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救国の女神。

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「しかし……。それなら前公爵バーン様の捜索にもっと人を割いた方が良さそうですね……」

「え? お父様? どうかされたの?」

 ノワ、ちょとやれやれという感じに両手を広げて。

「貴女を探すんだと国内を彷徨っているんですよ。僅かな伴を連れて。公爵位をルーク様に譲って引退して」

「え? どうして……?」

「貴女が死ぬわけが無いと、もしかたら力が尽きて何処かで困っているかもしれないとそうおっしゃって。半年前、結界が消えたのが確認された時に取り乱されて」

 まさかそんな。

 あの父様が……。

 あたしのことなんて、国を守る道具としてしか考えてない、そう思ってたのに……。

「ハルカ姉さんがバーン様の事をどう思ってたのかは知ってますよ。でも、あの方は……。貴女が考えているような方じゃ、ありませんでしたよ……」

 だって。だって。だって。

 覚えてる。

 あの時の父様の落胆した表情を。

 あの時以来、あたしを見る目が奇異なものを見るように変わった事を。

 あたしを一番怖がったのも、あたしのことを最前線に送り込んだのも、みんな父様じゃ、ないか!

 そんな今更父親みたいな事するなんて、そんなの!



 あたしが黙り込んで、手を握りしめ、歯を食いしばってるのを拒絶だと感じ取ったのだろう、ノワはあたしの前まで来て。

 ふわっとあたしのことを包み込むように抱きしめた。


 え?

 ノワール?


「ごめんなさいねえさん。でも。貴女を愛してるって事だけはちゃんと伝えたくって。僕は、貴女を愛してる。だから、僕は貴女に嘘はつきません。信じてください」

 ああ。



 ごめんねノワール。あたしもあなたのこと、大好きだよ……。



「あの戦いの後。僕らだけが生還し、魔界とのつながりは結界によって阻まれた。僕らは姉さんが勝利しただろうと報告はしましたがそれを確認する術もなく。国はその後も臨戦態勢のままなのです。そんな中、バーン様は貴女が結界を張った意味を、この世界を護ったのだとそうおっしゃられて……。いつか必ず生還するはずだとそう気丈に、信じていらっしゃいました」

「大賢者ラギレス。その名は今や救国の女神として謳われているのです」

 ちょっと落ち着いたあたしの耳もとで。

 ノワは囁くようにそう言った。

 でも……。

 えー?

 ちょっと待って。

 それって大袈裟すぎない?
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