サイレンス・コード ~歪んだ愛情の果てに~

魔王の下僕

文字の大きさ
16 / 20

第16話:偽りの蜜月

しおりを挟む
れいからは、一切いっさい感情かんじょうれない。つめたいこおり仮面かめんが、かれこころおおかくしているかのようだ。
ながい、いきまるような沈黙ちんもくあとれいがゆっくりとくちひらいた。
「…そうか」
たったそれだけの言葉ことばだった。しかし、そのこえには、いつものような冷徹れいてつさも、傲慢ごうまんさもかんじられなかった。ただ、ふかい、底知そこしれないなにかが宿やどっているような、そんなこえだった。
れいは、ゆっくりといつきちかづくと、そのまえひざをついた。そして、ふるえるいつきかたに、そっといた。
「…すまなかった、いつき
予想よそうもしなかった言葉ことばに、いつきかおげた。れいひとみが、ぐにいつきつめている。そのひとみおくには、いままでたことのない、ふか後悔こうかいかすかないたみのいろかんでいた。
おれは…おまえ才能さいのうあまえ、おまえという存在そんざいを、おれ音楽おんがくのためにあまりにもかろんじていた。おまえ道具どうぐのようにあつかい、きずつけてきたことを…いまふか理解りかいした」
れいこえは、しずかだったが、そこにはまぎれもない誠実せいじつさがめられていた。
おれは、間違まちがっていた。おまえ感情かんじょう無視むしし、ただおれ理想りそうけていただけだった。ゆるしてくれ、とはわない。だが、これからは…おまえこころに、もっとえるように努力どりょくする」
れいは、そううと、いつきなみだれたほおを、こわものあつかうかのようにやさしくぬぐった。そのつきは、不器用ぶきようだったが、あたたかかった。

そのから、スタジオの空気くうき一変いっぺんした。れいは、以前いぜんのような高圧こうあつてき態度たいどあらため、いつき意見いけんみみかたむけるようになった。レコーディングは、二人ふたり意見いけんわしながら、おたがいの表現ひょうげんさぐうような、創造的そうぞうてきおだやかな時間じかんへとわっていった。
れいは、いつき体調たいちょう気遣きづかい、無理むりのないスケジュールをんだ。食事しょくじも、管理かんりするのではなく、いつききなものを一緒いっしょべにくようになった。ときには、他愛たわいのない冗談じょうだんってわらうことさえあった。

肉体にくたい関係かんけいもまた、わった。かつてのような、支配しはい屈辱くつじょくちたものではなく、おたがいのぬくもりをたしかめうような、やさしくいつくしみにちたものになった。れいは、いつきからだ丁寧ていねい愛撫あいぶし、いつき快感かいかんふるえるのを、いとおしそうにつめた。いつきもまた、れいうでなかで、ひさしぶりにこころからのやすらぎと純粋じゅんすいよろこびをかんじていた。「からだ相性あいしょう最高さいこう」という言葉ことばが、はじめて肯定的こうていてき意味いみって二人ふたりあいだひびいた。
いつきは、ふたたれいしたい、尊敬そんけいはじめていた。あの、才能さいのうちていて――いまはこんなにもやさしいれいを、自分じぶん本当ほんとうあいせるかもしれない。そんなふうにおもはじめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

出戻り王子が幸せになるまで

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。 一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。 ※他サイトにも掲載しております。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

処理中です...