幸せな人生を目指して

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第8章 ノスタルジア

6 パラノーマル

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「それでは私から今この国で起こっている異変について話そう。アルフは既に聞いているようだけど彼らはまだ知らないだろうからね」

一度言葉を区切り私達を一瞥する。

どうでも良い事かもしれないけど今のやり取り、リハルト殿下はアルフレッド殿下の事をアルフって呼ぶんだね。
挨拶の時も親しそうにしていたけど、渾名で呼べるような間柄なんだと思うと場違いながらも少しほっこりしてしまうな。

そんな事を考えるけど話に集中する為頭の片隅に追いやり、今一度話し合いの方へと耳を傾ける。


「まずこの国で起きている、いやもっと細かく言うと国と言うより国外にある森で、ある現象が起き始めたのが始まりだった…。
王国からそう離れていない場所に広大な森があるんだ。我々は精霊の森と呼んでいて名前の由来の通り精霊が本当に存在しているのかは定かではないけれど神聖な土地なのだろう、果実や山菜が豊富で国の人々が良く足を運ぶ場所だ」

精霊の森……。
今殿下は精霊が本当に存在しているのか定かでないって言っていたけど、もしかしたらその森にはウルのような精霊が住みついているのかもしれない。ただその姿が見えないだけで。
それに名前が精霊の森って何かしら関係がありそうだよね。
信じていない人が多いのかもしれないけど、見える私からしたら俄然興味が湧くと言うものだ。
まあ今後調査の為にその森に立ち入るだろうし、その時に確かめてみようっと。


「そんな国の資源でもある精霊の森に数日前から現象が起きているんだ」

「どんな現象なんですか…?」

思わず尋ねてしまってからしまった、と思ったけど特に咎められる事もなく、リハルト殿下も変わらぬ様子で先を続ける。

「最初は黒い靄のようなものが少しの間森を漂っていただけだったんだ。と言っても私はその様子をこの目で見ていないんだが目撃者が数人いてね。皆その靄には不気味と思い近づかなかったと言っていたから良かったんだけど。
それからだよ。日を追うごとにその謎の現象が悪化の一途を辿ったのは。
今はなした通り最初は靄だったけど今ではそれが霧となって森全体を覆ってしまっている状態だ。
私もこの目で確認したけどあれは何と言うか…人が触れてはいけないような、そんな禍々しさがあったよ。
だから自然と国の人々も森には近づかなくなったんだ」

「その霧とやらは時間が経っても消えないのか?」

今度はアルフレッド殿下がすかさず尋ねる。ちょうど私も気になっていたところだ。
殿下の問いにリハルト殿下は静かに首肯する。

「確かに数日前までは時間が経てば自然と消えていたが、今では一日中霧が発生している状態なんだ。
私達も異常事態と早々に判断し調査はしているのだけど、何しろ突然何の前触れもなく現れたので正直なところ正しい対処方法が分からない。
国民には森へ近づかないようにと警告はしているが解決策が見つからなくてね…。
その段階ではまだ余裕があったんだ。国民に被害が出ていないと。だけどもうそうも言っていられない事態が起きてしまった……」

そう言うとリハルト殿下は苦しそうに顔を歪めて窓の外を見た。先程まで快晴だった天気がいつの間にか分厚い雲に覆われてしまっていた。急な天気の移り変わりに何か不安を煽られているような、そんな気がしてならない。

重苦しい空気が流れる中、誰もが固唾を飲んでリハルト殿下の言葉を待つ。
そして一瞬か数十秒か経った頃、決心したように顔を上げると彼は言葉を続けた。

「…一昨日国に雨が降ったんだ。しかもそれはただの雨ではなくあの森で発生している黒い霧と同じく黒く染まった雨。森の時に感じた禍々しさがやはりあった。
その雨が長時間、このシュレーデル王国に降り注ぎ、その結果この雨に触れた者が何人も原因不明の高熱を出して倒れると言う騒ぎになった。その事で死亡者は出ていないが、まだ回復した者もいない。幸か不幸か最早分からないが。
それに……現国王である私の父もその影響を受けてしまい、今床に伏せているんだ。父上を心配し母上が付きっきりで見て下さっているが…。
母上は治癒魔法が使えるからそれで父上の病状を良くしようと奮闘して下さっている。だから今回話し合いには父上ではなく私が参加する事になったんだ」

