聖女追放。

友坂 悠

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あなたを魔王にはしないから。

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「おお、マキナではないか……」

 ドラゴワームを穴から引き上げそれが完全に生き絶えていることを確認したところで。
 人々がたぶん全員防災豪より出てきたのだろう、中でも長老風な老人がマキナに声をかけた。

「村長、もう大丈夫、です」

「お主がこれを?」

「ええ。父から受け取ったこの剣のおかげです」

「ああ、レヒトの剣、か。確かにあれは技量の高い冒険者であったが……。感謝する、マキナよ。そして、悪かった」

 村長はその頭を下げ、マキナに謝罪した。

 良かった。
 そう思ったのも束の間。

「しかし、村の皆の中にはお主がおったからこそこの村がドラゴワームに襲われたのではないかと噂するものもいる。申し訳ないが……」

 って、何? それ!

 このごに及んでそう言うことを言うの?
 異質なものを受け入れられない、そういうことなの!?

 村人たちは遠巻きにあたしたちを見ている。
 それは村を救った英雄に寄せる瞳ではなく、異質なものを見るような視線。
 恐怖が入り混じったそんな。

 ころん

 手前に抜け出してきた女の子がその手にしていたものを落とした。
「あ、りんご」
 コロコロと、それはマキナの足元まで転がって。

 さっとそれを拾ったマキナ。
 一歩前に出てその子にそのりんごを返そうと手を伸ばす。

「ああ、マーヤだめ、ああ、お助けください」
 そういうと少女の背後から母親だろう女性が飛び出して。
 そのマーヤという少女をぎゅっと抱きしめると庇うようにしゃがみ込んだ。

 りんごを持った手を伸ばしたまま固まったマキナ。
 ちょっと悲しそうな顔をして。

 ああ、だめ。

「行こう、マキナ」

 あたしはマキナの手をとって村人たちとは反対方向に足を進め。
 ちょっと振り返り、言った。

「村長さん? そこのドラゴワームの魔石を街の正教会に持っていけば新しい結界石に加工してもらえるはずです。外皮や肉も結構高値で流通していますから、それで村の再建も可能でしょう」

「よろしいの、ですか?」

「ええ。いいわよね? マキナ」
「ああ、マリアンヌ。俺は……」

「さあ、行きましょう。あなたはここにいない方がいいわ」

 そういうとそのまま手を引いて村の外まで歩く。
 村人たちは露骨に安堵の声をあげていた。

 あたしは、マキナの心が心配だった。
 負の感情は彼にとってあまり良くない結果をもたらす。
 だから。無理矢理にでも目を逸らさなくちゃ。そう思って急足で帰って。

 ⭐︎⭐︎⭐︎

「もう。そんな情けない顔しないの。そんなにご両親と離れるのが辛いの?」

「そんなわけじゃない! ただ、心配なだけ、だ」

「お父様も元気になったしね? まだまだお若いもの。大丈夫よ」

「まあ、それはそうなんだけど」

「それよりもね。マキナはあの村にいちゃいけないわ。せっかくのマキナの能力を生かすどころか殺しちゃうもの」

「俺の、能力?」

「マキナはすごいよ? あのドラゴワームを倒しちゃったんだもの。自信持っていいかな」

「あれは、きっとマリアンヌさまのおかげだし」

「そんなことない。あたしはちょっとアドバイスしただけだもの。倒したのはほんとマキナの実力よ」

「そう、かな?」

「うんうん。マキナの持ってる魔力はすごいよ。たぶん帝国で1、2を争えるくらいには」

「流石にそれは大袈裟だよ」

「ふふ。信じないならいいけどさ~」

「だいたい、魔力量で言ったら、というか全てにおいて俺なんかマリアンヌさまに全然届かないでしょ」

「えー?」

「わかるよ。マリアンヌさまって人間離れしてるから。っていうか女神さまだから当たり前なんだろうけど」

「ちょっと、待って。あたしは人間だからね? 女神とかじゃないからね?」

「んー。今のその体は確かに人間っぽく見えるけど。でも、俺にはわかるよ。マリアンヌさまの本当の姿が」

 うー。
 マキナに自信もたせようと思ったら墓穴?
 この子にはあたしの魂《レイス》が見えるんだろうとは思ってたけどさ。まあしょうがない。

「そっか。マキナには見えるのか。じゃぁしょうがないけど」

 このまま全部本当のことをこの子に話そうかどうしようか、ちょっと迷って。

「あたしはね、本当は聖女なの。この世界に何度も繰り返し生まれ変わってる。もう呪いみたいなもの?」

「呪い、だなんて」

「ふふ。マキナは優しいから」

 あたしはマキナの頭をくしゃくしゃってして。

「記憶を持ったまま何度も何度も死んでは生まれ変わるって、結構辛いのよ」

 そう宿命づけられたあたしの魂《レイス》。

 もういい加減、こんな輪廻から外れたいとは思うけどそれでもね。

 あたしが諦めたら、デウスは次はきっとこのマキナを魔王にするのだろう。

 恐怖によって人の心を締め付ける。

 それはやっぱり嫌だ。

「あたしは、人の世が怨嗟に塗れるのは嫌だから……」

 最後のあたしのセリフは彼には聞こえていたかどうかわからない。

 小声で、呟くようにそういうあたしの顔をじっと見つめているマキナに。

「ほら、街が見えるよ。あそこだったらきっとマキナを忌避する人もいないからさ。ね?」

 歩きながら。
 彼の顔を覗き込んであたしはそう笑みを見せた。

 そうだよ。まずはマキナを人々に認めさせよう。そうすることできっとマキナの心も堕ちずに済むから。

 絶対に、あなたを魔王にはしないから。

 あたしはそう決意を固め、もう一度笑って見せた。 
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