「その首飾りが関係あるのか?」
「そうだ。だがその話は順番にするとしよう。ところでエル」
そこまで言うとルリ様は何故か私を呼んだ。
「は、はい」
「今日はウルティナと一緒ではないのか?」
「えっ、ウルですか?えっと最近はあまり会えていなくて……」
急にこの場にはいない、ウルの事を話に出されて返事が曖昧になってしまった。
それにルリ様、クラウスさん、そしてルカの三人はウルの事を知っているから良いけど、レヴィ君にはまだウルの事を言っていなかった気がするんだけど……。
「おい、ウルティナって誰の事だよ」
……やっぱりそうだよね。どうしよう……、話して良いの?でもウル本人に聞いてからの方が良いんじゃ?
「エルを守護している光の精霊だ」
ああ!ルリ様言っちゃって良いの?それ!
私が慌てているのにルリ様は慌てる事なく冷静に淡々としている。
「は?精霊?」
ほら困惑しているよ。どうするんですかルリ様!
「落ち着けエル。レヴィに話したところで問題はない」
そう言って私を落ち着けようとするルリ様だけど、全然落ち着けないんですけど!
正直そこまで話してしまっても何とか言ってごまかそう、とか思っていたくらい慌ててるんだけど。
「なるほどな。規格外だとは思っていたがここまでとはな」
あ、あれ?
レヴィ君はそう言って笑った。何か可笑しな事言った覚えはないけど……、ひとまず問いただされる心配はないみたいだから安心したけど。
「それでその精霊がどうしたって?」
割とあっさり納得してくれたな、なんて思っていると今度はレヴィ君の方から興味深そうに聞いてくる。
「ふふふ、お前も大概だが、まあ良い。この話し合いにはウルティナもいた方が都合が良いだろうと思ってな」
都合が良い?それってどう言う?
「どうしてかと言いたそうだなエル。だがそれも順番に話すから今は待ってくれ」
私の考えを察してルリ様は申し訳なさそうに告げると、その視線を宙に向けて呼びかけた。
「いるんだろう?そろそろ姿を現してくれ」
ここにはいないはずのもう一人の人物へと声を掛けるルリ様。その瞬間、その声に反応するように部屋にぱっと光が走り、眩しくて目を閉じてしまったけど光が消えてからもう一度目を開くとそこには見慣れた幼女の姿があった。
「ようやく姿を現してくれたな、ウルティナ」
「仕方なくよ、仕方なく」
宙に浮いたままの幼女と椅子に腰かけ見上げる形で会話をするルリ様。
そんな二人を私達は黙って見ていたけど。
「ウル……っ!」
感極まりつい呼び掛けてしまう。最近姿を見せてくれなかったウルをこうして見る事が出来て、そして元気そうな姿を見れて私は心底安堵してしまったんだ。
「エルちゃん……、ごめんなさい心配をかけてしまったようね。姿は見せなかったけど私はずっと貴方の傍にいたのよ。魔法乱舞の時もずっと傍で応援していたんだから」
「そうだったんですね。とにかく良かったです。またこうして会えて……」
久しぶりの再会を喜ぶ私達、それを見守るルリ様達。でもその中でレヴィ君だけは驚きを隠せないでいた。
「この小さいのが精霊……」
「ふふふ。如何にも!私が光の精霊、ウルティナよ。確かに見た目は小さい女の子だけど、こう見えて貴方よりも遥かに年上で力も強力なのよ」
満面の笑みをたたえて名乗るウルだけど、言葉にところどころ棘があるような……。
レヴィ君に小さいって言われた事、結構気にしているんだね。
「再会を喜んでいるところ悪いが、話を続けさせてもらうぞ」
場の空気が一瞬和んだけどそれもルリ様の一言でまた緊張感がその場を支配する。
でも全員が口出しする事なく、真剣な表情でルリ様に注目し次の言葉を待った。
「ではまず昔話を聞いてほしい。先程言った妾の友人、二人の少年と少女の話を……」
一度区切り、私達全員へと視線を巡らせてからゆっくりと語りだす。
「今から五百年以上前、人々の争いが絶えなかった頃の話だ――」
それは少年と少女の過酷な運命、そして二人が必死に生きようとした世界の物語――――
