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あたし、ねこだったの。

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 ——ごめんノワール。あたしねこだったの。だから……。

「だから『大丈夫』、だったのですね?」

 ——うん。それに……。

「猫だから、人前には出られない、内緒にしておいて欲しい、なのですね……?」

 ——そう。そういう事なの。

 内緒にしておいて欲しいのはそれだけが理由じゃないけど。まあ。

「わかりました。じゃぁ改めて。ミーシャ。これからもよろしくお願いしますね」

 ——うん。大好き! ノワール!

「僕も貴女が大好きですよ。それにしても猫に生まれ変わるなんて。ほんと貴女は規格外だ」

 そうこちらを優しい瞳で見つめるノワ。

 ベッドに横になったままあたしの頭を撫でて。

 あたしも気持ち良くて、自分からノワの大きな手に頭を擦り付ける。


 なんだかしあわせ。

 ねこになったおかげ? なんだか好きって気持ちを素直に伝える事ができた。

 ほんと、嬉しい。


 あたしはねこのまま居るとおしゃべり面倒なのもあったから、

 ——ちょっとハルカの姿に戻るね。

 そういってマジカルレイヤーの魔法を自分にかける。

 これ、あたしのオリジナル魔法。他に出来る人はまだ聞いた事がないんだけど。


 イメージとしてはイラストを描くときみたいに自分の上にもう一枚マナのレイヤーを用意する感じで、そこに別のマトリクスを描く。
 で、それを乗算して別の姿になる感じ。
 結局新しくできる身体はマナでできてるからずっとそのままで居ることは出来ないけど、それでもけっこう使い勝手がいいのだ。

 同様の理屈で不可逆な状態にする事もたぶん可能ではあるんだけど、それするといろいろ変質しちゃう気がしてまだ試したことはないんだけどね。

 たぶん、魔・ギア一個犠牲にするっていうか、触媒にすれば可能。

 まあする予定はないけど。



 お布団の中でハルカの姿になったあたしはノワにちょっとくっついて。

 あは。あったかい。

 おおきいな。ノワ。

 なんだかすごく安心する……。

 そのままねこのときのようにノワの身体に自分の身体を擦り付ける。

 うん。あったかくて気持ちいい。

 ノワの手もほんと大きくて、あたし、この手で撫でられるの、好きかも。


 そんな感じでぬくぬくまったりしてたらノワ、何故かちょっと焦った声で。


「え? ねえさん? ちょっとまって」

「ん? どうしたの?」

「ああ、ごめん、我慢できなくなるから。せめて服を着てくれないかな」

 ああ。あたし、裸のままだったっけ。


 うう。やっぱり人間ってめんどくさいなぁ。
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