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第16話:偽りの蜜月
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玲からは、一切の感情が読み取れない。冷たい氷の仮面が、彼の心を覆い隠しているかのようだ。
長い、息の詰まるような沈黙の後、玲がゆっくりと口を開いた。
「…そうか」
たったそれだけの言葉だった。しかし、その声には、いつものような冷徹さも、傲慢さも感じられなかった。ただ、深い、底知れない何かが宿っているような、そんな声だった。
玲は、ゆっくりと樹に近づくと、その前に膝をついた。そして、震える樹の肩に、そっと手を置いた。
「…すまなかった、樹」
予想もしなかった言葉に、樹は顔を上げた。玲の瞳が、真っ直ぐに樹を見つめている。その瞳の奥には、今まで見たことのない、深い後悔と微かな痛みの色が浮かんでいた。
「俺は…お前の才能に甘え、お前という存在を、俺の音楽のためにあまりにも軽んじていた。お前を道具のように扱い、傷つけてきたことを…今、深く理解した」
玲の声は、静かだったが、そこには紛れもない誠実さが込められていた。
「俺は、間違っていた。お前の感情を無視し、ただ俺の理想を押し付けていただけだった。許してくれ、とは言わない。だが、これからは…お前の心に、もっと寄り添えるように努力する」
玲は、そう言うと、樹の涙で濡れた頬を、壊れ物を扱うかのように優しく拭った。その手つきは、不器用だったが、温かかった。
その日から、スタジオの空気は一変した。玲は、以前のような高圧的な態度を改め、樹の意見に耳を傾けるようになった。レコーディングは、二人で意見を交わしながら、お互いの表現を探り合うような、創造的で穏やかな時間へと変わっていった。
玲は、樹の体調を気遣い、無理のないスケジュールを組んだ。食事も、管理するのではなく、樹の好きなものを一緒に食べに行くようになった。時には、他愛のない冗談を言い合って笑うことさえあった。
肉体関係もまた、変わった。かつてのような、支配と屈辱に満ちたものではなく、お互いの温もりを確かめ合うような、優しく慈しみに満ちたものになった。玲は、樹の体を丁寧に愛撫し、樹が快感に震えるのを、愛おしそうに見つめた。樹もまた、玲の腕の中で、久しぶりに心からの安らぎと純粋な喜びを感じていた。「体の相性は最高」という言葉が、初めて肯定的な意味を持って二人の間に響いた。
樹は、再び玲を慕い、尊敬し始めていた。あの、才能に満ちていて――いまはこんなにも優しい玲を、自分は本当に愛せるかもしれない。そんなふうに思い始めていた。
長い、息の詰まるような沈黙の後、玲がゆっくりと口を開いた。
「…そうか」
たったそれだけの言葉だった。しかし、その声には、いつものような冷徹さも、傲慢さも感じられなかった。ただ、深い、底知れない何かが宿っているような、そんな声だった。
玲は、ゆっくりと樹に近づくと、その前に膝をついた。そして、震える樹の肩に、そっと手を置いた。
「…すまなかった、樹」
予想もしなかった言葉に、樹は顔を上げた。玲の瞳が、真っ直ぐに樹を見つめている。その瞳の奥には、今まで見たことのない、深い後悔と微かな痛みの色が浮かんでいた。
「俺は…お前の才能に甘え、お前という存在を、俺の音楽のためにあまりにも軽んじていた。お前を道具のように扱い、傷つけてきたことを…今、深く理解した」
玲の声は、静かだったが、そこには紛れもない誠実さが込められていた。
「俺は、間違っていた。お前の感情を無視し、ただ俺の理想を押し付けていただけだった。許してくれ、とは言わない。だが、これからは…お前の心に、もっと寄り添えるように努力する」
玲は、そう言うと、樹の涙で濡れた頬を、壊れ物を扱うかのように優しく拭った。その手つきは、不器用だったが、温かかった。
その日から、スタジオの空気は一変した。玲は、以前のような高圧的な態度を改め、樹の意見に耳を傾けるようになった。レコーディングは、二人で意見を交わしながら、お互いの表現を探り合うような、創造的で穏やかな時間へと変わっていった。
玲は、樹の体調を気遣い、無理のないスケジュールを組んだ。食事も、管理するのではなく、樹の好きなものを一緒に食べに行くようになった。時には、他愛のない冗談を言い合って笑うことさえあった。
肉体関係もまた、変わった。かつてのような、支配と屈辱に満ちたものではなく、お互いの温もりを確かめ合うような、優しく慈しみに満ちたものになった。玲は、樹の体を丁寧に愛撫し、樹が快感に震えるのを、愛おしそうに見つめた。樹もまた、玲の腕の中で、久しぶりに心からの安らぎと純粋な喜びを感じていた。「体の相性は最高」という言葉が、初めて肯定的な意味を持って二人の間に響いた。
樹は、再び玲を慕い、尊敬し始めていた。あの、才能に満ちていて――いまはこんなにも優しい玲を、自分は本当に愛せるかもしれない。そんなふうに思い始めていた。
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