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第12話:スポットライトの嘘
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数日後二人はゴールデンタイムに全国ネットで放送される、絶大な影響力を持つ人気音楽番組に生出演した。軽快でどこか下世話な司会者のトークに合わせ、玲は普段の冷徹さを微塵も感じさせない知的でユーモラスな一面を巧みに覗かせる。スタジオの出演者や観覧客の笑いを誘った。樹もまた玲との息の合った(ように完璧に計算された)掛け合いでどこか掴みどころのないミステリアスな魅力を振りまきつつ、基本的には愛想よく振る舞った。
「それにしても一条さんは黒瀬さんのこと本当に心から尊敬されてるんですねぇ。トークの端々からその熱い想いがひしひしと伝わってきますよ」
百戦錬磨の司会者からの台本にはない不意の言葉に、樹は一瞬表情を凍りつかせそうになる。寸でのところでプロの仮面を貼り直した。
「…ええ、もちろんです。玲さんの作る音楽は俺にとって…他の何にも代えがたい特別なものですから。人生そのものと言っても過言ではないかもしれません」
嘘ではない。心の底からそう思っている。だがその「特別」という言葉に込められた本当の意味は、消し去れない玲への憎しみ、断ち切れない歪んだ執着、そしてほんの僅かだが否定できない依存心だった。
「いやいや、玲さんも一条さんのこと本当に大切にされてるのが画面越しにもよく分かりますよ。手塩にかけて育て上げたご自分の一番大切な宝物みたいに扱ってらっしゃいますもんね」
「ええ。彼は俺にとっても日本の音楽シーンにとっても、かけがえのない最高の才能です。だからこそその才能がつまらない外的要因で損なわれたり、間違った方向に進んだりしないように。プロデューサーとして、そして一人の音楽家として、責任を持って守るのは当然のことだと思っています」
玲は疑いようのない真実であるかのように、親しげな仕草で樹の肩を抱き寄せた。けれどその腕にはどこか「これは俺のものだ」と示すような、強さと支配の気配があった。テレビカメラの向こうにいる数千万の視聴者に向けて、玲は完璧で微塵の疑いすら抱かせない誠実な笑顔を浮かべる。その腕の力は純粋な親愛とは呼べないほど強く、重かった。樹にとってそれは自由を奪い、息苦しく締めつけてくる見えない檻のように感じられた。
新曲『サイレンス・コード』のスタジオライブ。禍々しくも美しいイントロが流れ始めると、樹の表情がスイッチが切り替わったように一変する。先ほどまでの掴みどころのない営業スマイルは完全に消え去り、歌の世界へと憑依されたように深く危険なほどに没入していく。その歌声は聴く者の魂を根こそぎ揺さぶる。時に天使のように甘く、時に悪魔のように激しく。そしてどこまでも痛々しく切なく、スタジオ中に響き渡っていた。電波に乗ってその声は全国へと広がっていく。玲はコントロールルームではなくステージ袖の最も暗い場所から、その様子を見つめていた。全てを曝け出すように歌う樹の姿を満足げに見つめながらも、その眼差しには獲物を見定める猛禽類のような鋭さが宿っていた。
(そうだ、樹…もっとだ…もっと俺の音楽に溺れろ。お前は俺のためだけに歌うんだ。お前の魂ごと、俺の音楽に捧げろ)
玲の心の声が呪詛のように、あるいは甘美な毒のように、テレパシーのような確かさで樹に届く──そんな錯覚に陥る。歌いながら樹は、この黒瀬玲という男の抗えない強大な引力から自分は永遠に逃れられないのではないかという、絶望的な予感に身を震わせた。
「それにしても一条さんは黒瀬さんのこと本当に心から尊敬されてるんですねぇ。トークの端々からその熱い想いがひしひしと伝わってきますよ」
百戦錬磨の司会者からの台本にはない不意の言葉に、樹は一瞬表情を凍りつかせそうになる。寸でのところでプロの仮面を貼り直した。
「…ええ、もちろんです。玲さんの作る音楽は俺にとって…他の何にも代えがたい特別なものですから。人生そのものと言っても過言ではないかもしれません」
嘘ではない。心の底からそう思っている。だがその「特別」という言葉に込められた本当の意味は、消し去れない玲への憎しみ、断ち切れない歪んだ執着、そしてほんの僅かだが否定できない依存心だった。
「いやいや、玲さんも一条さんのこと本当に大切にされてるのが画面越しにもよく分かりますよ。手塩にかけて育て上げたご自分の一番大切な宝物みたいに扱ってらっしゃいますもんね」
「ええ。彼は俺にとっても日本の音楽シーンにとっても、かけがえのない最高の才能です。だからこそその才能がつまらない外的要因で損なわれたり、間違った方向に進んだりしないように。プロデューサーとして、そして一人の音楽家として、責任を持って守るのは当然のことだと思っています」
玲は疑いようのない真実であるかのように、親しげな仕草で樹の肩を抱き寄せた。けれどその腕にはどこか「これは俺のものだ」と示すような、強さと支配の気配があった。テレビカメラの向こうにいる数千万の視聴者に向けて、玲は完璧で微塵の疑いすら抱かせない誠実な笑顔を浮かべる。その腕の力は純粋な親愛とは呼べないほど強く、重かった。樹にとってそれは自由を奪い、息苦しく締めつけてくる見えない檻のように感じられた。
新曲『サイレンス・コード』のスタジオライブ。禍々しくも美しいイントロが流れ始めると、樹の表情がスイッチが切り替わったように一変する。先ほどまでの掴みどころのない営業スマイルは完全に消え去り、歌の世界へと憑依されたように深く危険なほどに没入していく。その歌声は聴く者の魂を根こそぎ揺さぶる。時に天使のように甘く、時に悪魔のように激しく。そしてどこまでも痛々しく切なく、スタジオ中に響き渡っていた。電波に乗ってその声は全国へと広がっていく。玲はコントロールルームではなくステージ袖の最も暗い場所から、その様子を見つめていた。全てを曝け出すように歌う樹の姿を満足げに見つめながらも、その眼差しには獲物を見定める猛禽類のような鋭さが宿っていた。
(そうだ、樹…もっとだ…もっと俺の音楽に溺れろ。お前は俺のためだけに歌うんだ。お前の魂ごと、俺の音楽に捧げろ)
玲の心の声が呪詛のように、あるいは甘美な毒のように、テレパシーのような確かさで樹に届く──そんな錯覚に陥る。歌いながら樹は、この黒瀬玲という男の抗えない強大な引力から自分は永遠に逃れられないのではないかという、絶望的な予感に身を震わせた。
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