ルリ様から放たれたその言葉に私は心臓が飛び出るかと思う程驚いた。
まさかそのワードが今、それもこんなに緊迫した状況で出てくるなんて思わないもの。
もし何か口に含んでいたなら噴き出していたかもしれない……。
口に何も入っていなくて良かったと心底思う……。
「は?前世?」
私はその動揺を隠す事に必死で咄嗟に返事を返せなかったけど、代わりにレヴィ君が反応してくれた。
私と違ってレヴィ君はルリ様の言葉に不信感と言うか、いきなり突拍子もない事を言われて、何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げていた。
まあその反応が普通だよね。
レヴィ君と同じく、声には出さないもののルカも首を傾げ、ルリ様の次の言葉を待っているようだった。
「いきなりそんな事を言われても意味が分からない、と言った顔だな。だが何もふざけてこんな事を聞いているわけではない。妾は本気だ」
冗談を言う事だって多少はあるけど、ふざけちゃいけない場所で冗談を言う人じゃないし、ルリ様がふざけていない事はこの場にいる全員が分かっているだろうけど……。
「……そんな事をいきなり言われてもな。前世なんて考えた事もないしな」
「僕も言葉は知っていても深く考えた事はありませんね」
ルリ様の真剣な表情に二人は渋々己の思っている事を口にし、その返答を聞いたルリ様は口元に手を当てながら一人唸り、それから私に視線を向けてきた。
「そうか。エルはどうだ?……エル?」
「は、はいっ」
声を掛けられても咄嗟に反応できなかった私を不思議に思ったのか、ルリ様は私の顔を覗き込むようにしてもう一度名前を呼ぶ。
それに一瞬遅れて返事をして、訝し気に見つめてくるルリ様に私は精一杯の笑顔を見せた。
「どうした?」
「いえ、何でもありません。えっと、前世、の事ですよね?私も言葉は知っていますがそこまで考えた事はありませんね」
私はそう言い切った。けど実際は心苦しくて仕方ない。だって今言った事は嘘、だから。
それに自分が一番良く知っていて馴染みのある言葉なんだから。
でもそれを他の人の口から聞いた瞬間、こんなにも動揺するなんて思ってもみなくて、そんな自分に一番驚いてしまったけど。
なんとなく、私が生まれ変わりをしていて、前世の記憶も全て覚えているって事を話さないといけない時がいつか来るんじゃないかってずっと思ってた。
でも話せなかったんだ。それは単に馬鹿にされるとか、信じてもらえないからとか、そういう理由じゃなくて今の自分と前に自分。同じであるように見えて違う存在。
前世の記憶があるからってもう前の私の人生は終わっていて、今はこの世界のエルシアとして新しい人生を歩んでいるわけで。
う~ん、何て言ったらいいのかな?
今この世界で生きる私にとって大切な人達は勿論この世界の私しか知らない。
そんな私が実は生まれ変わりで、前世の記憶を持っているなんて言っても混乱させてしまうだけだし、せっかく平穏な日々を送れているのに、それを敢えて自分から壊しに行く必要なんてない。
だったら誰にも真実は言わないで自分だけが知っていれば良いんじゃないかって。ただ前世の記憶がこの世界で役に立つならそれを有効活用しようと思っていたってだけで。
つまりは、私はこの世界の人達には今の私自信を見てほしいんだよね。
前世の記憶の事を話せば、中には貴重だと言って欲しがる人がいるかもしれない。
それは今の生活を脅かされる事になるし、私の望んだ幸せな人生を目指す事が叶わなくなる。
だからそうならないためにも、危険な芽は摘み取っておくのがセオリーってものでしょ!
何か良い事言っているようで結局のところ、自分のために行動しているだけなんだけどね……。
語りすぎた……。そろそろ本題に戻ろう。
と言うかルリ様がそんな突拍子もない事を聞いて来たって事もだけど、一番は私達に話があると言ってここに集めたのに、どうして前世なんて事を聞いてきたのかって事だよね?