「陛下が……」

国の人達だけでなく自分の大切な人にまで被害が出ている現状。そこまで話し終えたリハルト殿下も精神的に辛そうだ。メリル様も兄である彼の様子に不安のようで、先程から黙ったまま心配そうに伺っている。

今回の件で死亡者がいない事は幸いかもしれないけど、それでも原因不明な病だ。皆が元気になるまで不安は消えないだろう。


そう思った瞬間私はある事に気が付く。
本当に今更ではあるけれど、先程場を和ませようと冗談を言っていた時の殿下はきっと無理をしていたんだ。陛下、そして王妃様が動けない今、自分がしっかりしないといけないと、妹であるメリル様までも不安にさせてはいけないと思い明るく振舞っていたんだって。
そう言う立場だとしても彼も人間だし苦しくなる時はある。

「リハルト様…無理はなさらないで下さい」

「メリル様も無理しないで何でも仰ってくださいね」

この状況になる前から二人を間近で見て来たノアさんとリッカさんはすかさず二人に声をかけていた。
どんな些細な事でも苦しいのなら話してほしいと、さり気ない気遣いで陰から主人を支えようとしている二人に、いつも不甲斐ない私を支えてくれるルカの姿が重なって見える。


シュレーデル王国で起こっている問題は思っていたよりも重症で解決も一筋縄ではいかなそうだ。
けど今回同行してもらうように言われた時からどんな事でも解決するつもりで来たんだ。細かい現状を知った今は尚の事、早急に解決してまた皆が笑って過ごせるようになって欲しいと切に思う。

「すみません皆様。今現在分かっている事はリハルト殿下が仰った通りです。
それと今更ですがこの件は原因が分からない事もありとても危険です。調査には我々も同行致しますが、それでも正直皆様を守りきれるか定かではありません。ですのでこちらからお呼びして大変申し訳ありませんが、無理に引き受けて下さる必要はありません。どうか今一度判断をお願い致します」

リハルト殿下に代わりノアさんが本当に申し訳ないと頭を下げる。

「大丈夫ですよ、ノアさん。頭を上げてください」

私はそんな彼らに敢えていつも通りの感じで返答する。

余りにも私の答えが危機感を感じさせないものだったからか、ノアさんだけでなくリハルト殿下やメリル様も驚いていたけど、反対にアルフレッド殿下やレヴィ君は失礼にも笑いを堪えている様子。

「全く私のセリフを取るな」

「すみません…つい」

そんなつもりはなかったけどアルフレッド殿下に怒られ私は素直に謝るが、不満そうな顔等少しもせずにそれどころかまた笑われた。そんなに笑うところありましたっけ。

「まあいつもの事だな」

「全くだ。落ち着きのない奴で目が離せないから困る」

舌打ちはされなかったもののレヴィ君にまで小言を言われる始末。
もう、いつもの事って分かってるなら黙ってスルーしてくれませんかね?

「あ、あの…皆様」

話を聞いた後も私達が普段と変わらない様子だった為、ノアさん達もどうすればいいのかと困った表情で恐る恐る声をかけてくる。

「ああ、すまない。こちらでは当たり前の光景だったから、ついな。
とりあえず話は分かった。調査は明日から始めるとして、流石に明日中に解決出来るとは私も思っていないからな。数日はこちらに滞在させてもらう事になるだろうが宜しく頼むぞ」

冷静沈着そうなノアさんでも先程から頭が追い付かず混乱しているみたいで…何だか申し訳ないと思いつつも、私達の普段と変わらない様子を見て、少しでも気が紛れれば良いなとも思う。

「明日中には無理でもなるべく早く終わらせるからそれまで宜しく頼む。だからあんたらもしっかりしろよ」

レヴィ君もすっかりいつも通りの口調で投げやりに呟く。
やっぱりレヴィ君はレヴィ君だね。あの一瞬だけ別人になったのは一体何だったのか…。

「絶対に私達が解決してみせますから。それまで数日の間宜しくお願いします」

私も二人に続いて当たり前のように挨拶をする。
危険だろうが何だろうが一度引き受けた事だもの。解決するまで帰るという選択肢は私達にはない。
姿を見せないけれど私も賛成、と言うように一瞬柔らかい笑みを浮かべたウルの姿が見えた気がした。
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