猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠

文字の大きさ
2 / 104

聖魔法。

しおりを挟む
 シクシク、シクシク……。

 ん?

 なんか誰かが泣いてるような?

 小さい泣き声が途切れ途切れに漏れてくる。

 ヒック、うっく……。

 そんな声。

 何処からだろうと耳を澄まし、そのままゆっくりと起き上がったあたし。月はまだ真上にあった。もう時間にしたらかなり遅い時間かな。

 真夜中って言ってもいいかもしれない。



 こんな神秘的なみずうみで人の泣き声。それもどうやら女性?

 幽霊かなとか、ちょっと怖い。

 見える範囲ではそんな、人の気配はわからないんだけどな。そうも思ってもう一回耳を澄ましてみる、と。

 泣き声がするのはどう考えてもこの湖の中? そうとしか思えない方向な気がして。

 でも流石に水の中からは声って聞こえないよねと思い返して。やっぱり幽霊?

 カイヤはまだ寝てる。丸まってもふもふで可愛いけどせっかく寝てるんだからって起こさないようにゆっくり起き上がった。

 岩場の下に降りてみると、水面に少し色が濃くなってる部分があるような気がする?

 ってもしかしてこれって……。

 あたしはそのまま両手に力を込める。レイスのゲートからマナを魔力に変換して取り出し、ゆっくりと放出。

 そのままその水面そのものを浄化する。あたしの聖魔法ならもしかしてこの毒素を浄化できるんじゃ無いかって、そんな気がして。




 人を人たらしめるもの。

 それがレイスだっていうのはこの世界では常識みたいなものだ。

 世界の外側に満ちた神の氣マナ。そんなマナの泡。それがレイス

 人は産まれ出づる時に世界の円環、マナの浄化の円環から産まれた泡、レイスを宿す。

 そして死ぬときにはそのレイスはまたその円環に還るのだ。

 一生分の人生がそこで浄化され。そしてまた一つの泡となって産まれ出づる。それってすごく素敵じゃない?

 あたしはそんな人の一生って好き。

 そして。

 レイスっていうのは自分の内なる世界。心。そう言い換えてもいいかもなんだけど。

 その奥底にずーっと潜っていくと、出口みたいのがあるの。

 それがレイスゲート

 人は、そのレイスのゲートから内なるマナを放出し力を得る。これが魔力。マギア。

 その魔力で何かを成すことを、成す方法のことを魔法って呼ぶんだよね。

 その魔法のうち、あたしたち聖女が得意とするのが聖魔法。こういった毒素なんかを浄化したり、怪我や病気を治したり。

 あたし自身はあんまりそういうことに魔力を使って無かったから上手くできるか心配だけど、それでも多分ね? やらないよりマシ!



 水面がだんだんとエメラルドグリーンの光に満ちて。

 その黒くなっていた部分が消えた所で手を止めた。うん。上手くいったかな?

 もうお水ごと全部聖なる氣で満ちちゃった気もするけど気のせい、だよね?

 ——あーあレティーナ。ちょっとやりすぎだよ? これじゃぁこの湖のお水が全部変質しちゃってるよ。

 え? どういうことカイヤ。

 ごそごそっと起きて来たカイヤに背後からそう声をかけられた。

 って言ってもカイヤのは念話。声に出してるわけじゃないけどね?

 ——見たところこの湖の少なくとも表面はすべて命の水ポーションに変わっちゃってるんじゃないかな。

 えー! どうして?

 ——君は自分の力を過小評価し過ぎだよ。幼い頃から今までずっとこの聖都中を守護して来たんだよ? その必要が無くなった今ならかなり加減しないとこんなことになっちゃうんじゃない?

 はうあう。

 じゃぁ。この聖なる氣が満ちてるのは気のせいじゃ無いって事、かな?

 ——まあね。しょうがないさ。



 あたり一帯の水面が全て命の水になっちゃったなんて。どうしよう。周りの生き物に悪影響とかないかな? 

 心配だ。


 あたしがそう心配して水面を眺めていると、そのみなもにぶくぶく、ぶくぶく、と、泡が立ち始めた。

 それは瞬く間に大きな渦となり、そして。

 ざばんと水しぶきとともに首をもたげ現れたのは頭だけでもあたしの身長以上はあろうかという巨大な龍だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...