サイレンス・コード ~歪んだ愛情の果てに~

魔王の下僕

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第20話(最終話):残響

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数日すうじつ
都会とかい喧騒けんそうつつまれた交差点こうさてん大型おおがたビジョンには、『サマーソニック・レジェンド』のダイジェスト映像えいぞうと、『サイレンス・コード』のミュージックビデオが、人々ひとびと記憶きおくますかのようにかえながれていた。いつきの、鬼気ききせまる、たましいけずるような歌唱かしょうシーンがうつされるたび、雑踏ざっとうなかあしめ、るようにその映像えいぞう見入みい人々ひとびと姿すがたがあった。

ちかくのカフェのオープンテラス。二人ふたりわか女性じょせいが、スマートフォンの画面がめんからかおげ、そのビジョンをながめながらこえひそめてヒソヒソとはなしていた。
「ねえ、やっぱりれいいつきの『サイレンス・コード』、何度なんどいてもヤバいよね…心臓しんぞうえぐられるっていうか…」
「わかるー!いつきくんの歌声うたごえ、なんかもう、本当ほんとうたましいけずってうたってるってかんじでしょ。いてるこっちまで息苦いきぐるしくなるっていうか…鳥肌立とりはだだつけど、ちょっとこわいんだよね」
「そうなのよ!しかもさ、あの二人ふたり、なんか最近さいきんマジでヤバいうわさばっかりじゃない?れいさんの束縛そくばくっていうか、独占欲どくせんよく異常いじょうすぎて、いつきくん、あれ以来いらいまったくメディアにてこないし、一部いちぶじゃ行方不明ゆくえふめいせつまでながれてるんだって!」
「えー、マジで!?ヤバすぎ!わたしいたのは、いつきくん精神的せいしんてき完全かんぜんまいっちゃって、どこか人里ひとざとはなれた施設しせつ入院にゅういんしてるとか…。れいさんも、なんか警察けいさつ沙汰ざたになったとかならなかったとかで、音楽おんがく業界ぎょうかいからされる寸前すんぜんだってうわさだよ」
「うわぁ…天才てんさいって、やっぱ普通ふつうじゃないんだね…。でもさ、あの音楽おんがくいちゃうと、なんかもう、どうでもよくなっちゃうっていうか…」
「それな!でも、もうあの二人ふたり新曲しんきょくけないのかなぁ…だとしたら、マジで伝説でんせつのユニットだよね…」

彼女かのじょたちの無責任むせきにん扇情的せんじょうてき噂話うわさばなしは、都会とかい喧騒けんそうというの、無関心むかんしん雑音ざつおんなかに、まるであわのようにはじけてはえていく。

そのとき、カフェのテラスせきのすぐそばを、一人ひとりおとこ足早あしばやとおぎた。ふかかぶったくろいキャップに、おおきなサングラス、そしてかお半分はんぶんおおうマスク。周囲しゅういけるようなそのちは、かえって視線しせんあつめそうなものだが、だれかれだれであるかにづく様子ようすはなかった。

おとこは、大型おおがたビジョンが見下みおろすスクランブル交差点こうさてんあしめ、人混ひとごみにまぎれて信号しんごうった。ただまえつめるかれみみには、意識いしきとは裏腹うらはらに、頭上ずじょうからながれるはなやかな化粧品けしょうひんのCMがかすかにとどいていた。

信号しんごうあおわり、まちがいっせいにうごす。おとこもそのながれにってあるす――が、そのとき不意ふいに、あのきょくと、あのこえみみった。

『サイレンス・コード』。

おとこあしまる。ひとなみかれかたにぶつかり、いくつかの舌打したうちがうしろからこえた。だがかれはまるでこえなかったかのように、そっと視線しせんげる。

大型おおがたビジョンにうつるのは、かつてみずからがいた場所ばしょ――熱狂ねっきょういたみのただなかで、たましいけずるようにうたげる、自分じぶん自身じしん

おとこは、だれにもこえないほどのちいさなこえで、まるで自分じぶん自身じしんかせるように、かわいたくちびるから一言ひとことだけをこぼした。

「……ああ、結局けっきょく、おまえなんだな」

その言葉ことばが、あざけりなのか、諦念ていねんなのか、それともれぬ執着しゅうちゃくあらわれなのか。
かれ表情ひょうじょうは、変装へんそうおくかくれてだれにもれない。
ただ、その一言ひとことしたおとこかたが、ほんのすこしだけふるえたようにえたのは、ふゆわりにけるつめたいかぜのせいだったのかもしれない。

かれは、もう一度いちどだけみじかいきくと、今度こんどこそひとなみまぎれ、その姿すがた雑踏ざっとうなかへとしていった。

かれさきを、そしてかれこころ本当ほんとうもとめているものを、ものだれもいない。

やがて、その痛々いたいたしいほどうつくしい映像えいぞうも、けたたましいおとともつぎのコマーシャルへと無情むじょうわり、人々ひとびとはまた、それぞれの日常にちじょうというの、わりのない物語ものがたりへともどっていく。
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