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第7章 Memory~二人の記憶~

31 裏切りと復讐…エリオットside

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リカルドの放った言葉に私は唖然とした。息が詰まりそうだった。

……今、なんて?私を……殺す……?そう言った……、どうして……?

「どうしてって顔してるけど、教えないよ。これから死ぬ人間に教えたって時間の無駄だからな」

どうしてだろう。目の前の人物は間違いなくリドの姿をしているのに、普段の口調と少し違うような…。

こんな時だって言うのに、脳が判断を放棄したように、もう考えたくないと言うように場違いな事を思考してしまう。
人間はとてつもない絶望感、その淵に立たされると考えを放棄してしまうのだろうか?
今まさにこの現実から逃げ出そうとしている自分がいるのだから恐らくそうなのだろう。



……それに考えたくないけど、リドは私を殺すと言った。それはつまり………、裏切り……と言う事?
……親友だと…思っていたのに………っ!

「そんな……、どうしてだよっ!リドッ!!」

「だから教えないってば。うるさいから黙って」

私の叫ぶ声はリドの心までは届かなかった。面倒臭そうに彼が言葉を吐き出すと、

「……え?」

次に目を開けた時には世界が歪んでいた。


歪んだ世界でも目の前には変わらずリドがいて、何故か片方の手から魔法が発動された名残があった。

そんな状況に私は困惑するしかなかった。

……何、これ……?

そして自分の目の前に赤い血が花びらのように舞う。

これ…私の…?

そう思い、そっと自分の手を腹の方へ持っていくと、ヌルっとした感触。
…え?と不思議に思いながら見てみると……自分の腹が真っ赤な血で染まっていた。

そしてそれを見た瞬間、今まで感じていなかった痛みが私を襲った。激痛だ。
余りの事に立っていられなくなってその場に倒れ込む。

……痛いっ、痛いっ!!

今までに経験した事のない痛みに悶え、息もまともにする事が出来なくて苦しい。

「あぁ、ごめん。一回で死ねなかったか。でも大丈夫。次で終わりだから」

「………」

何かの壊れる音がした。ガラスが割れて粉々になってしまうように、彼の一言で私の心が粉々に壊されてしまったような音。

「じゃあね」

意識が朦朧として体が動かせない中、彼の死の宣告を告げる声が聞こえて、もう終わりだと重たい瞼を下ろそうとした時、

「殿下っ!!!」

朦朧とした意識の中で微かに、だけど必死に私を呼ぶ声が聞こえた。オーガストの声だ。

そして何故か声がしたのと同時に、直ぐ近くに感じていたリドの禍々しい気配が遠ざかって行った。

「お前…一体これはどう言う事なんだっ!!」

「チッ…。後少しだったのに、面倒なのが来た」

そんなやり取りを遠くなる意識の中、ただただ聞いている事しか出来ない。

「はぁ、ここは一旦引くとしようか。それじゃ、またね。リオ」

「待てっ!!リカルドッ!!」

その会話を最後にリドの声は聞こえなくなり、変わってオーガストが焦った声を上げる。

「くそっ!どうしてこんな事に……」

オーガストの嘆いている声がするが、少しだけ開いているこの瞳でも、その姿がぼやけてしまって良く見えなかった。
私の様子を懸命になって見てくれているようだけど、そんな必死な彼は想像が出来ないなと失礼ながら思ってしまう。

「くそ、腹に穴が…、出血も酷い…っ、急いで治療しなければ……っ!」

その声と同時に体が浮き、私を抱き上げてくれているのだと察した。
私を抱き上げたオーガストはそのままどこかへと向かって走り出したが、私の記憶はそこで途切れ、その先の事は覚えていなかった。


この時私は初めて死の恐怖を間近に感じたのだった。




その後、また命を狙われないためになのか、オーガストによって城の外へと連れ出された私は、外の安全だと彼の言う場所で治療を受け、奇跡的にも命を取り留める事が出来た。

命を取り留めたものの、それを喜んでいる暇はなかった。
傷が自分で思っていたよりも深かったらしく、意識が戻っても暫くの間、思うように体を動かせず辛い日々を過ごしたのだ。
上手く体が動かせないと言うのは本当に苦痛だった。
けれどオーガストが傍にいてくれて、必要な時に手を貸してくれて、その支えのおかげで何とか自力で歩けるまでに回復を果たした。

そこからの回復は目を見張るものがあると言われたが、ついに日常生活を送れるまでになった私は、もう一度王城へと戻った。


城へ戻った時、そこで漸くオーガストはあの日の出来事と現在の状況を口にする。

私の思っていた通りで、城の門はリドの手によって破壊されていて、更にそれに巻き込まれ怪我人も出たとの事。それにその行動は注意を引き付けるための陽動であり、本来の目的は私を亡き者にすると言う事だった。

惜しくもそれが叶わなかったリドは、その後姿を消し、未だにその行方は分かっていないと言う事。

それに父である国王は、私が亡くなったと知らせを受けたようで、その事に父は深く悲しみそして怒り狂ってしまったらしい。
普段は温厚で争いなど好まない父。そんな父がまるでやり場のない怒りをぶつけるかのように争いを、戦争を引き起こしてしまったと言う事も知り、私は酷くショックを受けた。

父が私を失ったと思い込みそうなってしまったのなら、私は生きていると父にこの姿を見せるだけで父は正気に戻ってくれる。
そのはずだった。

そこで私に魔が差さなければ。

父は怒りを誰彼構わずぶつけるよう周りを巻き込んだ戦争を始めた。

それならばこの戦争を利用すれば彼を…あの男を探し出せるかもしれない。そして捕まえた暁には―――。


もう、それを思いついてしまった時点で、私は可笑しくなっていた。


最初は親友に裏切られ、怒りよりも悲しみが勝り、その事で泣いたり、夢だと思って自分の傷を見て現実なんだと苦しみ、本当に辛かったのを覚えている。


でもそれももう終わりだ。私はその全てを捨て、ただ一つの目的の為に生きる事にしたんだ。

そう、リカルドに……、親友だった男に私の受けた痛みを思い知らせ、その復讐を果たす為に――――
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