理由は分からないけど、何かがあってそのワードが浮かび上がって来たって事だよね。
ルリ様と前世なんて言葉、全然結びつかないし。
「……そうだな。普通に生きていればそんな事考える事もないか」
「急にどうしたんですか?そんな話をこの場で敢えてするなんて」
何気なく問いかけた私にルリ様は答えず沈黙し、何かを考えている様子を見せた後、静かに口を開いた。
「お前達に言っておかなければならない話があると言っただろう?今話したのはそれに繋がっているかもしれない事なんだ」
「一体どういう事なんだ?」
レヴィ君が興味深そうに前のめりになって話を促す。
少し興奮しているのかレヴィ君、口調がさっきまでと違っていつも通りに戻っちゃってますけどね。
でもルリ様はもうそんな事はどうでも良いみたいで、咎める事もないからまあ良かったけど。
「以前妾はお前達二人と良く似た、いや瓜二つと言っても過言ではない人物に会った事がある」
「正確にはその人物と姫様は友人関係だったのです」
ルリ様の発言にクラウスさんが更に説明を付け加えると、それにルリ様は一つ頷き言葉を続けた。
「そうだな。あの二人とは友人と呼べる仲だったと妾は思っている」
その二人の人物の事を思い出しているのか、どこか懐かしそうな表情を浮かべるルリ様。
「あの、その二人はそんなに私達に似ているんですか?それに友人関係だった、ってまるで今はそうではないような言い方でしたけど」
「ああ、本当にそっくりだ。それに友人関係だった、と言うのは間違えてはいない。二人にはもう会えないのだから」
それって、まさか……。
「察していると思うが既に二人はこの世にはいない。そして二人が生きていたのは今から、そうだな妾にとってはつい先日の事のように感じるがお前達からしたら五百年以上は昔の事になる」
「えっ!?五百年以上も前……ですか?」
またしても突拍子もない数字に度肝を抜かれる事になった。
確かにルリ様は人間ではないし、長生きもするって知っているけど、五百年以上前って……。いや、凄いね。
正体を知っていても、ついルリ様の可憐な外見を見ているとその事を忘れがちになっちゃうんだよね……。
そう考えると改めてヴァンパイアって種族は長生きなんだなって思い知らされる。
「なるほどな。それで俺達にそんな話をしたってわけか」
驚く私とは反対に合点がいったと納得したように呟くレヴィ君。
「察しが良いな。そうだ、妾の言いたい事はもう分かっただろう?」
「ああ、俺達があんたの友人とやらの生まれ変わりかもしれない。そう言いたいんだな?」
え……。えっ!?
待って待って、それはおかしくない?
えっと確かに生まれ変わりも前世もあるよ。現に私生まれ変わっているし、前世の記憶もあるからね。
でもこうして一度私は生まれ変わりをしているわけで、だからレヴィ君はともかく、私はルリ様の言うその話とは関係ないんじゃないのかなって思いますけど……。
「そうだ。こんな事、正直妾でも馬鹿げていると思う反面、そうなのではとどこか疑問もあった。だが先日それが確信に変わったんだ」
ルリ様は凄く真剣な眼差しで私達を見つめる。こんな話やめましょうと言いたいところだけど、彼女の鋭い瞳がそれを許さない。
ルリ様は確かに真剣なんだけど、少し必死なようにも見えて、それはただ真相を知りたいだけじゃなさそうだ。
「どうして確信を持てたんですか?」
黙り込んでしまった私に代わってルカが話を繋げてくれる。
「お前達なら良く知っているはずだ。先日行われた魔法乱舞。そこでの事だ」
そう言うとルリ様はクラウスさんに目配せし、それを受けたクラウスさんは頷くと彼女に代わって話しだした。
クラウスさんの話は今言った魔法乱舞での出来事。
彼は先日行われた魔法乱舞の会場にいて、私達の対戦を陰ながら見守っていてくれていたらしい。
でも彼はそこで思わぬ人物を目撃した。
それがここにいるレヴィ君で、そしてその事がきっかけでルリ様の考えは確信へと変わったらしい。
ルリ様はその友人と言っていた二人の内の一人と私の容姿がそっくりな事に初めて会った時に気づいた。確かにあの時、ルリ様は驚いていた。でもそれは単なる偶然だと思っていたんだけど、そこでもう一人の人物、レヴィ君がその人ともそっくりであったため、流石にこれは偶然ではないと悟ったらしい。
そして極めつけは……。
「レヴィ、お前首飾りを持っているか?」
「ああ、持っているが」
「見せてくれ」
そう言うルリ様にレヴィ君は先日私にも見せてくれた首飾りを首から外すと彼女に渡し、それを見たルリ様は明らかに表情を変えた。
「……これだ。やはり、そうか」
首飾りを見て彼女はなにか一人で呟いていた。
「その首飾りが関係あるのか?」
「そうだ。だがその話は順番にするとしよう。ところでエル」
そこまで言うとルリ様は何故か私を呼んだ。
「は、はい」
「今日はウルティナと一緒ではないのか?」
「えっ、ウルですか?えっと最近はあまり会えていなくて……」
急にこの場にはいない、ウルの事を話に出されて返事が曖昧になってしまった。
それにルリ様、クラウスさん、そしてルカの三人はウルの事を知っているから良いけど、レヴィ君にはまだウルの事を言っていなかった気がするんだけど……。
「おい、ウルティナって誰の事だよ」
……やっぱりそうだよね。どうしよう……、話して良いの?でもウル本人に聞いてからの方が良いんじゃ?
