12 / 20
第12話:スポットライトの嘘
しおりを挟む
数日後二人はゴールデンタイムに全国ネットで放送される、絶大な影響力を持つ人気音楽番組に生出演した。軽快でどこか下世話な司会者のトークに合わせ、玲は普段の冷徹さを微塵も感じさせない知的でユーモラスな一面を巧みに覗かせる。スタジオの出演者や観覧客の笑いを誘った。樹もまた玲との息の合った(ように完璧に計算された)掛け合いでどこか掴みどころのないミステリアスな魅力を振りまきつつ、基本的には愛想よく振る舞った。
「それにしても一条さんは黒瀬さんのこと本当に心から尊敬されてるんですねぇ。トークの端々からその熱い想いがひしひしと伝わってきますよ」
百戦錬磨の司会者からの台本にはない不意の言葉に、樹は一瞬表情を凍りつかせそうになる。寸でのところでプロの仮面を貼り直した。
「…ええ、もちろんです。玲さんの作る音楽は俺にとって…他の何にも代えがたい特別なものですから。人生そのものと言っても過言ではないかもしれません」
嘘ではない。心の底からそう思っている。だがその「特別」という言葉に込められた本当の意味は、消し去れない玲への憎しみ、断ち切れない歪んだ執着、そしてほんの僅かだが否定できない依存心だった。
「いやいや、玲さんも一条さんのこと本当に大切にされてるのが画面越しにもよく分かりますよ。手塩にかけて育て上げたご自分の一番大切な宝物みたいに扱ってらっしゃいますもんね」
「ええ。彼は俺にとっても日本の音楽シーンにとっても、かけがえのない最高の才能です。だからこそその才能がつまらない外的要因で損なわれたり、間違った方向に進んだりしないように。プロデューサーとして、そして一人の音楽家として、責任を持って守るのは当然のことだと思っています」
玲は疑いようのない真実であるかのように、親しげな仕草で樹の肩を抱き寄せた。けれどその腕にはどこか「これは俺のものだ」と示すような、強さと支配の気配があった。テレビカメラの向こうにいる数千万の視聴者に向けて、玲は完璧で微塵の疑いすら抱かせない誠実な笑顔を浮かべる。その腕の力は純粋な親愛とは呼べないほど強く、重かった。樹にとってそれは自由を奪い、息苦しく締めつけてくる見えない檻のように感じられた。
新曲『サイレンス・コード』のスタジオライブ。禍々しくも美しいイントロが流れ始めると、樹の表情がスイッチが切り替わったように一変する。先ほどまでの掴みどころのない営業スマイルは完全に消え去り、歌の世界へと憑依されたように深く危険なほどに没入していく。その歌声は聴く者の魂を根こそぎ揺さぶる。時に天使のように甘く、時に悪魔のように激しく。そしてどこまでも痛々しく切なく、スタジオ中に響き渡っていた。電波に乗ってその声は全国へと広がっていく。玲はコントロールルームではなくステージ袖の最も暗い場所から、その様子を見つめていた。全てを曝け出すように歌う樹の姿を満足げに見つめながらも、その眼差しには獲物を見定める猛禽類のような鋭さが宿っていた。
(そうだ、樹…もっとだ…もっと俺の音楽に溺れろ。お前は俺のためだけに歌うんだ。お前の魂ごと、俺の音楽に捧げろ)
玲の心の声が呪詛のように、あるいは甘美な毒のように、テレパシーのような確かさで樹に届く──そんな錯覚に陥る。歌いながら樹は、この黒瀬玲という男の抗えない強大な引力から自分は永遠に逃れられないのではないかという、絶望的な予感に身を震わせた。
「それにしても一条さんは黒瀬さんのこと本当に心から尊敬されてるんですねぇ。トークの端々からその熱い想いがひしひしと伝わってきますよ」
百戦錬磨の司会者からの台本にはない不意の言葉に、樹は一瞬表情を凍りつかせそうになる。寸でのところでプロの仮面を貼り直した。
「…ええ、もちろんです。玲さんの作る音楽は俺にとって…他の何にも代えがたい特別なものですから。人生そのものと言っても過言ではないかもしれません」
嘘ではない。心の底からそう思っている。だがその「特別」という言葉に込められた本当の意味は、消し去れない玲への憎しみ、断ち切れない歪んだ執着、そしてほんの僅かだが否定できない依存心だった。
「いやいや、玲さんも一条さんのこと本当に大切にされてるのが画面越しにもよく分かりますよ。手塩にかけて育て上げたご自分の一番大切な宝物みたいに扱ってらっしゃいますもんね」
「ええ。彼は俺にとっても日本の音楽シーンにとっても、かけがえのない最高の才能です。だからこそその才能がつまらない外的要因で損なわれたり、間違った方向に進んだりしないように。プロデューサーとして、そして一人の音楽家として、責任を持って守るのは当然のことだと思っています」
玲は疑いようのない真実であるかのように、親しげな仕草で樹の肩を抱き寄せた。けれどその腕にはどこか「これは俺のものだ」と示すような、強さと支配の気配があった。テレビカメラの向こうにいる数千万の視聴者に向けて、玲は完璧で微塵の疑いすら抱かせない誠実な笑顔を浮かべる。その腕の力は純粋な親愛とは呼べないほど強く、重かった。樹にとってそれは自由を奪い、息苦しく締めつけてくる見えない檻のように感じられた。
新曲『サイレンス・コード』のスタジオライブ。禍々しくも美しいイントロが流れ始めると、樹の表情がスイッチが切り替わったように一変する。先ほどまでの掴みどころのない営業スマイルは完全に消え去り、歌の世界へと憑依されたように深く危険なほどに没入していく。その歌声は聴く者の魂を根こそぎ揺さぶる。時に天使のように甘く、時に悪魔のように激しく。そしてどこまでも痛々しく切なく、スタジオ中に響き渡っていた。電波に乗ってその声は全国へと広がっていく。玲はコントロールルームではなくステージ袖の最も暗い場所から、その様子を見つめていた。全てを曝け出すように歌う樹の姿を満足げに見つめながらも、その眼差しには獲物を見定める猛禽類のような鋭さが宿っていた。
(そうだ、樹…もっとだ…もっと俺の音楽に溺れろ。お前は俺のためだけに歌うんだ。お前の魂ごと、俺の音楽に捧げろ)
玲の心の声が呪詛のように、あるいは甘美な毒のように、テレパシーのような確かさで樹に届く──そんな錯覚に陥る。歌いながら樹は、この黒瀬玲という男の抗えない強大な引力から自分は永遠に逃れられないのではないかという、絶望的な予感に身を震わせた。
5
あなたにおすすめの小説
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる