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第7章
81.女神見習いと受付嬢のお願い ~side カーラ~
「ふぅ……」
大丈夫、きっと大丈夫……
その人は透けるような白い肌、グレーの瞳、柔らかそうな金髪でスタイル抜群の美人。
そんな彼女に声をかけるのは実は結構緊張する……別に怖いとかそういうことじゃないし、話しかければ気さくに答えてくれる。きっと妹のミーナの方が親しいと思うけれど。
ただ、今回は事情が事情だし断られたらどうしようと思うと余計に胸がドキドキして緊張で手には汗をかいている。断られると困ってしまうのだけど……
噂の公認ポーション職人で実力は上級冒険者と同等。彼女は8か月くらい前かな?この街を訪れ、身分証が作りたいとギルドへやってきた。
その時にギルドの説明や身分証を作ったのは他でもない私、冒険者兼ギルド受付のカーラである。
その後、次々と採取の依頼をこなしマルガスさんやサブマスまで興味を持つようになった。
魔物を討伐したり、珍しい薬草を持ち込んではランクを異様な早さで駆け上がり……エナさんはたまたま練習がてら魔法を放った方向にいたようでして。などと言っていましたが、仕方なくやたまたまで狩れるほどエナさんの持ち込んだ魔物は生易しいものじゃない。
あっという間にギルド公認のポーション職人になり、今では私たちパーティメンバーのひとつ下のランクだ。
それさえもマルガスさんにこれ以上目立ちたくないのでランクはこのままがいいと言い放ったらしい。
私たちだって何年もかけてようやくこのランクになったのに……了承すればすぐにでも上のランクに行ける人と比べても仕方ないか。
そして少し前かな……人々が恐れ近寄らず、冒険者ですら見て見ぬ振りをしていた住宅に住み始めたというのだ……
エナさんはしばらく前に『黄金の羊亭』に泊まらなくなっていたので、どこに住んでるのか不思議だったんだけど……まさかあの家を買うだなんて。
というのも、あの家はある有名(悪い意味で)な冒険者が酔っ払って家に入り込んだところ翌日憔悴して発見されたり……どうやらトラウマを刺激されたとか、なぜか内見するだけで不吉なことが次々起こるとか。
その不気味さから長い間放置されていたと いうのに、それを物ともせず住みだしてしまった。
週に1度程度しか顔を合わせることは無いが、その度に大量のポーションや魔物の部位、珍しい薬草などをギルドに持ってくる。時々、リディさんと一緒に歩く姿を見つけるが美少女と美女が並ぶと私なんかあっという間に霞んでしまいそう。ふたりとも少し変わった防具をだったけど……
エナさんは謎は多いけど、冒険者やポーション職人には粗暴で酒好きが多いなか、怒っている所は見たことがないし、ギルド公認になったからといって手を抜くわけでもない。
そんな彼女は実はギルド職員からは一目おかれる存在。
だから、冒険者をしつつもエナさんがギルドに来るとわかっている日はなるべく受付の仕事をするようにしている。
まぁ、マルガスさんがいるときはマルガスさんが担当するんだけど、それ以外の時やリディさんの付き添いの時は密かに私の担当だ。
少しでも仲良くなりたいそんな気持ちがいつからか生まれていた……
エナさんが持ち込む魔物の素材は私たちパーティのメンバーでようやく狩れる魔物なのに彼女はロクに防具をつけずソロで討伐しては持ってくる。
あり得ない……そもそもあの魔物はあの森の奥にしかいないはず。
私たちパーティでさえ国からの討伐依頼を受け、装備などを入念に準備してから入る森なのに……でもそれを指摘してこの街から去られては困る事情があるから何も言わない。
その訳とは……エナさんの公認ポーションはギルドの抜き打ち検査を易々とクリアする唯一無二のポーション。並みのポーション職人でも1度や2度は検査に引っかかることはあるのにだ。
検査であまりにも悪質だと判断した場合は即刻取引中止。他の街のギルドにも通達し、ポーション販売取引中止。冒険者の場合ランクも2つ降格になるし、そうなれば街や市場で細々と売っていくしかない。
エナさんは今まで1度も検査に引っかからず、興味を持ったサブマスがポーションをマルガスさんに細かく鑑定させた所、他のポーションより良質で効果が高いことがわかった。
例えていうなら彼女の初級ポーションはギルドで扱っている中級ポーションに勝るとも劣らない効果を発揮することがわかった。
つまり、彼女の中級ポーションは冒険者や市民にはなかなか手が出ない上級ポーションに匹敵する。
密かに中級ポーションの価格で上級ポーションを手に入れられると噂になり、エナさんのポーションは入荷とともにすぐに完売してしまう人気商品で納品の日は冒険者が今か今かと待っているのだ。エナさん本人は気づいていないみたいだけど……
近々もう少し数を増やして納品してほしいと依頼する予定だとか。
ギルドとしても私たち冒険者としても、彼女がこのまま定住してくれることを望んでいる。
その為に彼女の持ち込む物の買い取りにはマルガスさんが出張り、サブマスやギルマスは彼女が望まない上級冒険者への昇級をとりやめを手配したりと影ながら努力中。その仲間に私も入れてもらえていることは密かな自慢だ。
そんな彼女にお願いごとをするとなると、やはりそれなりに覚悟がいる。
しかし……これは1人の人生がかかってい
る。ギルドにも事情は話してあるから、あとは彼女の返答次第だ……
「エナさん、少し時間よろしいですか? ちょっとお話があるんですが……」
「えっ、ポーションに何か問題でも?」
「いえっ、ポーションはいつもの通り良い品でした。それとは別のご相談があるんです……」
どうか断らないで……お願い。
「相談……ですか。大丈夫ですよ、あとは買い物して帰るだけなので」
「あのお家にですよね。どうやってあれを解決したか知りたい所ですが……エナさんのことですもの……もう少しで仕事が終わるのでギルドの斜め前にある『黒猫亭』で待ってていただけませんか」
「いいですよー。あまり急がなくても大丈夫ですよ」
「すみません。ありがとうございます」
よかった。エナさんを見送りすぐに仕事を終わらせ、ギルドの食堂で待機していたパーティメンバーと共に『黒猫亭』へ向かう。
『黄金の羊亭』を相談場所に選ばなかった。さすがに相談事を実家でするのは……
「とりあえず、話は聞いてもらえそう」
「そうか……」
「よし、行こう」
そばにいた彼らとアイコンタクトで頷き合い、席に座って微笑んでいる彼女の元へ向かう……どうかエナさんが協力してくれることを願いながら。
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