6 / 8
6
しおりを挟む「ああ、これでやっと終わります。貴女がこの国から消え去るなんて清々しますわ」
薄笑いでそういうお義母様にわたしはなにも言いませんでした……そう、言えないのではなく言わないのです。だって、口から出るとしたら罵倒なんだもん。ま、せいぜいぶくぶくと肥えて髪が薄くなっておしまい!
「そろそろ、時間ですので」
「……はい」
あーあ、ついにこの時がきてしまったか……
魔方陣の中央に立つ。しばらくすると魔方陣がゆっくりとひかりだした。
さっきまで不安や怒りを感じていたのに、そんなものはどこかへ溶けていきリリシュは開放感に満ちていた。
生け贄というくらいだ。すぐに殺されてしまうかも。
でも、わずかしかない休憩時間をつぎ込み……何故か王都でも生贄の日までは雑用をさせられた。
わたしが生け贄から逃げ出さないようにするための見張りがいたのだが、その人の身分がそこそこ高かったので逃げませんからぁ!とどうにか王立図書館の禁区に入れてもらい……過去の文献や歴史書を読み漁って得た情報にかけてみることにしたの。
え、そう簡単に禁区に入れるわけない?えーっと……生け贄になる前に自殺してやるー!わたしが死ねば他の者をなんて考えない方が賢明かと。手の甲にある紋様は誤魔化せないでしょう?もし、魔王がそれを知ったらこの国滅ぼされてもおかしくありませんよねぇ?って脅したんですよ。
つい最近まで知らされていなかった紋様を最大限有効活用法させてもらっただけ。
そして、『魔方陣が光ったとき、聖女を捧げれば以後数百年幸せに暮らせるであろう……』とは別に見つけた『聖女は心安らかで幸せな日々を送りました』という一文を見つけたの。まぁ、おとぎ話の一文なんだけどさ。
ほら、2つ合わせると『魔方陣が光ったとき、聖女を捧げれば以後数百年(聖女は心安らかで)幸せに暮らせるであろう……』とも読めるし!数百年間ってところがネックなんだけどねぇ。
もちろん、ただ都合良く書かれたのかも。でも死ぬのなら希望を持ったままがいい。絶望して死ぬのは癪なのでね!
多分、貴族のなかでわたしの本性を知っているのは護衛さんだけですね。えへ。
まぁ、この国のために生け贄にするんだからちょっとくらい融通をきかせてくれてもいいと思うの。
それをいうなら最後にもっと贅沢させてくれても良かったと思うけどさ……
それに聖女候補に決まったときに告げられた説明は何ひとつ守られなかった。あ、生家に支度金は支払われたか……うん、わたしにはなんの得もなかったな!せめて慰労金ぐらいよこせっての!
今後、表向き死んだことになるとはいえ……護衛さんを利用して冒険者ギルドからマレナさんとドルツさん宛に手紙も出しておいた。
手紙の内容はふたりに教えてもらった暗号で。この暗号はふたりに近しいものしかわからないのですべてを正直に書いた。きっと、心配してくれるとしたらふたりやその家族だけだから。
もし、生き残れたらお知らせすると添えておく。
だってさ、もしかしたら魔法陣の先は魔王なんていなくてただの荒野かもしれないし……希望は捨てたくない。
「ふふ……これで終わりはいやだな」
もし生き残れたら3日くらいずっとゴロゴロして寝まくってやる!あ、そうだ!こうなったらやけくそだ!もし魔王様に召喚されたのなら魔王様に交渉しよう!もし、殺すなら3日ほどゴロゴロとさせてくださいって!まぁ、無理かな……
◇ ◇ ◇
ふわっとした感覚のあと、まぶたに感じていた光が落ち着いた。
ゆっくりと目を開けると石造りの部屋のようだ。
「よく来た。花嫁よ」
声がした方を見ると濃い青髪をかき分けるようにしてこめかみから二本の立派な角が生えた男性が立っていた。
「……花嫁?魔王様の生け贄ではないのですか?」
「ん?我の生け贄だと?」
どうやら魔王様自らの出迎えだったようです。いや、まじで魔王様に召喚されたんだ……ははーっ!ってひれ伏すべき?
言い伝えにある醜く恐ろしいされる魔王にはとても見えない。でも、いきなり殺されなかったから、交渉できるかもっ。
「なんだ、何も聞かされていないのか? 聖女は魔王の花嫁となるかわり、今代の魔王は人族に戦争を仕掛けないという契約ではないか」
「そうなんですか?」
では『聖女は心安らかで幸せな日々を送りました』とは花嫁としてということ?角を無視すれば王国で花嫁になりたい人の行列ができると思う。それほどの美貌の持ち主だ。ただ、かなり大柄でわたしの頭は魔王様の胸辺りまでしか届いてない。首が痛くなりそう……
文献には生け贄としか書いていなかったのに……重要なことはちゃんと書いておいてよ!心構えが違うでしょーが!緊張が少し和らいだ。
なんか、頑張ったら生き残れる気がしてきた!
「うむ。なんなら先代とその妻に聞いてみてもよいぞ?」
「えっと……お父様とお母様ですか?」
「いや、魔王は先代が引退すると決めたときに一族で一番力のあるものが自動的に継ぐ称号なのだ。先代は叔父上と叔母上にあたる」
私の知らないことばかり。そして王国の者も知らないと思うな。かつては知っていたのかも。でも都合のよいように書き換えてしまったのだろうか?国が変わったからその間に紛失した場合もあるか……
しかし、どこか他の者を圧倒するような威圧感があるのでそういうところから生け贄とされた可能性もありそうだなぁ。
「私はここで何をすればよいのでしょうか」
「うむ。花嫁として好きに過ごすとよい」
「好きに……ですか」
「うむ。こちらに来た時点で花嫁となったため寿命は我と同等。数十年好きに過ごしたとて構わんだろ」
数十年……私の生きてきた何倍もの時間を好きに過ごしていいとは……なんてことだ。でも、えっと生け贄として命を落とすわけではないなら……んー?混乱してきた。あ、もしかして3日ぐらいごろごろして寝まくりたいってのは叶うかも?よし、賭けに勝てそうだぞ!
「とにかく、城へ案内しよう。捕まりなさい」
魔王様に手を繋がれ呆然としていると、いつの間にか豪華絢爛な場所へ移動していた。
「あれ、今……」
「お、花嫁殿は転移は初めてだったか」
転移……これが。魔方陣でこちらにきたのも転移だったのかな。
21
あなたにおすすめの小説
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】私は聖女の代用品だったらしい
雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。
元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。
絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。
「俺のものになれ」
突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。
だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも?
捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。
・完結まで予約投稿済みです。
・1日3回更新(7時・12時・18時)
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました
黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」
衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。
実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。
彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。
全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。
さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる