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37 愛してます。
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エーリカがジークハルトに嫁いで三年が過ぎようとしていた。
相変わらずメイド服を着て侯爵家のお仕事をこなしているエーリカ。
今日もお洗濯を終わらせて大量の洗濯物を持って物干しのベランダへと向かっていた。
それでもお掃除用の万能魔法具、円盤状のトロが背中に洗濯籠を持って運んでくれるから、随分と楽。
トロには伸び縮みする3本の脚もついているから平面だけでなく壁でも階段でもどこでも進めるようになっている。
ジークハルトが開発して侯爵家で実験的に導入した魔法具ではあったけれど、この魔法具のお陰で侯爵家で働く者たちは随分と楽になったようだ。
まあそれでも、空いた時間にサボるような者はこの家にはいなかった。
率先して働くエーリカを見習い、常に自分で仕事を探す者、侯爵一家が常により良い過ごし易い環境でいられるよう創意工夫するもの、そういった者達で占められていた。
「ありがとうね、トロ。じゃぁこの洗濯物をここに干していきましょう」
言葉でそう指示を出すだけで三体のトロ達はそれぞれ伸び縮みする脚を出し、洗濯物をひろげていく。
真っ青な空に、白いシーツがヒラヒラと舞って。
大量にあった洗濯物はあっという間に干されていった。籠の中が完全に空になると、トロ達はエーリカの脚元に集まって次の指示を待つ。
「じゃぁあなたたち、次はお部屋のお掃除をお願いするわね。そこの廊下から順番に、上の階に向かう子、下の階に向かう子、ここの階を掃除する子に分かれてね」
それだけの指示で各自目標に向かって移動していくトロ。
起動には若干の魔力が必要になるトロ。しかし一度起動してしまえば指示が終わるまではそのまま行動が可能なだけのマナを、夜の間に蓄えている。
ジークハルトが開発したそのマナの補充機能。これがあるからこそ使い捨てではない魔法具の利用が可能となった。それまでは魔法具といえばその内蔵する魔石に込められた魔力が尽きると効力を失うのが当たり前であったのだけれど、大気中のマナを効率よく集め蓄えておく装置と、魔法具にそのマナを補充する機能の開発により、魔法具はより生活に密着して使用できるようになったのだった。
「旦那様の、おかげ、ですね」
そう笑顔で空を見上げるエーリカ。
三年間白い結婚であれば離婚できる。
そう考えていた事もあった。
けれど。
その青い空を眺めていると、そんなことを考えていた自分に呆れてしまう。
「どこまで受身な考えでいたんでしょうね」
クスッと、自嘲して。
「最初っから、自分をちゃんと主張していたらよかっただけですのにね」
今なら。
きっとできると思う。
自分の思いをちゃんと伝え、彼の気持ちもちゃんと聴くことが。
「エーリカ。ここにいたのか」
ベランダの窓からこちらを見るジークハルト。
「旦那様。トロちゃん達は大活躍ですよ」
「ああ、それはよかった。使ってみて気になることはあるかい?」
「自動で自分でマナを補充に行トロちゃんはかわいいですが、あの装置はもっと小さくはならないのですか?」
「そこなんだよね。普及させるには補充装置の量産よりもまずは魔石取り替え式にした方が早いかもしれないね。魔石へのマナの補充はどこかそういう専用の場所を作る必要があるかもしれないけど」
魔力の高い個人であれば魔石にマナを込めることも可能だろうけれど、そもそもそれができるのであればこんな魔法具なんかはあまり必要ではない。
魔力の少ない一般の人でも使える魔法具、毎日使える生活に根ざした魔法具の開発。
そのためにはやはりマナの供給という部分が一番ネックになる。
「旦那様なら、そのうちそうした事も解決していけると思いますわ」
「ありがとうエーリカ。君と、この子、アルファルドの為にも頑張らなきゃね」
「ええ。旦那様」
ジークハルトは胸に抱えた息子、アルファルドをゆらしながら。
「アルファルド。君の母さんは世界で一番素敵な人だよ」
そう云って、アルファルドの頬にキスを落とす。
「ありがとうございます旦那様。わたくしも、愛してます」
そう囁いて。彼の肩に頭をこてんと寄せた。
気持ちがいいほどに真っ青な空が、眩しかった。
Fin
相変わらずメイド服を着て侯爵家のお仕事をこなしているエーリカ。
