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夢のような。【二宮×米田】
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教室で聞こえるここ数日の会話は2つだけだ。
1つは期末テストのこと。
「全然勉強してないよー。」
「前日は徹夜だー。」
「数学わかんねえよー。」
テスト前になるとみんな知能指数が下がるのだろうか。
普段から勉強しておけば困ることはないはずなのだが、何度やっても学ばないし挙句なぜか1部心理戦になりつつある。
もう1つは来週開催の夏祭りのことだ。
この地域では最大のイベントで、毎年かなり賑わっているらしい。
テスト前なのだから夏祭りに現を抜かさずにおとなしく勉強をしていれば前日に徹夜をすることはないと思うが、それをわざわざ言ってやる義理はないから言わない。
私は人混みが苦手で一緒に行く人もいないから、夏祭りにはほとんど行ったことがない。
今年も行くことは無さそうだ。
興味がないわけではない。
花火くらいは見てみたい。
でも1人で行って楽しめる自信は全くない。
パッと二宮君の顔が浮かぶ。
轟音と共に夏の夜空に儚く消え行く花火。
浮かれて「たまやー」などと叫ぶ二宮君。
花火の光にに照らされるその横顔。
そして隣にいる私を見てニッと笑う。
そのなんとも言えない美しさ。
そこまで思い浮かべて、ないない、と首を振る。
付き合ってもないしそもそも好きでもないのに、そんなカップルみたいなこと、ありえない。
ありえない。
ふと浮かんだ幻想を、くだらない、と振り払って授業の準備をし始めた。
毎度の事ながら放課後は図書室に向かう。
今日は二宮君が受付当番のはずだが、昼間の幻想が妙に脳裏にこびりついてなんだか会うのが気まずい。
図書室前の掲示板には夏祭りのポスターが5枚も張り出されている。
それだけ掲示するものがなかったのだろう。
だからといってあからさまに同じポスターを5枚も貼るのはどうかと思うが。
図書室の扉を開けるとやはり受付には二宮君がいた。
何かのチラシらしい紙を見ながらニヤニヤしている。
二宮君は私に気づくと大急ぎで見ていた紙をカウンターの下に隠して笑顔を向けてきた。
「せ、先輩、いらっしゃいませ。」
「さっきの何?」
「え、なんでもないですよ。それより、図書館戦争ようやく読了しましたよ!めちゃくちゃ面白かったです!」
「ああ、そう。良かった。」
「今日は何の本を読むんですか?」
そういえば考えてなかった。
何を読もう。
「夏祭りの本...。」
「そんなのあるんですか?」
「あ、いや、わからないけど...。」
「先輩、夏祭りとか興味あるんですか?」
「別にないよ。」
「ですよねー。」
二宮君は、あはは、と乾いた声で笑った。
「じゃあ、私は本読むから。」
「はーい、ごゆっくり。」
夏祭りの本がなかなか見つからない。
よく考えたら夏祭りのシーンがある本はあっても夏祭りだけのストーリーはなかなかない。
それくらいは私でもわかる。
そもそもどうして夏祭りの本なんて読まないといけないんだ。
そう思い直してふと視界に入った小説を手に取り、いつもの窓際の席に座る。
浮かれた人混み。
浴衣に身を包んだ女性と隣を歩く男性。
屋台で買ったお菓子を持ってはしゃぐ子どもたち。
「まもなく、納涼花火大会を開始します。」
アナウンスが鳴り響くと人々はいっせいに同じ方向に歩き始める。
私もそれに流されてしまう。
人の流れとはこんなにも強いものか。
どんなに足掻いても濁流のような人混みに押し流されてしまう。
伸ばした右手を掴む感覚。
そのまま引っ張られる。
そこには二宮君がいた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「花火、行きましょうか。」
「うん。」
花火が上がる。
腹の底から突き上げられるような重低音と共に、夜空に巨大な花畑が出来上がる。
