サイレンス・コード ~歪んだ愛情の果てに~

魔王の下僕

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第7話:戦場のレコーディング

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新曲しんきょくのレコーディングは、れいまされた感性かんせいいつきあらぶるたましい火花ひばならす、わりなき戦場せんじょうしていた。ガラス一枚いちまいへだてたコントロールルームからひびれいこえは、普段ふだんこおりのような静謐せいひつさをかなぐりてる。獲物えものめるけもののような獰猛どうもうさをびていた。そのするど執拗しつようこえはどこか愉悦ゆえついろふくみ、いつき鼓膜こまく容赦ようしゃなくつづけた。

いつきいまのブレスがコンマ一秒早いちびょうはやい。そんな呼吸こきゅうでは、うためられた絶望ぜつぼう深淵しんえん表現ひょうげんするには程遠ほどとおい。感情かんじょうっていない証拠しょうこだ」
「そこ、ピッチがわずかに、だが致命的ちめいてきにフラットだ。何度同なんどおなじことをわせれば理解りかいする?プロとしての自覚じかくがその程度ていどのものなのか」
ちがう!まったちがう!その歌詞かしくようないたみをともな再生さいせいへの渇望かつぼうだ!おまえうすっぺらい自己満足じこまんぞく感傷かんしょうおれきょくよごすな!」

ヘッドフォンしにひびれい言葉ことばは、むちのようにいつきたたきつけられる。音楽的おんがくてきには寸分すんぶんくるいもなく的確てきかくだ。しかし同時どうじいつきのプライドと、かろうじてたもっていた精神せいしん均衡きんこう容赦ようしゃなく、たのしむかのようにきざんでいく。いつき奥歯おくばつよみしめた。にじむようなおもいで何度なんどおなじフレーズをうたなおすが、れいの「OK」の二文字にもじ地平線ちへいせん彼方かなたにあるかのようにとおい。スタジオのいきまるような重苦おもぐるしい空気くうきいつきのど物理的ぶつりてきけ、焦燥感しょうそうかんがさらなるミスを誘発ゆうはつするという悪循環あくじゅんかんおちいっていた。

(クソが…!わかってんだよ、そんなこと、てめえにわれるまでもねえ!)
いつき内心ないしんけもののように咆哮ほうこうする。れい指摘してきくやしいがただしい。だがそのあまりにも高圧的こうあつてき人格じんかくそのものを否定ひていするようなサディスティックな物言ものいいが、いつき集中力しゅうちゅうりょくこそぎとしていく。れい黒曜石こくようせきのようなひとみが、コントロールルームの分厚ぶあついガラスしにいつき射抜いぬいていた。瀕死ひんし獲物えものなぶころ寸前すんぜん猛禽もうきんのように、そのつめたく、そしてどこか嬉々ききとしている。
――このおとこは、おれくるしむのをて、たのしんでいるのだ。

いきえになりながら数時間すうじかん経過けいかし、いつき肉体的にくたいてき精神的せいしんてき疲労ひろうはピークにたっした。こえ限界げんかいえてかすはじめ、意識いしき朦朧もうろうとしてくる。そんないつき限界寸前げんかいすんぜん様子ようすを、れい興味深きょうみぶか実験対象じっけんたいしょうでも観察かんさつするようにややかにつめていた。やがてインターカムのマイクにかい、温度おんどのないしずかなこえげた。
今日きょうのレコーディングは一旦中断いったんちゅうだんする。いつきすこあたまやし、『準備じゅんび』をする必要ひつようがあるようだな。…おれ部屋へやい」
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