今日もお洗濯を終わらせて大量の洗濯物を持って物干しのベランダへと向かっていた。
それでもお掃除用の万能魔法具、円盤状のトロが背中に洗濯籠を持って運んでくれるから、随分と楽。
トロには伸び縮みする3本の脚もついているから平面だけでなく壁でも階段でもどこでも進めるようになっている。
ジークハルトが開発して侯爵家で実験的に導入した魔法具ではあったけれど、この魔法具のお陰で侯爵家で働く者たちは随分と楽になったようだ。
まあそれでも、空いた時間にサボるような者はこの家にはいなかった。
率先して働くエーリカを見習い、常に自分で仕事を探す者、侯爵一家が常により良い過ごし易い環境でいられるよう創意工夫するもの、そういった者達で占められていた。
「ありがとうね、トロ。じゃぁこの洗濯物をここに干していきましょう」
言葉でそう指示を出すだけで三体のトロ達はそれぞれ伸び縮みする脚を出し、洗濯物をひろげていく。
真っ青な空に、白いシーツがヒラヒラと舞って。
大量にあった洗濯物はあっという間に干されていった。籠の中が完全に空になると、トロ達はエーリカの脚元に集まって次の指示を待つ。
「じゃぁあなたたち、次はお部屋のお掃除をお願いするわね。そこの廊下から順番に、上の階に向かう子、下の階に向かう子、ここの階を掃除する子に分かれてね」
それだけの指示で各自目標に向かって移動していくトロ。
起動には若干の魔力が必要になるトロ。しかし一度起動してしまえば指示が終わるまではそのまま行動が可能なだけのマナを、夜の間に蓄えている。
ジークハルトが開発したそのマナの補充機能。これがあるからこそ使い捨てではない魔法具の利用が可能となった。それまでは魔法具といえばその内蔵する魔石に込められた魔力が尽きると効力を失うのが当たり前であったのだけれど、大気中のマナを効率よく集め蓄えておく装置と、魔法具にそのマナを補充する機能の開発により、魔法具はより生活に密着して使用できるようになったのだった。
「旦那様の、おかげ、ですね」
そう笑顔で空を見上げるエーリカ。
三年間白い結婚であれば離婚できる。
そう考えていた事もあった。
けれど。
その青い空を眺めていると、そんなことを考えていた自分に呆れてしまう。
「どこまで受身な考えでいたんでしょうね」
クスッと、自嘲して。
「最初っから、自分をちゃんと主張していたらよかっただけですのにね」
今なら。
きっとできると思う。
自分の思いをちゃんと伝え、彼の気持ちもちゃんと聴くことが。
「エーリカ。ここにいたのか」
ベランダの窓からこちらを見るジークハルト。
「旦那様。トロちゃん達は大活躍ですよ」
「ああ、それはよかった。使ってみて気になることはあるかい?」
「自動で自分でマナを補充に行トロちゃんはかわいいですが、あの装置はもっと小さくはならないのですか?」
「そこなんだよね。普及させるには補充装置の量産よりもまずは魔石取り替え式にした方が早いかもしれないね。魔石へのマナの補充はどこかそういう専用の場所を作る必要があるかもしれないけど」
魔力の高い個人であれば魔石にマナを込めることも可能だろうけれど、そもそもそれができるのであればこんな魔法具なんかはあまり必要ではない。
魔力の少ない一般の人でも使える魔法具、毎日使える生活に根ざした魔法具の開発。
そのためにはやはりマナの供給という部分が一番ネックになる。
「旦那様なら、そのうちそうした事も解決していけると思いますわ」
「ありがとうエーリカ。君と、この子、アルファルドの為にも頑張らなきゃね」
「ええ。旦那様」
ジークハルトは胸に抱えた息子、アルファルドをゆらしながら。
「アルファルド。君の母さんは世界で一番素敵な人だよ」
そう云って、アルファルドの頬にキスを落とす。
「ありがとうございます旦那様。わたくしも、愛してます」
そう囁いて。彼の肩に頭をこてんと寄せた。
気持ちがいいほどに真っ青な空が、眩しかった。
Fin
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ずっとエリカって呼んでるのがモヤるぅ(*´-`)
旦那、もっとしっかりして欲しいぃ。
ですです。
ずっとエリカなんですよー。。
次でそこのところ突っ込まれます。
ありがとうございます〜
えーΣ(゚ロ゚;)。ヒロインが軽すぎて読者の方がモヤった。
ごめんなさい。
本人と知らなかったからメイドへの告白は完全に浮気ですよね(笑)。
ですよねー。
ありがとうございます。