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第14話:甘美な罪と罰
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深夜のコンビニには煌々と蛍光灯が灯っていた。明るさの裏にどこか寂しげな空気が漂っている。棚には体に悪そうな色とりどりの食品が整然と並び、その無機質な姿がかえって誘惑的だった。
樹の目は禁断の宝物を見つけた子供のように輝いていた。ポテトチップス、チョコレート、炭酸飲料──次から次へと見境なく買い物カゴへ放り込んでいく。
(たまには、いや、毎日でもいいよな…こんな日くらい、こんな時間くらい、俺の好きにさせてくれよ)
久しぶりに、いや生まれて初めて感じるかもしれない束の間の強烈な解放感。だがその儚い解放感は悪夢の始まりを告げるゴングのように、長くは続かなかった。
ホテルに戻り自室の重いドアを微かな罪悪感と期待感を胸に開けた瞬間、リビングのソファに閻魔大王のように腕を組んで座る玲の姿が目に飛び込んできた。その完璧な顔には怒りというよりは全てを見透かしたような、冷たい底知れぬ深淵のような感情が浮かんでいる。
「…どこへ、何を買いに行っていた?」
地を這うような静かだが全てを凍りつかせるような低い声。樹の背筋を氷の刃のような冷たい汗が伝った。手にしたささやかな反抗の証であるコンビニの袋が、やけに重く虚しく感じられる。
「…ちょっと、夜風にでも当たりに、散歩に…」
「ほう、散歩ね。その手に大事そうに持っているものは一体何だ?まさか俺の目を盗んで体に悪いものでも買い漁ってきたわけではあるまいな?」
言い逃れなど最初からできるはずもなかった。樹は観念し断頭台に首を差し出す罪人のように、袋の中身を玲の前に差し出した。玲はその中身を汚物でも見るような冷たい目で一瞥しただけで、無言のままゆっくりと立ち上がる。音もなく歩み寄り、逃げ場のない樹の前にじわじわと圧をかけるように立ちはだかった。
「俺はお前の体調管理も俺の重要な仕事の一つだと言ったはずだ。お前は俺の作品を寸分の狂いもなく最高の状態で表現するためだけに存在する唯一無二の存在だ。その基本的な自覚すらまだ持てないのか?この愚か者めが」
「…っ!」
「それとも俺の言うことがもう聞けないと?俺のこの完璧な支配からお前のような未熟な雛鳥が、いとも簡単に逃れられるとでも思ったか、樹?」
玲の氷のように冷たい指が、樹の頬を強く掴んだ。
壊れやすいガラス細工を扱うようでありながら、有無を言わせぬ圧がそこにはあった。
その黒曜石のような瞳の奥には、裏切られた者の深い悲しみと絶望が揺らいでいる。
同時に逃げようとした獲物を追い詰め、弄び、屈服させることに無上の喜びを見出す冷酷な支配者の悦楽も確かに滲んでいた。
(ああ、まただ…また、この目に殺される…)
樹はこれから始まるであろう玲の想像を絶するような執拗で残酷な「お仕置き」を予感し、全身の血が逆流するような絶望的な気持ちになった。ほんのささやかな子供じみた反抗は結局、玲の底知れない支配欲をより強く刺激し意識させる結果にしかならなかったのだ。
華やかなスポットライトの下、濃く冷たい影が二人を包む。
その影の裏で、歪みきった魂のデュエットが破滅へと静かに奏でられていた。
玲の「お前がいないとダメなんだ」という呪いにも似た言葉は樹の心と体を深く縛り付けた。見えないがゆえに決して断ち切ることのできない呪詛のようにふかく、そして重く響き渡る。
樹の「お前さえいければ俺はもっと自由に、もっと人間らしく生きられるのに」という魂の悲痛な叫びは血を吐くように切実だった。だがその願いは決して届かず、心の奥深く誰にも触れさせぬ暗闇の中で虚しくこだまし続けていた。
樹の目は禁断の宝物を見つけた子供のように輝いていた。ポテトチップス、チョコレート、炭酸飲料──次から次へと見境なく買い物カゴへ放り込んでいく。
(たまには、いや、毎日でもいいよな…こんな日くらい、こんな時間くらい、俺の好きにさせてくれよ)
久しぶりに、いや生まれて初めて感じるかもしれない束の間の強烈な解放感。だがその儚い解放感は悪夢の始まりを告げるゴングのように、長くは続かなかった。
ホテルに戻り自室の重いドアを微かな罪悪感と期待感を胸に開けた瞬間、リビングのソファに閻魔大王のように腕を組んで座る玲の姿が目に飛び込んできた。その完璧な顔には怒りというよりは全てを見透かしたような、冷たい底知れぬ深淵のような感情が浮かんでいる。
「…どこへ、何を買いに行っていた?」
地を這うような静かだが全てを凍りつかせるような低い声。樹の背筋を氷の刃のような冷たい汗が伝った。手にしたささやかな反抗の証であるコンビニの袋が、やけに重く虚しく感じられる。
「…ちょっと、夜風にでも当たりに、散歩に…」
「ほう、散歩ね。その手に大事そうに持っているものは一体何だ?まさか俺の目を盗んで体に悪いものでも買い漁ってきたわけではあるまいな?」
言い逃れなど最初からできるはずもなかった。樹は観念し断頭台に首を差し出す罪人のように、袋の中身を玲の前に差し出した。玲はその中身を汚物でも見るような冷たい目で一瞥しただけで、無言のままゆっくりと立ち上がる。音もなく歩み寄り、逃げ場のない樹の前にじわじわと圧をかけるように立ちはだかった。
「俺はお前の体調管理も俺の重要な仕事の一つだと言ったはずだ。お前は俺の作品を寸分の狂いもなく最高の状態で表現するためだけに存在する唯一無二の存在だ。その基本的な自覚すらまだ持てないのか?この愚か者めが」
「…っ!」
「それとも俺の言うことがもう聞けないと?俺のこの完璧な支配からお前のような未熟な雛鳥が、いとも簡単に逃れられるとでも思ったか、樹?」
玲の氷のように冷たい指が、樹の頬を強く掴んだ。
壊れやすいガラス細工を扱うようでありながら、有無を言わせぬ圧がそこにはあった。
その黒曜石のような瞳の奥には、裏切られた者の深い悲しみと絶望が揺らいでいる。
同時に逃げようとした獲物を追い詰め、弄び、屈服させることに無上の喜びを見出す冷酷な支配者の悦楽も確かに滲んでいた。
(ああ、まただ…また、この目に殺される…)
樹はこれから始まるであろう玲の想像を絶するような執拗で残酷な「お仕置き」を予感し、全身の血が逆流するような絶望的な気持ちになった。ほんのささやかな子供じみた反抗は結局、玲の底知れない支配欲をより強く刺激し意識させる結果にしかならなかったのだ。
華やかなスポットライトの下、濃く冷たい影が二人を包む。
その影の裏で、歪みきった魂のデュエットが破滅へと静かに奏でられていた。
玲の「お前がいないとダメなんだ」という呪いにも似た言葉は樹の心と体を深く縛り付けた。見えないがゆえに決して断ち切ることのできない呪詛のようにふかく、そして重く響き渡る。
樹の「お前さえいければ俺はもっと自由に、もっと人間らしく生きられるのに」という魂の悲痛な叫びは血を吐くように切実だった。だがその願いは決して届かず、心の奥深く誰にも触れさせぬ暗闇の中で虚しくこだまし続けていた。
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