「たまやー!」
二宮君が叫んだ。
その顔は明らかに浮かれている。
だが同時に、花火に照らされるその横顔はなんとも言えない...。
「...せんぱい、先輩!」
顔を上げると二宮君が私の顔を覗き込んでいた。
私はどうやら居眠りをしていたようだ。
「おはようございます。今日のは退屈でしたか?」
「そうだね。ちょっとつまらなかった。帰る準備するね。」
「はい。」
二宮君が図書室の鍵を閉め、職員室に鍵を返しに行く。
私は振り払ったはずの光景を夢に見てしまったせいで、また気まずさを感じてしまっている。
「先輩、今日機嫌悪いですか?」
「別に。」
「そうですか。」
帰り道、こんな会話にもならない会話が何度も繰り返されるだけだ。
「先輩、今日先輩が来た時に隠した紙なんですけど。」
「夏祭りのチラシじゃないの?」
「わかってたんですか。」
「何となく察した。図書室前の掲示板にいっぱい貼ってたし。」
少しの沈黙の後、二宮君は私の前に回り込んだ。
「夏祭り一緒に行きませんか?俺、先輩と屋台回って花火見たいです。」
突然の出来事とあまりにまっすぐで真剣な目付きに少し驚いてしまう。
あの幻想が、ありえないと振り払った光景が、本物になろうとしている。
「私でいいの?一緒に行っても楽しくないよ。」
「絶対楽しいです。楽しいって思わせます。絶対に。」
「友達とは行かないの?」
「誘われましたけど、どうしても先輩と行きたくて断りました。」
「何それ。」
クスッと笑ってしまう。
そんなに私と行きたいんだろうか。
「ダメですか?」
「ううん、いいよ。行こう。」
二宮君の表情がパァっと明るくなる。
なんていうか、可愛い。
「よっしゃー!」
子どもみたいに喜ぶ。
「じゃあ日曜日、駅で待ち合わせで良いですか?」
「うん。」
「あ、別に気を使って浴衣とか着なくていいですからね。」
「うん、浴衣持ってないし。」
二宮君と夏祭りに行ける。
それがなんだか凄く嬉しく感じた。
こんなにドキドキするのはいつぶりだろう。
夢のような夏祭りまで、あと1週間。
1つは期末テストのこと。
「全然勉強してないよー。」
「前日は徹夜だー。」
「数学わかんねえよー。」
テスト前になるとみんな知能指数が下がるのだろうか。
普段から勉強しておけば困ることはないはずなのだが、何度やっても学ばないし挙句なぜか1部心理戦になりつつある。
もう1つは来週開催の夏祭りのことだ。
この地域では最大のイベントで、毎年かなり賑わっているらしい。
テスト前なのだから夏祭りに現を抜かさずにおとなしく勉強をしていれば前日に徹夜をすることはないと思うが、それをわざわざ言ってやる義理はないから言わない。
私は人混みが苦手で一緒に行く人もいないから、夏祭りにはほとんど行ったことがない。
今年も行くことは無さそうだ。
興味がないわけではない。
花火くらいは見てみたい。
でも1人で行って楽しめる自信は全くない。
パッと二宮君の顔が浮かぶ。
轟音と共に夏の夜空に儚く消え行く花火。
浮かれて「たまやー」などと叫ぶ二宮君。
花火の光にに照らされるその横顔。
そして隣にいる私を見てニッと笑う。
そのなんとも言えない美しさ。
そこまで思い浮かべて、ないない、と首を振る。
付き合ってもないしそもそも好きでもないのに、そんなカップルみたいなこと、ありえない。
ありえない。
ふと浮かんだ幻想を、くだらない、と振り払って授業の準備をし始めた。
毎度の事ながら放課後は図書室に向かう。
今日は二宮君が受付当番のはずだが、昼間の幻想が妙に脳裏にこびりついてなんだか会うのが気まずい。
図書室前の掲示板には夏祭りのポスターが5枚も張り出されている。
それだけ掲示するものがなかったのだろう。
だからといってあからさまに同じポスターを5枚も貼るのはどうかと思うが。
図書室の扉を開けるとやはり受付には二宮君がいた。
何かのチラシらしい紙を見ながらニヤニヤしている。
