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第13話:檻の中の反抗
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番組が無事(?)終了し楽屋に戻るまでの人けのない薄暗い廊下。二人きりになったその瞬間、玲の完璧な仮面が音もなく剥がれ落ちる。
「樹、今日のトーク、あの部分は完全に余計だったな。俺が事前に指示しておいた流れと一言一句違っていたじゃないか。なぜだ?」
地獄の底から響くような低く冷え切った声で、玲が樹を詰る。
「…アドリブも生放送の醍醐味だろ。あんたの筋書き通りじゃ面白くも何ともねえよ」
「俺の計算を狂わせるな。お前は俺の指示通りに完璧な操り人形として動けばいい。それ以外の自己表現など微塵も必要ない」
「俺はあんたの操り人形じゃねえって、いつも言ってんだろが!」
樹が溜まりに溜まった鬱憤をぶつけるように声を荒らげると、玲は冷ややかに汚物でも見るように樹を見下ろした。
「反抗期か?それとも少し売れたからといって勘違いでもしているのか?だが覚えておけ。お前がどれだけ虚しく吠えようと、お前は永遠に俺の手の内だということを片時も忘れるな」
そう言うなり玲はそれが日常の挨拶であるかのようにごく自然な仕草で、当然の権利として樹のスマートフォンをひったくった。そしてメッセージアプリの履歴や通話記録を執拗なまでにチェックし始めた。
「おい、何してんだよ!返せよ!」
「お前に音楽以外の余計な虫――しかも有害なやつらが寄りつかないように、俺が“特別に”管理してやってるだけだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いなんかない」
樹のプライベートは、もはや完全に、そして息苦しいほどに玲の手によって管理されていた。交友関係や金の使い道はもちろん、時にはその日の気分や体調、果ては夢の内容にまで干渉される始末。樹はこの息の詰まるような支配から一刻も早く逃れたいと、血を吐くような思いで心の底から願っていた。
ある夜地方都市での過酷なプロモーション活動を終え、予約されていたスイートルームへと戻る深夜の専用車の中。連日の人間業とは思えない過密スケジュールと玲からの終わりのない精神的なプレッシャーで、樹の心身の疲労はもうとっくにピークを通り越していた。窓の外を現実感のないCGのように流れていく夜景をぼんやりと眺めながら、樹はふと悪戯小僧のようなささやかな反抗を思いついた。
(そうだ…たまにはあいつの言うこと一つくらい、派手に無視してやったっていいだろ)
それは玲が樹の喉や体調管理のためにと厳しく、異常なまでに禁じている深夜のコンビニでの買い食いだった。高カロリーで添加物まみれのジャンクフード。糖分過多の甘い炭酸飲料。玲に知られればまた想像を絶するような執拗でサディスティックな「お仕置き」が待っているだろう。だが今の精神的に追い詰められた樹にはそんな破滅的な香りのするささやかな自由が、たまらなく甘美で魅力的に思えた。
ホテルに到着後、玲は同行していたレコード会社の重役やイベント主催者たちと形式的で中身のない打ち合わせを始めた。
その僅かな隙をついて、樹は自室をこっそりと抜け出す。スパイ映画の主人公になったような緊張感に包まれながら、廊下を静かに駆け抜けた。
「樹、今日のトーク、あの部分は完全に余計だったな。俺が事前に指示しておいた流れと一言一句違っていたじゃないか。なぜだ?」
地獄の底から響くような低く冷え切った声で、玲が樹を詰る。
「…アドリブも生放送の醍醐味だろ。あんたの筋書き通りじゃ面白くも何ともねえよ」
「俺の計算を狂わせるな。お前は俺の指示通りに完璧な操り人形として動けばいい。それ以外の自己表現など微塵も必要ない」
「俺はあんたの操り人形じゃねえって、いつも言ってんだろが!」
樹が溜まりに溜まった鬱憤をぶつけるように声を荒らげると、玲は冷ややかに汚物でも見るように樹を見下ろした。
「反抗期か?それとも少し売れたからといって勘違いでもしているのか?だが覚えておけ。お前がどれだけ虚しく吠えようと、お前は永遠に俺の手の内だということを片時も忘れるな」
そう言うなり玲はそれが日常の挨拶であるかのようにごく自然な仕草で、当然の権利として樹のスマートフォンをひったくった。そしてメッセージアプリの履歴や通話記録を執拗なまでにチェックし始めた。
「おい、何してんだよ!返せよ!」
「お前に音楽以外の余計な虫――しかも有害なやつらが寄りつかないように、俺が“特別に”管理してやってるだけだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いなんかない」
樹のプライベートは、もはや完全に、そして息苦しいほどに玲の手によって管理されていた。交友関係や金の使い道はもちろん、時にはその日の気分や体調、果ては夢の内容にまで干渉される始末。樹はこの息の詰まるような支配から一刻も早く逃れたいと、血を吐くような思いで心の底から願っていた。
ある夜地方都市での過酷なプロモーション活動を終え、予約されていたスイートルームへと戻る深夜の専用車の中。連日の人間業とは思えない過密スケジュールと玲からの終わりのない精神的なプレッシャーで、樹の心身の疲労はもうとっくにピークを通り越していた。窓の外を現実感のないCGのように流れていく夜景をぼんやりと眺めながら、樹はふと悪戯小僧のようなささやかな反抗を思いついた。
(そうだ…たまにはあいつの言うこと一つくらい、派手に無視してやったっていいだろ)
それは玲が樹の喉や体調管理のためにと厳しく、異常なまでに禁じている深夜のコンビニでの買い食いだった。高カロリーで添加物まみれのジャンクフード。糖分過多の甘い炭酸飲料。玲に知られればまた想像を絶するような執拗でサディスティックな「お仕置き」が待っているだろう。だが今の精神的に追い詰められた樹にはそんな破滅的な香りのするささやかな自由が、たまらなく甘美で魅力的に思えた。
ホテルに到着後、玲は同行していたレコード会社の重役やイベント主催者たちと形式的で中身のない打ち合わせを始めた。
その僅かな隙をついて、樹は自室をこっそりと抜け出す。スパイ映画の主人公になったような緊張感に包まれながら、廊下を静かに駆け抜けた。
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