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第20章「道の途中」 (七原視点)
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──送るだけじゃ、足りなかったんじゃないか。
スタジオに向かう電車の窓に映る自分の顔が、やけに他人のように見えた。
七原はスマホを取り出して、音声ファイルの送信履歴を確認する。既読にはなっていた。でも、それきりだった。
心臓が重い。どこかへ投げたはずの不安が、じわじわと這い上がってくる。
「……直接、渡せばよかったか」
独り言のようにつぶやいた声は、座席に沈んで消えた。そもそも、メールで送るって選択が、もう逃げだったのかもしれない。
スタジオの扉を開けると、梶本が椅子に浅く腰かけて、何かの音源を確認していた。
七原は黙って近づいて、ソファに腰を下ろした。
「……なあ、梶」
「ん」
「……あの歌、録ったやつ。送ったんだ」
梶本は手を止めずに「ふーん」とだけ答えた。
「そしたら、既読にはなったけど、何の返事もなくてさ。やっぱ、直接持って行った方がよかったんかなって……」
ようやく顔を上げた梶本が、こっちを見て笑った。
「……あのなあ。お前、何年止まってたと思ってんだよ」
「は?」
「止まってたっていうか、止めてたんだよ、自分で。それをさ──今さら、ちょっと音出して、反応ないって凹んでんの? ガキかよ」
「……別に、そういうわけじゃ──」
「じゃあ何だよ。聴いてほしくて送ったんだろ? なら、最後までやれよ。その声、やっと動き出したんだから」
七原は、少しの間、何も言えなかった。叱られたわけじゃない。でも、その言葉は、胸の奥に刺さっていた。
「……ずっと、歌なんかいらないって思ってた」
「知ってるよ。顔見りゃわかる」
梶本は立ち上がり、ギターの弦を軽く弾いた。
「でも、あの歌はお前のまんまだ。止まってたんじゃねえ。ただ、凍ってた。ようやく溶けたんだよ」
七原は、手のひらを見つめた。震えていた。それでも、少しずつ温かさを取り戻している気がした。
「……もう一回、会いに行くわ」
「ああ、そうしな」
梶本は、こちらを見ずに答えた。
「ちゃんと歩けよ。道の途中で立ち止まってる暇なんか、もうねえんだからさ」
七原は黙ってうなずいた。どこへ向かっているのか、自分でもまだ分からない。それでも、立ち止まり続けていた場所から、一歩だけ、前に踏み出せそうな気がしていた。
スタジオに向かう電車の窓に映る自分の顔が、やけに他人のように見えた。
七原はスマホを取り出して、音声ファイルの送信履歴を確認する。既読にはなっていた。でも、それきりだった。
心臓が重い。どこかへ投げたはずの不安が、じわじわと這い上がってくる。
「……直接、渡せばよかったか」
独り言のようにつぶやいた声は、座席に沈んで消えた。そもそも、メールで送るって選択が、もう逃げだったのかもしれない。
スタジオの扉を開けると、梶本が椅子に浅く腰かけて、何かの音源を確認していた。
七原は黙って近づいて、ソファに腰を下ろした。
「……なあ、梶」
「ん」
「……あの歌、録ったやつ。送ったんだ」
梶本は手を止めずに「ふーん」とだけ答えた。
「そしたら、既読にはなったけど、何の返事もなくてさ。やっぱ、直接持って行った方がよかったんかなって……」
ようやく顔を上げた梶本が、こっちを見て笑った。
「……あのなあ。お前、何年止まってたと思ってんだよ」
「は?」
「止まってたっていうか、止めてたんだよ、自分で。それをさ──今さら、ちょっと音出して、反応ないって凹んでんの? ガキかよ」
「……別に、そういうわけじゃ──」
「じゃあ何だよ。聴いてほしくて送ったんだろ? なら、最後までやれよ。その声、やっと動き出したんだから」
七原は、少しの間、何も言えなかった。叱られたわけじゃない。でも、その言葉は、胸の奥に刺さっていた。
「……ずっと、歌なんかいらないって思ってた」
「知ってるよ。顔見りゃわかる」
梶本は立ち上がり、ギターの弦を軽く弾いた。
「でも、あの歌はお前のまんまだ。止まってたんじゃねえ。ただ、凍ってた。ようやく溶けたんだよ」
七原は、手のひらを見つめた。震えていた。それでも、少しずつ温かさを取り戻している気がした。
「……もう一回、会いに行くわ」
「ああ、そうしな」
梶本は、こちらを見ずに答えた。
「ちゃんと歩けよ。道の途中で立ち止まってる暇なんか、もうねえんだからさ」
七原は黙ってうなずいた。どこへ向かっているのか、自分でもまだ分からない。それでも、立ち止まり続けていた場所から、一歩だけ、前に踏み出せそうな気がしていた。
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