二宮君は私に気づくと大急ぎで見ていた紙をカウンターの下に隠して笑顔を向けてきた。
「せ、先輩、いらっしゃいませ。」
「さっきの何?」
「え、なんでもないですよ。それより、図書館戦争ようやく読了しましたよ!めちゃくちゃ面白かったです!」
「ああ、そう。良かった。」
「今日は何の本を読むんですか?」
そういえば考えてなかった。
何を読もう。
「夏祭りの本...。」
「そんなのあるんですか?」
「あ、いや、わからないけど...。」
「先輩、夏祭りとか興味あるんですか?」
「別にないよ。」
「ですよねー。」
二宮君は、あはは、と乾いた声で笑った。
「じゃあ、私は本読むから。」
「はーい、ごゆっくり。」
夏祭りの本がなかなか見つからない。
よく考えたら夏祭りのシーンがある本はあっても夏祭りだけのストーリーはなかなかない。
それくらいは私でもわかる。
そもそもどうして夏祭りの本なんて読まないといけないんだ。
そう思い直してふと視界に入った小説を手に取り、いつもの窓際の席に座る。
浮かれた人混み。
浴衣に身を包んだ女性と隣を歩く男性。
屋台で買ったお菓子を持ってはしゃぐ子どもたち。
「まもなく、納涼花火大会を開始します。」
アナウンスが鳴り響くと人々はいっせいに同じ方向に歩き始める。
私もそれに流されてしまう。
人の流れとはこんなにも強いものか。
どんなに足掻いても濁流のような人混みに押し流されてしまう。
伸ばした右手を掴む感覚。
そのまま引っ張られる。
そこには二宮君がいた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「花火、行きましょうか。」
「うん。」
花火が上がる。
腹の底から突き上げられるような重低音と共に、夜空に巨大な花畑が出来上がる。
「たまやー!」
二宮君が叫んだ。
その顔は明らかに浮かれている。
だが同時に、花火に照らされるその横顔はなんとも言えない...。
「...せんぱい、先輩!」
顔を上げると二宮君が私の顔を覗き込んでいた。
私はどうやら居眠りをしていたようだ。
「おはようございます。今日のは退屈でしたか?」
「そうだね。ちょっとつまらなかった。帰る準備するね。」
「はい。」
二宮君が図書室の鍵を閉め、職員室に鍵を返しに行く。
私は振り払ったはずの光景を夢に見てしまったせいで、また気まずさを感じてしまっている。
「先輩、今日機嫌悪いですか?」
「別に。」
「そうですか。」
帰り道、こんな会話にもならない会話が何度も繰り返されるだけだ。
「先輩、今日先輩が来た時に隠した紙なんですけど。」
「夏祭りのチラシじゃないの?」
「わかってたんですか。」
「何となく察した。図書室前の掲示板にいっぱい貼ってたし。」
少しの沈黙の後、二宮君は私の前に回り込んだ。
「夏祭り一緒に行きませんか?俺、先輩と屋台回って花火見たいです。」
突然の出来事とあまりにまっすぐで真剣な目付きに少し驚いてしまう。
あの幻想が、ありえないと振り払った光景が、本物になろうとしている。
「私でいいの?一緒に行っても楽しくないよ。」
「絶対楽しいです。楽しいって思わせます。絶対に。」
「友達とは行かないの?」
「誘われましたけど、どうしても先輩と行きたくて断りました。」
「何それ。」
クスッと笑ってしまう。
そんなに私と行きたいんだろうか。
「ダメですか?」
「ううん、いいよ。行こう。」
二宮君の表情がパァっと明るくなる。
なんていうか、可愛い。
「よっしゃー!」
子どもみたいに喜ぶ。
「じゃあ日曜日、駅で待ち合わせで良いですか?」
「うん。」
「あ、別に気を使って浴衣とか着なくていいですからね。」
「うん、浴衣持ってないし。」
二宮君と夏祭りに行ける。
それがなんだか凄く嬉しく感じた。
こんなにドキドキするのはいつぶりだろう。
夢のような夏祭りまで、あと1週間。
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