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第21章「呼び鈴」 (佐原視点)
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──この時間の呼び鈴は、たいてい間違いか、緊急か、あるいは……。
佐原は書類をまとめていた手を止め、わずかに眉をひそめた。電子音が静かな院内に不意に響いたとき、もう玄関の照明は落としていた。
静かに椅子を引いて立ち上がり、玄関のモニターを覗いた佐原は、そこで息を呑んだ。
──七原。
薄暗い照明の下、玄関の外に立つその姿は、記憶よりも少しやつれて見えた。だけど目は、以前よりずっとまっすぐだった。
佐原は無言でオートロックを解錠した。ほんのわずかに震えた自分の手を、咎めるように見つめながら。
「……どうぞ」
玄関を入ってきた七原は、薄手のコートの襟を指でつまみながら、どこか所在なさげに立ち尽くしていた。
「診察……じゃないんだけど」
「わかってる」
その言葉が自然に出たことに、佐原自身が驚いた。
七原はわずかに目を伏せ、それから診察室の方へ視線をやった。
「……中、入っていい?」
「ああ、もちろん」
照明は半分落としていた。灯りの少ない診察室は、まるで夜の水面のように静かだった。
七原は、かつてのように、あの椅子に腰を下ろした。
佐原は机をはさんで向かいに座り、口を開いた。
「……ファイル、聴いたよ」
七原の動きが止まる。次の瞬間、彼はゆっくりと顔を上げた。
「……そうか」
「お前の声が、前より……ずっと近くに感じた。あの頃よりも、ずっと生きてる音だった」
言いながら、どこか胸の奥が疼いた。
「……歌ってよかったのか、わからなかった」
「わからなくていい。……お前がそうしたかったなら、それが答えだ」
佐原の声は、どこか優しく、けれどどこか切実だった。
「もう──何かを救えると思ってないよ」
「……それでも、お前は来たんだな」
その言葉に、七原の目がわずかに揺れた。
「……逃げるのに疲れただけかもな」
「それでもいいさ」
長い沈黙が、ふたりのあいだに落ちた。
ただ、静寂の中に、確かに何かが生まれつつあった。破綻ではない。決着でもない。でも、もう一度始めるために必要な「間」。
診察室の窓の外では、冷たい風が木の枝を揺らしていた。だけど室内の空気は、不思議と温かかった。
佐原は、ふと口元をゆるめた。
「……暖房、弱かったか?」
七原は目を細めた。その表情は、ほんの少しだけ笑っていた。
「いや──ちょうどいい」
まるで、ようやく戻る場所を見つけた人間のように。
佐原は書類をまとめていた手を止め、わずかに眉をひそめた。電子音が静かな院内に不意に響いたとき、もう玄関の照明は落としていた。
静かに椅子を引いて立ち上がり、玄関のモニターを覗いた佐原は、そこで息を呑んだ。
──七原。
薄暗い照明の下、玄関の外に立つその姿は、記憶よりも少しやつれて見えた。だけど目は、以前よりずっとまっすぐだった。
佐原は無言でオートロックを解錠した。ほんのわずかに震えた自分の手を、咎めるように見つめながら。
「……どうぞ」
玄関を入ってきた七原は、薄手のコートの襟を指でつまみながら、どこか所在なさげに立ち尽くしていた。
「診察……じゃないんだけど」
「わかってる」
その言葉が自然に出たことに、佐原自身が驚いた。
七原はわずかに目を伏せ、それから診察室の方へ視線をやった。
「……中、入っていい?」
「ああ、もちろん」
照明は半分落としていた。灯りの少ない診察室は、まるで夜の水面のように静かだった。
七原は、かつてのように、あの椅子に腰を下ろした。
佐原は机をはさんで向かいに座り、口を開いた。
「……ファイル、聴いたよ」
七原の動きが止まる。次の瞬間、彼はゆっくりと顔を上げた。
「……そうか」
「お前の声が、前より……ずっと近くに感じた。あの頃よりも、ずっと生きてる音だった」
言いながら、どこか胸の奥が疼いた。
「……歌ってよかったのか、わからなかった」
「わからなくていい。……お前がそうしたかったなら、それが答えだ」
佐原の声は、どこか優しく、けれどどこか切実だった。
「もう──何かを救えると思ってないよ」
「……それでも、お前は来たんだな」
その言葉に、七原の目がわずかに揺れた。
「……逃げるのに疲れただけかもな」
「それでもいいさ」
長い沈黙が、ふたりのあいだに落ちた。
ただ、静寂の中に、確かに何かが生まれつつあった。破綻ではない。決着でもない。でも、もう一度始めるために必要な「間」。
診察室の窓の外では、冷たい風が木の枝を揺らしていた。だけど室内の空気は、不思議と温かかった。
佐原は、ふと口元をゆるめた。
「……暖房、弱かったか?」
七原は目を細めた。その表情は、ほんの少しだけ笑っていた。
「いや──ちょうどいい」
まるで、ようやく戻る場所を見つけた人間のように。
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