サイレンス・コード ~歪んだ愛情の果てに~

魔王の下僕

文字の大きさ
11 / 20

第11話:仮面のデュエット

しおりを挟む
新曲しんきょく『サイレンス・コード』の発表はっぴょうちかづくにつれれいいつきのユニット――いな、もはや「黒瀬くろせれい音楽おんがく体現たいげんする一条いちじょういつき」という存在そんざいへの注目ちゅうもく業界ぎょうかい内外ないがい異常いじょうなまでにたかまっていった。音楽おんがく雑誌ざっし表紙ひょうし軒並のきなかざり、影響力えいきょうりょくのあるテレビ番組ばんぐみへの出演しゅつえん依頼いらい雪崩なだれのようにむ。れいはこのプロモーション活動かつどうみずからの最高さいこう傑作けっさくらしめ、一条いちじょういつきという存在そんざいを「黒瀬くろせれい音楽おんがくにとって不可欠ふかけつであり、また完全かんぜんにコントロール可能かのう最高さいこう楽器がっき」として世間せけん脳裏のうり完璧かんぺきけるための、きわめて重要じゅうよう戦略せんりゃく一環いっかん位置いちづけていた。

その二人ふたり都心としんにそびえ大手おおて出版社しゅっぱんしゃ最上階さいじょうかいにあるスタジオで、発行はっこう部数ぶすうNo.1の人気にんき音楽おんがく雑誌ざっし巻頭かんとう特集とくしゅうインタビューをけていた。しろ基調きちょうとし無駄むだ装飾そうしょく一切いっさいはいしたモダンな空間くうかんれい寸分すんぶんすきもなく仕立したてられた漆黒しっこくのセットアップをこなす。いつき対照的たいしょうてきすこしルーズなシルエットの、計算けいさんされくしたデザイナーズブランドの退廃的たいはいてきなシャツにダメージジーンズをわせている。それぞれが強烈きょうれつ個性こせいはなちながらも、どこか危険きけん調和ちょうわかんじさせるちだった。

今回こんかい新曲しんきょく『サイレンス・コード』ですが、まさに黒瀬くろせ先生せんせい真骨頂しんこっちょうともえる深遠しんえんにして退廃的たいはいてき世界観せかいかん。そして一度いちどいたら脳髄のうずいにこびりついてはなれない中毒性ちゅうどくせいのあるメロディが奇跡的きせきてきなレベルで融合ゆうごうしていますね。なにより一条いちじょうさんのあのたましいえぐすような歌声うたごえが、その世界観せかいかん何百なんびゃくばいにも増幅ぞうふくさせているようにかんじました。まさに鳥肌とりはだものです」
インタビュアーのわか女性じょせい興奮こうふん緊張きんちょうほお上気じょうきさせながら、ねつのこもった紋切もんきがた口調くちょうれいいかける。
「ありがとうございます。いつきこえには聖性せいせい魔性ましょう純粋じゅんすい無垢むくかがやきとすべてをくす破壊はかい衝動しょうどうといった相反あいはんする要素ようそが、奇跡的きせきてきなバランスで同居どうきょしている。今回こんかいきょくかれこえたましいつあらゆる多面性ためんせい限界げんかいまで、いや限界げんかいえてすことを意図いとしてつくげました」
れいよどみなく、どこか芝居しばいがかった口調くちょうかたる。そのこえにはもの否応いやおうなく納得なっとくさせてしまう不思議ふしぎ説得力せっとくりょくがあった。言葉ことば表面ひょうめんいつき才能さいのう最大限さいだいげん称賛しょうさんしているようにひびく。けれどもそのうらには、「一条いちじょういつきという希代きたい才能さいのう見出みだし、開花かいかさせたのは自分じぶんだ」とわんばかりの巧妙こうみょうかつ傲慢ごうまん自己じこ主張しゅちょうにじんでいた。

(はいはい、全部ぜんぶ全部ぜんぶあんたのおかげですよ。どうせ、おれはあんたにとって、ただのあやつ人形にんぎょうでしかないからな)
いつき内心ないしんったあざけりの言葉ことばしながら、表情ひょうじょうには完璧かんぺきなまでにおだやかでどこかはかなげなみをかべている。プロモーション活動かつどうにおける「一条いちじょういつき」はれい言葉ことばりれば「黒瀬くろせれい音楽おんがくもっとふか理解りかいし、もっとうつくしくかなでることのできる従順じゅうじゅん才能さいのうゆたかな、すこかげのあるミューズ」でなければならないのだ。れいつくげた虚像きょぞういつき完璧かんぺきえんじきる。
れいさんのつくきょくはいつもぼくなかいままでらなかったあたらしいとびら無理むりやりこじけてくれるような、そんな強烈きょうれつ感覚かんかくがあります。今回こんかい自分じぶんでもまだづいていなかったようなふか感情かんじょうや、自分じぶんではけっして到達とうたつできなかったであろう表現ひょうげんれいさんにきずりしてもらったとおもっています」
完璧かんぺき模範もはん解答かいとうれいるような視線しせんがほんの一瞬いっしゅん満足まんぞくそうにほそめられるのをいつき敏感びんかんかんった。
素晴すばらしいですね!お二人ふたりあいだにはたんなる作曲家さっきょくかとシンガーという関係かんけいえた、たましいレベルでのふか信頼しんらい関係かんけい芸術的げいじゅつてき共鳴きょうめいがあるのですね!」
インタビュアーは感動かんどうふるえるようにかがやかせる。その純粋じゅんすい無垢むく感嘆かんたんは、まされたガラスの破片はへんのようにいつきむねするどさった。

信頼しんらい、ね…そんな綺麗きれい言葉ことばかざれるほど、おれたちの関係かんけいはまともじゃねえよ。えないくさり雁字搦がんじがらめにされてるだけの間違まちがいだろ)
だがそんなくような本音ほんねこころ奥深おくふかくに何重なんじゅうにもかぎをかけてふうめた。いつきはそのわりにたりさわりのない、けれどどこか物憂ものうげな計算けいさんされた笑顔えがおつづける。れいはそんないつきこころ奥底おくそこらぎなどまるで存在そんざいしないかのようににもかいさず、自身じしん深遠しんえん音楽おんがくろん今回こんかいのユニットの唯一無二ゆいいつむにのコンセプトについて自信じしんあふれた雄弁ゆうべん言葉ことばかたつづけた。その姿すがた近寄ちかよりがたいほどのカリスマてきかがやきをはなっている。はたからればまさに理想的りそうてきな、かみ祝福しゅくふくされたプロデューサーとアーティストの姿すがたうつるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

処理中です...