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聖都へ。
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——ねえマリア様? 本当に良いのですか? この者たちについて行くなどと。
「言ったでしょ? クロコ。あたしはマキナを助けたいの。だから今は聖都に帰らなくちゃ」
——ですが、
あそこには聖女様を害した者がいるのだという。クロコにはそれが信じられず、また、許せなかった。
——貴女様に危害を加えようとした者どもまでもをお救いするおつもりなのでしょう? どうしてそこまでする必要があるというのでしょう?
そうだ。
魔王が人を殺すというのなら殺させておけばいい。
聖都が襲われるというのなら、それは好都合ではないか。
クロコにはどうしてもそうとしか思えない。
そもそもだ、この世界の堕落した人間などそのまま放っておけばいい。
奴らは聖女マリア様の言葉も通じない、聞き分けのない下等生物ではないか。
それを聖女である彼女がわざわざ救いに戻るなどと。
——百歩譲ってですよ? 魔王マキナを救うのが目的というのはわかります。ですがそれならばそれで、魔王の居場所まで行けば良いじゃないですか。人など放っておいても。
馬車に揺られながら旅する彼女マリカの膝に乗り、頭を撫でられながら心話でそう語りかける黒獣クロコ。今はほんの子猫にしか見えないくらいな大きさに変化し、そうしてもふもふな毛並みのままマリカの膝の上で丸くなっている。
一見すると長毛な黒猫にしか見えない。
周囲にはにゃぁにゃぁと鳴く姿しか晒していない。またそれを愛おしそうに抱きしめて撫でるマリカを見ていれば、まさかこの黒い子猫が魔獣をも使役する黒獣であると気づくものもいないだろう。
「だってね、クロコ。魔王が狙うのは間違いなく聖都なのよ。であればあたしがそこを守りに行かなければ、魔王となったマキナはその手を汚してしまうことになるわ。それは避けたいの」
——魔王と戦うのですか?
「そういうつもりなわけでもないのだけどね。でも、まず人を正さなければ。魔王は人の欲を狙うから」
欲望が肥大することで魂を満たすマナは魔と変わる。
それがこの世界の摂理である以上、人が滅ぶのは自業自得ではないのか。
——正す、のです?
「ええ。魔王が目覚めた以上、それこそがあたしの使命。幸いこうして今はマリカとして聖都に赴くことができるのだもの。もう一回ちゃんと聖女のお仕事をしなくっちゃね」
——貴女様らしいといえばそうですが……。
馬車の中には他にも聖女候補に選ばれたものが何人か座っていた。
このまま属州総督マルゴット・バイパーに連れられるまま総督府まで帰り、船に乗り換え聖都までの旅となる。
マリカの声は小声で、なおかつ消音の魔法を使っていたためその声はクロコにしか聞こえてはいなかったが、周囲の者は皆彼女のことを変わった娘だとそう見ているのもわかる。
(わたしはもう二度と、貴女を失いたくないだけなのですけどね……)
何を言っても無駄だと、彼女のその意志を変えることなどできはしないとはわかっていた。
それでも。
(今度こそ、貴女はこのわたしが命に変えても守って見せます)
そう決意を固める。
(ああ、魔王マキナよ。わたしはあなたが恨めしい)
離れてしまっても、今なお聖女の心に留まるマキナに。
そして、だからこそ自身の心に負け魔王と化したそのことに。
恨み言の一つでも、言わないではいられなかった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「言ったでしょ? クロコ。あたしはマキナを助けたいの。だから今は聖都に帰らなくちゃ」
——ですが、
あそこには聖女様を害した者がいるのだという。クロコにはそれが信じられず、また、許せなかった。
——貴女様に危害を加えようとした者どもまでもをお救いするおつもりなのでしょう? どうしてそこまでする必要があるというのでしょう?
そうだ。
魔王が人を殺すというのなら殺させておけばいい。
聖都が襲われるというのなら、それは好都合ではないか。
クロコにはどうしてもそうとしか思えない。
そもそもだ、この世界の堕落した人間などそのまま放っておけばいい。
奴らは聖女マリア様の言葉も通じない、聞き分けのない下等生物ではないか。
それを聖女である彼女がわざわざ救いに戻るなどと。
——百歩譲ってですよ? 魔王マキナを救うのが目的というのはわかります。ですがそれならばそれで、魔王の居場所まで行けば良いじゃないですか。人など放っておいても。
馬車に揺られながら旅する彼女マリカの膝に乗り、頭を撫でられながら心話でそう語りかける黒獣クロコ。今はほんの子猫にしか見えないくらいな大きさに変化し、そうしてもふもふな毛並みのままマリカの膝の上で丸くなっている。
一見すると長毛な黒猫にしか見えない。
周囲にはにゃぁにゃぁと鳴く姿しか晒していない。またそれを愛おしそうに抱きしめて撫でるマリカを見ていれば、まさかこの黒い子猫が魔獣をも使役する黒獣であると気づくものもいないだろう。
「だってね、クロコ。魔王が狙うのは間違いなく聖都なのよ。であればあたしがそこを守りに行かなければ、魔王となったマキナはその手を汚してしまうことになるわ。それは避けたいの」
——魔王と戦うのですか?
「そういうつもりなわけでもないのだけどね。でも、まず人を正さなければ。魔王は人の欲を狙うから」
欲望が肥大することで魂を満たすマナは魔と変わる。
それがこの世界の摂理である以上、人が滅ぶのは自業自得ではないのか。
——正す、のです?
「ええ。魔王が目覚めた以上、それこそがあたしの使命。幸いこうして今はマリカとして聖都に赴くことができるのだもの。もう一回ちゃんと聖女のお仕事をしなくっちゃね」
——貴女様らしいといえばそうですが……。
馬車の中には他にも聖女候補に選ばれたものが何人か座っていた。
このまま属州総督マルゴット・バイパーに連れられるまま総督府まで帰り、船に乗り換え聖都までの旅となる。
マリカの声は小声で、なおかつ消音の魔法を使っていたためその声はクロコにしか聞こえてはいなかったが、周囲の者は皆彼女のことを変わった娘だとそう見ているのもわかる。
(わたしはもう二度と、貴女を失いたくないだけなのですけどね……)
何を言っても無駄だと、彼女のその意志を変えることなどできはしないとはわかっていた。
それでも。
(今度こそ、貴女はこのわたしが命に変えても守って見せます)
そう決意を固める。
(ああ、魔王マキナよ。わたしはあなたが恨めしい)
離れてしまっても、今なお聖女の心に留まるマキナに。
そして、だからこそ自身の心に負け魔王と化したそのことに。
恨み言の一つでも、言わないではいられなかった。
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