え、生け贄じゃなくて花嫁ですかっ?

瑞多美音

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 わたしの魔力無駄遣い発覚の翌日から、体調の様子を見つつ、お勉強がはじまった。

 まずは基本情報から。この国の名前はレフゥテール国といい、この大陸すべてがレフゥテール国の領地で魔人族、獣人族、亜人族、魔獣……ごくわずかだが人族と種族を問わず暮らしている。
 タンハーレ王国がある大陸とは海で隔てられた場所にあり、行き来には転移か船での長旅が必要らしい。

 「ですので、魔王様なら転移でわりとどこへでも連れていってくださるかと」
 「……なるほど」

 かつては同じ大陸だったが、色々と面倒が起きた時、かつての魔王が大陸ごと離脱したため、言語は地方によっては少し訛るくらいでタンハーレ国とそう変わらないんだって。

 「みなさんと言葉が通じるのはそういう理由なんですね……でも、こちらへ来る前に歴史書などを調べましたがそのようなことは載っていませんでした」
 「かなり昔のことですし、人族は我々と比べ短命ですから……」

 戦争などて焼けてしまったり、不都合な内容で処分してしまったか……


 そして、わたしがここに来た原因の魔方陣だが……

 聖女の中でも魔王と相性の良いものだけに花嫁の印(生け贄の紋様)が現れるらしい。そのため聖女の力が強い場合もあれば弱い場合もある。

 ちなみにかつては魔方陣が1度目の作動をしてから、10年後にまた作動する仕様だったが花嫁としてやってきた聖女の助言により新月の夜に魔方陣を出現させ満月の夜に1度目の作動、次の満月の夜に2度目の作動をするようになったそうだ。
 もし、魔方陣を2度作動させても花嫁が来なかった場合……せっかちかな魔王だと100年後くらいにもう1度ためしてダメなら直接迎えに行く……つまり人族側からしたら攻めこまれると感じる。
 のんびりな魔王だと数百年後に試して人間界の事情を探るなどする。魔族は基本的にのんびりしていて気が長く、気づけば国が変わってるなど日常茶飯事らしい。
 しかし、この古の盟約は国が変わろうとも有効。聖女がその国に生まれていない場合、魔族側が魔方陣を作動させようとしても動かない。
 生まれていない場合、10年ごとに確認のため作動させるがついつい忘れがち……
 しかし、魔王交代がない場合もあるので……いつ魔方陣が出現するかは予想がつかない。

 「今代の魔王様ははじめての作動でリリシュ様と出会えたのでとても幸運ですね」
  「……は、はは」

 少しずつ魔力の扱いかたを教えてもらい魔力の無駄遣いが少し改善されてきた……どうも体を覆う状態に慣れすぎて何もないと落ち着かなかったので最低限は残した状態にしている。
 魔力で体を覆っていることで転んだときの怪我を軽減させ、体の動きを補助したりしていたそう。身体強化魔法とにたようなことをやっていたらしい。さらに周囲をほんの少し浄化までしていたというんだから魔力の消費が激しいのも納得である。
 今は以前の3倍くらい魔法が使えるかな?今後は聖魔法以外の魔法が素質があるか調べていく予定なのでとても楽しみだ。


 ◇ ◇ ◇


 こちらへやってきてからひと月以上が経過し……わたし的にはすっかり元気だ。
 お肉もほどほどに付いてきたとのことで、ドゥルワさんの許可も頂き、運動がてら散歩をしたりお城のなかを探検してみたり働いているひとたちに挨拶したり……うん、好きに過ごすって気持ちいい。
 お母さんと暮らしていた頃以来の穏やかな日常を過ごしている。

 珍しくアルティラス様が側近のワルダルディさんを連れ部屋を訪れた。
 なにやら、ワルダルディさんにせっつかれている。

 「リリシュ。体調が良くなったら……我とその、お披露目というか……し、式とかだな」
 「えっと、お披露目パーティーみたいなことでしょうか?」
 「魔王様はっきり言わないと伝わりませんぞ」
 「わかっておる!」

 あ、さらさらの銀髪で金眼のワルダルディさんは魔王様の側近で竜人族の方で竜と人、両方の姿を持っているそう。
 アルティラス様の幼い頃からの仲なんだとか。
 アルティラス様をフォローするため忙しく飛び回っておりなかなかお目にかかることはない。

 「リリシュよ、我と結婚式をせぬか?」
 「は、はい」

 結婚式とかやってくれるんだ!

 「では、3年後でよいか」
 「え、3年……ですか」

 めっちゃ先なんだけどっ?やはり、時間の感覚が違うのだろうか。

 「む。早すぎるか?やはり5年後……」
 「あの……わたしの育った国では結婚式は半年から1年間かけて準備するのですが……」

 さぁ、空気を読むのだ……さぁっ!

 「おぉ、そうかでは半年後でも良いのか!」
 「えっと、準備が……」

 間に合うよね?というか、先延ばしにしたら何年後とかになりそうだよ……

 「何とかするぞ!リリシュは無理をせず体の調子を1番に考えてくれ」
 「はい」

 嬉しそうに笑ったアルティラスは執務があるそうで名残惜しそうに出ていった。
 子どものような無邪気さのなかに色気を感じ、胸がきゅっとなった。

 「クルルさん!もしかしたらわたし病気かもしれませんっ!何か胸がおかしいんですけど」

 焦って自分に聖魔法……しまった!聖魔法は自分には効かないんだった!


 「えぇっ!すぐに医者をお呼びしますのでっ」

 すぐに医者のドゥルワさんがやってきて診察を受けたが……

 「うーん。特に異常は見当たらないわね……リリシュ様、具体的にどうおかしくなったのでしょう?」
 「えっと、突然胸がきゅっと痛くなったり、鼓動が早くなったんです!おかしいですよね!」

 病気だったらどうしよう……せっかく、みんなと打ち解けてきたところなのに。結婚式が決まったのに……

 「それはどんなときですか?運動……いえ散歩した後とかでしょうか?」
 「あ、運動すると胸がドキドキしますよね」

 クルルさんはそういって朗らかに笑う。いや、でも運動してないし……

 「えーっと……アルティラス様が笑ったときでしょうか」
 「「…………」」

 な、なんだか顔まで熱くなってきた。
 
 「他にもありますか?」
 「うーん……あ、アルティラス様とお庭でお茶を飲んだ時も……」

 あのときは病み上がりではしゃぎすぎたのかと思ったんだけど……たしかに胸がきゅっとなったような?

 「あら。それなら病では……いえ、ある意味病かしら」
 「たしかにそうかもしれませんね」
 「えっ!?」

 ふたりは安心したように笑い、顔を見合わせ意味ありげに頷いた……いやいや、わたしにも教えてよー!

 「結局、わたしは病気なんですかっ?」
 「ふふ……リリシュ様、それは恋の病です」

 リリシュは息を呑んだ……こい……恋?

 「……恋ってあの恋ですか?」
 「あの、と言われてもわからないけれどたぶんその恋ね」

 恋というのは、あの異性(時には同性)相手にするというものだろうか……

 「こ、これが恋……」

 その後、医師を呼んだと聞きアルティラスが駆けつけるがそこにはにこにこと笑うドゥルワとクルル。顔を真っ赤にしたリリシュがいたという。
 ドゥルワ曰く、病ではなく勘違いだったそうだが、熱のせいで顔が赤いと思い込んだアルティラスはしばらく安静を言い渡すのであった。


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