4 / 8
4
しおりを挟む門をくぐり教会まで送ってもらったけど、あとはご自由にとばかりみなさっさといなくなってしまった。ねぇ、わたしまだ10歳なんですけど!たしかに、10歳から働きにでる子もいるけどさぁ……はぁ。
王都の教会と比べると小さくボロい印象だが、ここで足踏みをしているわけにもいかないと行列を横目にトボトボと教会内へ入った。
「ご用の方は列に並んでくださいっ!」
「え、いや……あのー」
睨まれてしまった。こわっ。仕方ない……なんの列かよくわからないが並ぶことにしよう。
「本日はここまでとなりまーす!」
「「えぇ」」
「「そんなぁ」」
「「「まただわ……」」」
「俺、締め切られたのもう3度目だぜ」
「儂は2度目じゃ……あそこの婆さんは6度目らしいぞ」
「やっぱ、日が昇る前から並ぶしかないかの」
「はっ。そんな元気あったら教会に来ねぇっての!」
「たしかになぁ」
あれ?列に並んでたのに締め切られた。並んだ意味ねーな!
「あのー、すいません」
「もう、だから今日はもう終わりなんです!」
「いや、そうではなくて……こちらを司教様に渡していただきたいのです」
少し強引に王都の教会でもらった手紙を差し出す。
「えっ!少々、お待ちを!」
どうやら、わたしのことはあの手紙で初めて知るようだ。
いや、それでいいわけ?事前に連絡いってるよね?え?教会で調整待ちって馬車とかそういう意味だったの?聖女候補派遣の書簡と聖女候補が同時に到着ってアリ?
少し待っていると……
「手紙は拝見しました。ようこそ候補殿」
「リリシュと申します。よろしくお願いいたします」
司教様が丁寧だったのはここまでだった。
部屋を振り当てられ、世話係が紹介されたり指導されるのかと思えば……
「あとは適当に見て学んでください。我々も忙しい身なのでね」
ふんっと鼻で笑って去っていった……まじかよ。
王都の教会では詳しくは現地の聖女や司教などが教えるとしか聞いていなかったけど……きっと、教えてもらうにも賄賂が必要なんだろうな。
けっ……そんなお金ありませんよーだ。
翌日からとにかくやるしかないと必死に見て学ぼうとしたけどさ、ろくに見せてもらえないのね……それに聖女や候補の数も少ないし、下働きばかりさせられて同じ空間にいないことの方が多い始末。
見るに見かねた平民出身の回復魔法使いロレンザ(足腰が弱くなった老婆)さんがこっそりコツや魔力について教えてくれなければ途方にくれるところだった………まぁ、回復魔法と聖女の聖魔法は微妙に違うけどさ、魔力の扱い方とか教えてもらえただけでも安心感が違うよね。
といってもロレンザさんも教会に身を置いていて、立場が弱いからばれないように短い時間だったけど。
ともかく、わたしの聖女候補生活はロレンザさんのアドバイスと教本が頼りに始まった。
教えてはくれないのに「あなた、これやっといて」「そこの候補!これも頼む」など続々と仕事がまわってくるので必死に工夫した。
魔力が余ったときや寝る直前には魔石に自身の魔力をこめて予備とした。
これは教本に魔石に聖魔法を閉じ込める方法として載っていて、それなら魔力も出し入れできるのでは?と試してみたら出来たのだ!
