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第11話:仮面のデュエット
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新曲『サイレンス・コード』の発表が近づくにつれ玲と樹のユニット――否、もはや「黒瀬玲の音楽を体現する一条樹」という存在への注目度は業界内外で異常なまでに高まっていった。音楽雑誌の表紙を軒並み飾り、影響力のあるテレビ番組への出演依頼が雪崩のように舞い込む。玲はこのプロモーション活動を自らの最高傑作を世に知らしめ、一条樹という存在を「黒瀬玲の音楽にとって不可欠であり、また完全にコントロール可能な最高の楽器」として世間の脳裏に完璧に焼き付けるための、極めて重要な戦略の一環と位置づけていた。
その日二人は都心にそびえ立つ大手出版社の最上階にあるスタジオで、発行部数No.1の人気音楽雑誌の巻頭特集インタビューを受けていた。白を基調とし無駄な装飾を一切排したモダンな空間。玲は寸分の隙もなく仕立てられた漆黒のセットアップを着こなす。樹は対照的に少しルーズなシルエットの、計算され尽くしたデザイナーズブランドの退廃的なシャツにダメージジーンズを合わせている。それぞれが強烈な個性を放ちながらも、どこか危険な調和を感じさせる出で立ちだった。
「今回の新曲『サイレンス・コード』ですが、まさに黒瀬先生の真骨頂とも言える深遠にして退廃的な世界観。そして一度聴いたら脳髄にこびりついて離れない中毒性のあるメロディが奇跡的なレベルで融合していますね。何より一条さんのあの魂を抉り出すような歌声が、その世界観を何百倍にも増幅させているように感じました。まさに鳥肌ものです」
インタビュアーの若い女性が興奮と緊張で頬を上気させながら、熱のこもった紋切り型の口調で玲に問いかける。
「ありがとうございます。樹の声には聖性と魔性、純粋無垢な輝きと全てを焼き尽くす破壊衝動といった相反する要素が、奇跡的なバランスで同居している。今回の曲は彼の声と魂の持つあらゆる多面性を限界まで、いや限界を超えて引き出すことを意図して創り上げました」
玲は淀みなく、どこか芝居がかった口調で語る。その声には聴く者を否応なく納得させてしまう不思議な説得力があった。言葉の表面は樹の才能を最大限に称賛しているように響く。けれどもその裏には、「一条樹という希代の才能を見出し、開花させたのは自分だ」と言わんばかりの巧妙かつ傲慢な自己主張が滲んでいた。
(はいはい、全部全部あんたのおかげですよ。どうせ、俺はあんたにとって、ただの操り人形でしかないからな)
樹は内心で冷え切った嘲りの言葉を吐き出しながら、表情には完璧なまでに穏やかでどこか儚げな笑みを浮かべている。プロモーション活動における「一条樹」は玲の言葉を借りれば「黒瀬玲の音楽を最も深く理解し、最も美しく奏でることのできる従順で才能豊かな、少し影のあるミューズ」でなければならないのだ。玲が作り上げた虚像を樹は完璧に演じきる。
「玲さんの作る曲はいつも僕の中に今まで知らなかった新しい扉を無理やりこじ開けてくれるような、そんな強烈な感覚があります。今回も自分でもまだ気づいていなかったような深い感情や、自分では決して到達できなかったであろう表現を玲さんに引きずり出してもらったと思っています」
完璧な模範解答。玲の射るような視線がほんの一瞬、満足そうに細められるのを樹は敏感に感じ取った。
「素晴らしいですね!お二人の間には単なる作曲家とシンガーという関係を超えた、魂レベルでの深い信頼関係と芸術的な共鳴があるのですね!」
インタビュアーは感動に打ち震えるように目を輝かせる。その純粋で無垢な感嘆は、研ぎ澄まされたガラスの破片のように樹の胸に鋭く突き刺さった。
(信頼、ね…そんな綺麗な言葉で飾れるほど、俺たちの関係はまともじゃねえよ。見えない鎖で雁字搦めにされてるだけの間違いだろ)
