野蛮な令嬢

瑞多美音

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野蛮な令嬢

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 「コーデリア!貴方との婚約を破棄させてもらう!」

 珍しく婚約者に茶会に誘われたので忙がしいなか出席したら……この言葉です。
 まぁ、舞踏会でやらかさなかっただけましでしょう……一応人払いもされているようですし。
 本来なら、応接室などの当事者のみでやってほしかったですね……ここにはきっと間者も多いですから。


 それだけでなく殿下の隣には華奢で幸薄そうな女性の姿が……ご挨拶した記憶がございませんので、誰かは知りません。

 「ふふ。ごめんなさい。殿下はコーデリア様よりわたくしを選んでくださいました」
 「そういうことだ。俺はヘレンと真実の恋を見つけたのだ!野蛮な辺境で筋肉や魔物にしか興味のない貴方ではなく、か弱いヘレンを守りたいのだ」

 確かに、私は女性にしたら筋肉もついてますし、そこら辺の冒険者より魔物を倒してますけど……女性騎士にもっとすごい方いますよ?

 そう言う第三王子もその横のヘレン様もものすごく華奢でいらっしゃる。か弱いという言葉がぴったりだ。私がちょっと殴ったら骨が数本折れそうなくらい……多分、辺境領にいる幼児の方がふたりより強いですね。
 まぁ、この国は『貴族は華奢であるだけよい』という風習がありますからねぇ……鍛えているのは野蛮とでも言いたいのでしょう。
 辺境伯の名は魔物に苦戦する周辺国に知らぬものはいないとまで言われ、目標とまでされるのにこの国はどうして下に見るのか……

 ただし、騎士は例外として鍛えていて当たり前。華奢な彼らの護衛兼引き立て役もかねているので……


 まぁ、辺境では私なんて細い方ですけど……

 「婚約破棄承知いたしました。では、事前の契約通りにさせていただきますのであしからず。書類はすぐに提出したく思いますのでこちらとこちらへ署名を3枚ずつお願いいたします」

 第三王子はろくに確認もせず出されたものに署名した。あとで怒られても知りませんよ。
 私と殿下と提出用の3枚、きっちり署名を確認し……自分も署名をした。

 脳筋だが娘のために知恵を絞った両親と執事の活躍のおかげで婚約契約書を作成することができたのだ。
 王家からの命令で仕方なかったとはいえ……婚約から婚姻した場合、婚約が両家の合意で白紙になった場合、婚約破棄した場合など読むのが嫌になるくらいとにかく細かく決めてあったのだ。
 
 「では、こちらが殿下の分の書類になりますので……提出はこちらでさせていただきますね」
 「ふん、せいぜい辺境で魔物狩り楽しむがいい!行こう、ヘレナ」
 「はい」


 ちなみに第三王子有責での婚約破棄の場合、莫大な慰謝料を払うことはもちろん……今までは辺境伯家が一部の魔物の素材を献上していたが、それもなくなり必要な場合はその都度買い取りとなった。
 その他にも細かな取り決めがされていたようだ……辺境伯家のブレーンの執事が頑張ってくれたおかげでその後はなかば独立国家のように扱われることが明記されていたのだ。

 王家も辺境伯という魔物から国を守っている存在を失いたくなかったため、書類作成に協力した。当然、起こるはずがないがご機嫌取りもかねて認めてやったのだ。決して、小さい文字の羅列で読むのが面倒になったとかではない……はず。

 もちろん、第三王子が馬鹿なことをしないよう教育もしたし信じていたので……

 その足で書類を提出し、受理を確認したあと……さっぱりした気分でコーデリアは辺境へと戻ったのであった。


 本来、王国軍が対峙すべき魔物の脅威を辺境伯家が取り除いていたが辺境伯家はそれから手を引き依頼をされれば駆け付けることとなる。
 ちなみに辺境伯家は戦闘狂の気があるので、隣国でも魔物討伐や合同演習など依頼があれば嬉々として駆け付けた……次第に周辺国からの支持も高くなっていき、国内で主流だった『貴族は華奢であるだけよい』という風習も廃れていった。

 

 「なぁなぁ、コーデリア……その筋肉ムキムキの姿って強化魔法だろ?使わなかったらお前めっちゃスタイルいいじゃん」
 「あら、戦うときはこの姿ですもの。それも含めて愛してくれなきゃ」

 それに、そのおかげていやだった婚約も破棄できましたし!
 私だって、華奢で魔物にすぐ倒されてしまいそうな第三王子より一緒に魔物と戦ってくれる筋肉ムキムキのひとのほうがいいわ!領民を守れるなら筋肉サイコーですわっ!

 「なぁ、俺こないだA級モンスターソロで倒したんだ!そろそろ親父さん認めてくんねぇかなー?」
 「さぁ、どうでしょうねぇ……辺境伯領は実力主義ですからね」
 「だよなぁ……最低でもS級を倒してから来いとか言われそうだぜ」
 「うーん、辺境にはA級とS級モンスターはごろごろいますからねぇ……SS級モンスターなら確実に認めてくれると思いますけど、SS級の出現情報を知ると皆さん喜んで飛んでいきますからねぇ」
 「そうなんだよ。SS級モンスターの出現を知った時点で討伐されてたりすること多いしなぁ……」

 その筆頭が辺境伯や辺境伯嫡男やコーデリアだったりする……辺境伯夫人や妹や弟たちもパーティを組めばA級、S級討伐してしまえるので競争は激しいのだ。

 「まぁ、もう少しだけ待っててあげますわっ」
 「おう!」

 コーデリアが初恋の彼と辺境で結婚式をあげるのはそれから少ししてのこと……



 一方、新たに婚約者となったヘレンはすぐに体調を崩すわ、ダンスを踊る体力がないなど、問題を抱え遅々として王子妃教育は進まなかった……彼女の家はすでに嫡男が継いでいるうえ、第三王子はいずれは家を起こす予定ではあるが、王子妃教育をしなくて済む問題ではなかった。
 だが、ふたりの成果次第では公爵家など夢のまた夢で子爵位もあり得るとか……あれだけバカにした筋肉を使い魔物を倒すなどの功績をたてられればまた違うのだろうが簡単なことではないだろう……

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