「エルを守護している光の精霊だ」
ああ!ルリ様言っちゃって良いの?それ!
私が慌てているのにルリ様は慌てる事なく冷静に淡々としている。
「は?精霊?」
ほら困惑しているよ。どうするんですかルリ様!
「落ち着けエル。レヴィに話したところで問題はない」
そう言って私を落ち着けようとするルリ様だけど、全然落ち着けないんですけど!
正直そこまで話してしまっても何とか言ってごまかそう、とか思っていたくらい慌ててるんだけど。
「なるほどな。規格外だとは思っていたがここまでとはな」
あ、あれ?
レヴィ君はそう言って笑った。何か可笑しな事言った覚えはないけど……、ひとまず問いただされる心配はないみたいだから安心したけど。
「それでその精霊がどうしたって?」
割とあっさり納得してくれたな、なんて思っていると今度はレヴィ君の方から興味深そうに聞いてくる。
「ふふふ、お前も大概だが、まあ良い。この話し合いにはウルティナもいた方が都合が良いだろうと思ってな」
都合が良い?それってどう言う?
「どうしてかと言いたそうだなエル。だがそれも順番に話すから今は待ってくれ」
私の考えを察してルリ様は申し訳なさそうに告げると、その視線を宙に向けて呼びかけた。
「いるんだろう?そろそろ姿を現してくれ」
ここにはいないはずのもう一人の人物へと声を掛けるルリ様。その瞬間、その声に反応するように部屋にぱっと光が走り、眩しくて目を閉じてしまったけど光が消えてからもう一度目を開くとそこには見慣れた幼女の姿があった。
「ようやく姿を現してくれたな、ウルティナ」
「仕方なくよ、仕方なく」
宙に浮いたままの幼女と椅子に腰かけ見上げる形で会話をするルリ様。
そんな二人を私達は黙って見ていたけど。
「ウル……っ!」
感極まりつい呼び掛けてしまう。最近姿を見せてくれなかったウルをこうして見る事が出来て、そして元気そうな姿を見れて私は心底安堵してしまったんだ。
「エルちゃん……、ごめんなさい心配をかけてしまったようね。姿は見せなかったけど私はずっと貴方の傍にいたのよ。魔法乱舞の時もずっと傍で応援していたんだから」
「そうだったんですね。とにかく良かったです。またこうして会えて……」
久しぶりの再会を喜ぶ私達、それを見守るルリ様達。でもその中でレヴィ君だけは驚きを隠せないでいた。
「この小さいのが精霊……」
「ふふふ。如何にも!私が光の精霊、ウルティナよ。確かに見た目は小さい女の子だけど、こう見えて貴方よりも遥かに年上で力も強力なのよ」
満面の笑みをたたえて名乗るウルだけど、言葉にところどころ棘があるような……。
レヴィ君に小さいって言われた事、結構気にしているんだね。
「再会を喜んでいるところ悪いが、話を続けさせてもらうぞ」
場の空気が一瞬和んだけどそれもルリ様の一言でまた緊張感がその場を支配する。
でも全員が口出しする事なく、真剣な表情でルリ様に注目し次の言葉を待った。
「ではまず昔話を聞いてほしい。先程言った妾の友人、二人の少年と少女の話を……」
一度区切り、私達全員へと視線を巡らせてからゆっくりと語りだす。
「今から五百年以上前、人々の争いが絶えなかった頃の話だ――」
それは少年と少女の過酷な運命、そして二人が必死に生きようとした世界の物語――――
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