だがそんな血を吐くような本音は心の奥深くに何重にも鍵をかけて封じ込めた。樹はその代わりに当たり障りのない、けれどどこか物憂げな計算された笑顔を貼り付け続ける。玲はそんな樹の心の奥底の揺らぎなどまるで存在しないかのように意にも介さず、自身の深遠な音楽論や今回のユニットの唯一無二のコンセプトについて自信に満ち溢れた雄弁な言葉で語り続けた。その姿は近寄りがたいほどのカリスマ的な輝きを放っている。はたから見ればまさに理想的な、神に祝福されたプロデューサーとアーティストの姿に映るだろう。
その日二人は都心にそびえ立つ大手出版社の最上階にあるスタジオで、発行部数No.1の人気音楽雑誌の巻頭特集インタビューを受けていた。白を基調とし無駄な装飾を一切排したモダンな空間。玲は寸分の隙もなく仕立てられた漆黒のセットアップを着こなす。樹は対照的に少しルーズなシルエットの、計算され尽くしたデザイナーズブランドの退廃的なシャツにダメージジーンズを合わせている。それぞれが強烈な個性を放ちながらも、どこか危険な調和を感じさせる出で立ちだった。
「今回の新曲『サイレンス・コード』ですが、まさに黒瀬先生の真骨頂とも言える深遠にして退廃的な世界観。そして一度聴いたら脳髄にこびりついて離れない中毒性のあるメロディが奇跡的なレベルで融合していますね。何より一条さんのあの魂を抉り出すような歌声が、その世界観を何百倍にも増幅させているように感じました。まさに鳥肌ものです」
インタビュアーの若い女性が興奮と緊張で頬を上気させながら、熱のこもった紋切り型の口調で玲に問いかける。
「ありがとうございます。樹の声には聖性と魔性、純粋無垢な輝きと全てを焼き尽くす破壊衝動といった相反する要素が、奇跡的なバランスで同居している。今回の曲は彼の声と魂の持つあらゆる多面性を限界まで、いや限界を超えて引き出すことを意図して創り上げました」
玲は淀みなく、どこか芝居がかった口調で語る。その声には聴く者を否応なく納得させてしまう不思議な説得力があった。言葉の表面は樹の才能を最大限に称賛しているように響く。けれどもその裏には、「一条樹という希代の才能を見出し、開花させたのは自分だ」と言わんばかりの巧妙かつ傲慢な自己主張が滲んでいた。
(はいはい、全部全部あんたのおかげですよ。どうせ、俺はあんたにとって、ただの操り人形でしかないからな)
樹は内心で冷え切った嘲りの言葉を吐き出しながら、表情には完璧なまでに穏やかでどこか儚げな笑みを浮かべている。プロモーション活動における「一条樹」は玲の言葉を借りれば「黒瀬玲の音楽を最も深く理解し、最も美しく奏でることのできる従順で才能豊かな、少し影のあるミューズ」でなければならないのだ。玲が作り上げた虚像を樹は完璧に演じきる。
「玲さんの作る曲はいつも僕の中に今まで知らなかった新しい扉を無理やりこじ開けてくれるような、そんな強烈な感覚があります。今回も自分でもまだ気づいていなかったような深い感情や、自分では決して到達できなかったであろう表現を玲さんに引きずり出してもらったと思っています」
完璧な模範解答。玲の射るような視線がほんの一瞬、満足そうに細められるのを樹は敏感に感じ取った。
「素晴らしいですね!お二人の間には単なる作曲家とシンガーという関係を超えた、魂レベルでの深い信頼関係と芸術的な共鳴があるのですね!」
インタビュアーは感動に打ち震えるように目を輝かせる。その純粋で無垢な感嘆は、研ぎ澄まされたガラスの破片のように樹の胸に鋭く突き刺さった。
(信頼、ね…そんな綺麗な言葉で飾れるほど、俺たちの関係はまともじゃねえよ。見えない鎖で雁字搦めにされてるだけの間違いだろ)
だがそんな血を吐くような本音は心の奥深くに何重にも鍵をかけて封じ込めた。樹はその代わりに当たり障りのない、けれどどこか物憂げな計算された笑顔を貼り付け続ける。玲はそんな樹の心の奥底の揺らぎなどまるで存在しないかのように意にも介さず、自身の深遠な音楽論や今回のユニットの唯一無二のコンセプトについて自信に満ち溢れた雄弁な言葉で語り続けた。その姿は近寄りがたいほどのカリスマ的な輝きを放っている。はたから見ればまさに理想的な、神に祝福されたプロデューサーとアーティストの姿に映るだろう。
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