56 / 104
魔溜まり。
しおりを挟む
あまりにもその魔が濃く生き物の身体に作用すると、次第にその生物は魔に支配された魔物となり。
そして。
より高濃度高純度の魔を取り込む事でその魔物の身体は魔石を生む。生物としての肉体はそこで魔に溶け去り、新たな魔で出来た身体を得て魔獣に進化するのだ。
魔よりそのまま湧いて生まれる事もあるけれど、生き物が魔物となり、そして魔石を宿し魔獣となることもある。
人とてもそれは例外では無いのだけれど、幸いにして人の心、魂を構成する高純度のマナがその魔に侵されるのを防ぐ為、滅多なことでは魔人が生まれることは無い。
——例外は魔王石、かな。
はう、アリシア。
——魔王石は高純度のマナの結晶って言いましたけど、実のところそれは魔王の魂そのものの結晶でもあるって事なのです。それを自身の魂に取り込んでしまうと魔人、ううん、魔王にさえなってしまうのかもしれない。
魔王に?
——バルカがそうでしたね。まあわたしもですけど。
はう。
あたしももしかして魔王になるかもしれないの?
——わたしの場合は魔王石と融合しちゃいましたからね。外から穴を開ける、ゲートを開くだけならそこまで心配はしなくても大丈夫、かな?
うーん。なんとなくだけどアリシアも自信なさげ?
——試した事、ないですからね……。わたしのゲートを開けたのが魔王石からのダウンロードだったからってだけなので……。
そっか。
でも、あたしの今の状況はもうそれに頼るしか手がないかもだし。
☆☆☆☆☆
目の前に出現した一角大兎を見て、あたしはここに来る前にアリシアと交わしたこんな会話を思い出していた。
あのホーンラビットはまだ魔獣になっていない魔物の状態だったはず。それは皆感じてた。魔獣として生まれたホーンラビットならこの大兎ほどでは無いにしろもっと禍々しい気を発していたし。
魔物が魔獣に進化する場面なんてそうそう遭遇するものじゃないけどこんなにも急激に変わるなんて思わなかった。それもこんな大きく変化するなんて。
小さな魔物の時とは段違いに膨らんだその魔力。あたしたちに臆することも無くこちらを狙い見るその禍々しい瞳をみて、一瞬ぞくりとした。
「あたいが行くよ! カイヤはレティシアを守ってて!」
ティアが龍のシズクを握りしめ龍化する。身体や手足が緑の鱗で覆われ頭にも二本の龍のツノが生える。
翼をバサッと羽ばたかせ一角大兎に詰め寄るティア。その右手の爪で一閃。大兎の首元にくっきり爪痕が残りこれで終わりかと思われたけどまだ甘かった。ティアの攻撃にも怯まず頭のツノ振り回すその魔獣。
「危ない!」
間一髪で避けるティアが一歩後ろに下がるのを逃さず追撃する大兎!
ああ、だめ。
黙って見ていられないよ。
大兎の邪気に引き寄せられたか周囲には他の魔物の気配がする。ガサガサと木々が揺れ顔を出す魔物たち。
魔溜まりはまだ並々とそこに在る。ああ、ダメ。
あれだけの魔物が大兎並みの魔獣になってしまったら、そう思ったらいてもたっても居られなくなり。
あたしは走り出していた。その魔溜まりに向かって。
「ダメだ! レティ!」
背後からカイヤの静止する声が聞こえたけど振り向いている暇も無かった。
滑り込むようにその魔溜まり辿り着いたあたしは左手をその水面に突っ込む。ビリっと皮膚が破れるような痛みを感じたけどかまっていられない。「お願い、キュア! この魔を浄化して!」そう願った。
そして。
より高濃度高純度の魔を取り込む事でその魔物の身体は魔石を生む。生物としての肉体はそこで魔に溶け去り、新たな魔で出来た身体を得て魔獣に進化するのだ。
魔よりそのまま湧いて生まれる事もあるけれど、生き物が魔物となり、そして魔石を宿し魔獣となることもある。
人とてもそれは例外では無いのだけれど、幸いにして人の心、魂を構成する高純度のマナがその魔に侵されるのを防ぐ為、滅多なことでは魔人が生まれることは無い。
——例外は魔王石、かな。
はう、アリシア。
——魔王石は高純度のマナの結晶って言いましたけど、実のところそれは魔王の魂そのものの結晶でもあるって事なのです。それを自身の魂に取り込んでしまうと魔人、ううん、魔王にさえなってしまうのかもしれない。
魔王に?
——バルカがそうでしたね。まあわたしもですけど。
はう。
あたしももしかして魔王になるかもしれないの?
——わたしの場合は魔王石と融合しちゃいましたからね。外から穴を開ける、ゲートを開くだけならそこまで心配はしなくても大丈夫、かな?
うーん。なんとなくだけどアリシアも自信なさげ?
——試した事、ないですからね……。わたしのゲートを開けたのが魔王石からのダウンロードだったからってだけなので……。
そっか。
でも、あたしの今の状況はもうそれに頼るしか手がないかもだし。
☆☆☆☆☆
目の前に出現した一角大兎を見て、あたしはここに来る前にアリシアと交わしたこんな会話を思い出していた。
あのホーンラビットはまだ魔獣になっていない魔物の状態だったはず。それは皆感じてた。魔獣として生まれたホーンラビットならこの大兎ほどでは無いにしろもっと禍々しい気を発していたし。
魔物が魔獣に進化する場面なんてそうそう遭遇するものじゃないけどこんなにも急激に変わるなんて思わなかった。それもこんな大きく変化するなんて。
小さな魔物の時とは段違いに膨らんだその魔力。あたしたちに臆することも無くこちらを狙い見るその禍々しい瞳をみて、一瞬ぞくりとした。
「あたいが行くよ! カイヤはレティシアを守ってて!」
ティアが龍のシズクを握りしめ龍化する。身体や手足が緑の鱗で覆われ頭にも二本の龍のツノが生える。
翼をバサッと羽ばたかせ一角大兎に詰め寄るティア。その右手の爪で一閃。大兎の首元にくっきり爪痕が残りこれで終わりかと思われたけどまだ甘かった。ティアの攻撃にも怯まず頭のツノ振り回すその魔獣。
「危ない!」
間一髪で避けるティアが一歩後ろに下がるのを逃さず追撃する大兎!
ああ、だめ。
黙って見ていられないよ。
大兎の邪気に引き寄せられたか周囲には他の魔物の気配がする。ガサガサと木々が揺れ顔を出す魔物たち。
魔溜まりはまだ並々とそこに在る。ああ、ダメ。
あれだけの魔物が大兎並みの魔獣になってしまったら、そう思ったらいてもたっても居られなくなり。
あたしは走り出していた。その魔溜まりに向かって。
「ダメだ! レティ!」
背後からカイヤの静止する声が聞こえたけど振り向いている暇も無かった。
滑り込むようにその魔溜まり辿り着いたあたしは左手をその水面に突っ込む。ビリっと皮膚が破れるような痛みを感じたけどかまっていられない。「お願い、キュア! この魔を浄化して!」そう願った。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる