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第19章「ささやかな灯」 (佐原視点)
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夜の部屋に、音だけがあった。
カーテンの隙間から漏れる街灯の明かりが、机の上を淡く照らしている。
佐原は椅子にもたれ、スマートフォンをスピーカーにして音声ファイルを再生していた。何度目の再生か、自分でももう分からない。
──『……久しぶりに、歌ってみた。下手くそだったら笑ってくれ』
ぶっきらぼうな前置きに、ふと息をのむ。懐かしい、だけではない。その声には、少しだけ不安げな揺らぎがあった。
最初に聴いたとき、再生を途中で止めてしまった。あまりにも真っ直ぐで、その音が、彼の中の何かを揺らしたからだ。
けれど今は、無意識に再生を繰り返している。
七原の声は、昔と似ているようで、決定的に違っていた。深く、静かで、どこか頼りない。ひとことで言えば──生々しい。
「……あいつ、こんなに深い声、していたか」
呟いて、佐原はイヤホンを手に取った。スピーカーを切り、音を耳の奥に流し込む。
──これは、ただの歌じゃない。あの頃の七原と、今の七原が、継ぎ目なく溶けていた。
ベッドの縁に腰を下ろし、額を掌で覆う。
あの頃、自分は“支える”つもりでそばにいた。けれど──それは本当に、七原のためだったのか。
「……そばにいることで、自分が“必要な人間”だって思いたかっただけかもしれない」
その独白に、苦く笑う。
──結局、俺もアイツを利用してたんだ。
「守る資格なんか、最初からなかったのにな……」
自分の弱さをごまかすための言い訳を、何度繰り返しただろう。
目を閉じても、耳はまだ声を求めていた。再生が終わるたび、指が勝手にもう一度ボタンを押す。
七原の中に、確かに灯っているものがある。それは希望というにはあまりにも小さく、けれど──
「……届いたんだな」
消すことも、燃やし尽くすこともできない、その小さな灯。
もう一度向き合えるかどうかは分からない。でも、もう逃げたくはなかった。
カーテンの隙間から漏れる街灯の明かりが、机の上を淡く照らしている。
佐原は椅子にもたれ、スマートフォンをスピーカーにして音声ファイルを再生していた。何度目の再生か、自分でももう分からない。
──『……久しぶりに、歌ってみた。下手くそだったら笑ってくれ』
ぶっきらぼうな前置きに、ふと息をのむ。懐かしい、だけではない。その声には、少しだけ不安げな揺らぎがあった。
最初に聴いたとき、再生を途中で止めてしまった。あまりにも真っ直ぐで、その音が、彼の中の何かを揺らしたからだ。
けれど今は、無意識に再生を繰り返している。
七原の声は、昔と似ているようで、決定的に違っていた。深く、静かで、どこか頼りない。ひとことで言えば──生々しい。
「……あいつ、こんなに深い声、していたか」
呟いて、佐原はイヤホンを手に取った。スピーカーを切り、音を耳の奥に流し込む。
──これは、ただの歌じゃない。あの頃の七原と、今の七原が、継ぎ目なく溶けていた。
ベッドの縁に腰を下ろし、額を掌で覆う。
あの頃、自分は“支える”つもりでそばにいた。けれど──それは本当に、七原のためだったのか。
「……そばにいることで、自分が“必要な人間”だって思いたかっただけかもしれない」
その独白に、苦く笑う。
──結局、俺もアイツを利用してたんだ。
「守る資格なんか、最初からなかったのにな……」
自分の弱さをごまかすための言い訳を、何度繰り返しただろう。
目を閉じても、耳はまだ声を求めていた。再生が終わるたび、指が勝手にもう一度ボタンを押す。
七原の中に、確かに灯っているものがある。それは希望というにはあまりにも小さく、けれど──
「……届いたんだな」
消すことも、燃やし尽くすこともできない、その小さな灯。
もう一度向き合えるかどうかは分からない。でも、もう逃げたくはなかった。
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