他のひとがやっているのは見たことないけれど、これが出来るようになったことでいくらか楽になった……が、その分仕事が増えたので負担は変わってない。
毎日、魔力枯渇で気絶していたらじわじわと魔力が増えることも発見した。
魔石は伯爵令嬢時代のアクセサリーからくすねてきたものを使用したり、貧民街に住む中年の冒険者夫婦のマレナさんやドルツさんがたすけてくれた。
マレナさんたちはわたしの扱いに気づいたんだろう……わざわざ行列に並んでこっそりと手紙を渡してきたのだ。
行列とは当初わたしも並んだアレである。
聖女の癒しを求めたもので聖女や聖女候補たちは貴族やお金持ちしか相手にしないため、平民は行列に並ぶか賄賂を渡して別入口からいれてもらうしかない。行列はすぐに締め切られることも多く並んでも無駄になることも……辺境でも賄賂は力を持っていたのだ。
まぁ、辺境に追いやられたひとたちばかりだから当然といえば当然か。
平民のほとんどはわたしかロレンザさんの担当でロレンザさんは体が不自由なためわたしの負担は大きくいつも駆けずり回っていた。
回復魔法は聖魔法の下位互換という認識で回復魔法と聖魔法の一番大きな違いは瘴気が浄化できるかどうかだ。
瘴気は詳しいことはわかっていないが瘴気の濃いところでは魔物が発生したり、人体に影響を与えるので浄化が必要なんだとか。
そういう姿を見て、マレナさんからの手紙には困っていることや必要なものはないか?逃げるときは手を貸すなど……気遣うことばかりが書かれていた。
ロレンザさん曰く、ふたりは冒険者をしながら捨て子を見つけては育てている気のいいひとたちなのだそう。子どものわたしを心配してくれたのかもしれない。
実父に迎えられて唯一よかったと思えるのは読み書きが完璧に出来、貴族になりきるマナーを学べたことかな。
短期間なのでマナーは付け焼き刃だが、それまでも読み書きはなんとかできたがスピードが違うし誤字も多かったから。
貴族になりきるマナーは学んだけど教会ではほとんど役に立たない。だって、そこらの平民出身の下働きより下の扱いだからねっ!
冒険者でも識字率は低いというのにワザワザ手紙を書いてくれるなんて……悩んだけれどほしいものは魔石を頼んだ。切羽詰まっていたので!一番安いやつでいいので……だって、冒険者ならよわい魔物を倒すこともあるかと思って。もちろん、お礼にわたしのできることはしたよ。魔石に聖魔法を込めて渡したり……ね。
逃げ出すことも考えたけど、お偉いさんに逃げたらわたしによくしてくれる人たちを傷付けると匂わされ断念。お偉いさんたちって無関心なようでひとの弱点となるところはキチッと押さえてくるんだから末恐ろしい。
わたしは毎日のように早く手の甲の紋様が消えて慰労金をもらって平民として暮らせればいいのにと願っていた。
あ、ふさふさの髪が自慢のお偉いさんに禿げの呪いもかけておいた。せいぜい禿げるがいい!
教会は護衛という名の見張りがいるため接触は難しい……が、時々平民出身の護衛がいて見て見ぬふりをしてくれるためなにかの受け渡しはその時に行うか、護衛の中にに冒険者夫婦に育てられたこどもがいるらしくたまに手引きしてふたりと会わせてくれた。
まず、会って教えてもらったのは暗号である。
わりと簡単なのだが……手紙を手順通りに折っていくと文字が出てくる仕様だ。
この暗号はふたりに近しいものしか折り方を知らないそうで、知らない人から見ればくしゃくしゃの紙だと思われるので重要なことはそちらを使うことが増えていった。この折り方を知っているひとは信用してもいいみたいだ。ふたりには感謝しかない。
21
あなたにおすすめの小説
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王家の血を引いていないと判明した私は、何故か変わらず愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女であるスレリアは、自身が王家の血筋ではないことを知った。
それによって彼女は、家族との関係が終わると思っていた。父や母、兄弟の面々に事実をどう受け止められるのか、彼女は不安だったのだ。
しかしそれは、杞憂に終わった。
スレリアの家族は、彼女を家族として愛しており、排斥するつもりなどはなかったのだ。
ただその愛し方は、それぞれであった。
今まで通りの距離を保つ者、溺愛してくる者、さらには求婚してくる者、そんな家族の様々な対応に、スレリアは少々困惑するのだった。
【完結】私は聖女の代用品だったらしい
雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。
元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。
絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。
「俺のものになれ」
突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。
だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも?
捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。
・完結まで予約投稿済みです。
・1日3回更新(7時・12時・18時)
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる