神嫌いの神様と一つ屋根の下

朔々

文字の大きさ
上 下
13 / 18
信仰心の厚い相談者

9話

しおりを挟む
 ーーもうお昼ですよ~! 媛ちゃんが起きるより先に、苑子さん来ちゃったよーっ! ーー

 そうそう。昨晩は苑子さんの夢の中にお邪魔して、草餅を一緒に作ることになった。レシピサイトに投稿するなんて、我ながらナイスアイディアだと思う。写真は璃三郎さんが撮ってくれるのかな。そういうのも得意そ……

「こらっ、いつまで寝坊助ねぼすけなんだ! お天道様が許しても、この神と崇め奉られる璃三郎が容赦はしない! 」

「ん? 歌舞伎の見栄を切ってるんですか」

「この前、幼馴染に連れてってもらってね……って! そうじゃないよ!いくらなんでも熟睡しすぎ! 苑子さん、台所で待ってるよ! 」

「ええええええ!! 」







「おはようございます」

「まぁ、昨日の晩と同じ格好なのね。ごきげんよう」

「媛ちゃん、さっきまで寝てたんですよ」

「璃三郎さん、そんなこと言わないでくださいよ! 」

「あら、神様は璃三郎さんと言うのねぇ」

「すみませんっ! つい」

「良いのよ。昨日の夢をね、思い出したの。起き抜けに手に握りしめてた折り鶴を見た時に、何もかも。お若いお二人が私たちの家に訪ねてきてくれた。分かったの。神様は神様なんだけど、老いぼれた私の夢を叶えてくれようとする優しい青年なんだって……。私の知ってる神様は無慈悲だわ。私の為に泣いてくれたりはしないわ」

「ふふ、俺もその方がやりやすいです」

「まぁ、現代風な神様ね」

 璃三郎さんは、号泣していたことを蒸し返されて、気恥ずかしそうである。人と人としての立場で、2人は対等になったんだ。

 あれ……? そもそも璃三郎さんはどうして神様と呼ばれているんだろう? 異能が使えるから? 神様は異能者の数だけいるのかな。

「人様のお勝手かってで不躾なこと言うけれど、このよもぎは朝摘んだばかりなの。新鮮なうちに草餅にしてしまいましょ」

 まるで夢の中からそのまま飛び出てきたみたいに、明るい苑子さんがいる。

「夢の影響が現実にも及ぼされる時もある。特に今日は山場だ」

 苑子さんが調理器具を確認している間に、そっと璃三郎さんに耳打ちされた。

 なるほど、最近体が動くようになったと言うのも、現実より夢の世界の自分の存在が強くなっていたからなんだ。

「やっぱり、無かったら困ると思って用意してきて正解ね! はい、媛さんには私の手縫いのエプロンよ。うふふ」

 舞い上がって少女のよう。仕草の一つ一つが可愛い苑子さんがいる。

「俺は動画とか写真とか撮るから」

「え!? 手伝わないですか? 」

「いやぁ、カメラマンはいつでも忙しいからなぁ」

 苑子さんの言う通り、冷蔵庫もマヨネーズと醤油くらいしかなくて、調理器具もとりあえず買い揃えたように仕舞しまってあった。璃三郎さんは私が来るまで、ここで一人で暮らしていたのかもしれない。

しおりを挟む

処理中です...