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墓標。
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魔王の墓標。
階段を降りたそこ、地下空洞にあった石造りの棺。そして。
「ここに魔王の遺体があったの?」
「ええ。そう聞かされて居ました」
アルミナがそう言いながら、その棺を覗く。あたしもその後を続いて。
蓋が不自然な形に砕け周囲に散らばっているその棺。中は当然のように空だった。
そしてその棺の背後に建てられた石碑。
千年前の出来事が刻まれた碑文が見える。
あたし達の身長よりも高いそんな黒曜石の石碑の手前に、真っ黒な、底の見えない穴が開いて居た。
——これ、ですね。
うん。そうだね……。
この穴、どう見ても自然の穴でも無ければ人工物でも無さそうだ。
魔法で作った穴? 穴の中、というか入り口付近を構成しているのはマナだよね。やっぱり。
次元も少しずれている。見えてはいるけどそこには無い。無いけれども有る。そんな感じ。
一番近いのはやっぱり魂《レイス》の穴《ゲート》、かな。
——レティーナのレイス収納に近いかもですね。
はう? じゃぁあたしにもこういう事出来るかもって事?
——おすすめはしませんけど可能ですね。まあ自身のインナースペースの中に自分の倉庫を作るくらいならわたしでも出来ますけど、ここまで大掛かりな物は維持するのも大変ですし。
はうあう。
中は複雑な迷宮になっているらしい。
入り口付近だけならそんな確認もできているって聞いた。
奥まで行った人たちは誰も戻ってきてない。どうなっちゃったんだろう、無事ならいいんだけど……。
「じゃぁ、行くよ? みんな、いい?」
あたしはそう声をかけてその穴に足を踏み入れた。
☆☆☆☆☆
入り口付近の探索をした人達は一応ロープを伝って降りたっていう話だったっけって思った時にはもう遅かった。
自身のレイス中を落ちていくときのようなそんな感覚。
上下もよくわからないまま沈んでいくような、そんな感覚がしばらく続いたあと、あたしの足は床に着いた。
落ちた、っていうよりも、跳んだ、に近いかなこれは。
「みんな! 大丈夫?」
「いくらなんでも粗忽すぎない? レティ」
「もう、てっきり降りる準備とかするのかと思ったのに早すぎるよレティシア」
「はうごめん」
あたしの後を慌てて追いかけたのだろう、二人はそんな苦言を言って。でも、まあなんとかなったし?
って、アルミナは? やっぱり来なかった?
あたしがそう思ったそのときだった。
「きゃーーー」
そう悲鳴をあげながら現れたアルミナ。地面に足がついたところでそのままがくんとしゃがみ込んだ。
「はう、大丈夫?」
手を伸ばしそう聞いてみる。
「うっく、ひっく。怖かった……。ひどいレティーナ……。そんなにわたしを置いていきたいの……?」
差し出されたあたしの手をそっと取って立ち上がる彼女。ああ、勇気を振り絞って穴に飛び込んだのだなとわかるそんなくしゃくしゃって涙目になってるその顔に。
「ごめんねアルミナさん。今のはあたしが悪かったよ。何も考えなしに来ちゃって、ほんとごめん」
そう素直に謝った。
階段を降りたそこ、地下空洞にあった石造りの棺。そして。
「ここに魔王の遺体があったの?」
「ええ。そう聞かされて居ました」
アルミナがそう言いながら、その棺を覗く。あたしもその後を続いて。
蓋が不自然な形に砕け周囲に散らばっているその棺。中は当然のように空だった。
そしてその棺の背後に建てられた石碑。
千年前の出来事が刻まれた碑文が見える。
あたし達の身長よりも高いそんな黒曜石の石碑の手前に、真っ黒な、底の見えない穴が開いて居た。
——これ、ですね。
うん。そうだね……。
この穴、どう見ても自然の穴でも無ければ人工物でも無さそうだ。
魔法で作った穴? 穴の中、というか入り口付近を構成しているのはマナだよね。やっぱり。
次元も少しずれている。見えてはいるけどそこには無い。無いけれども有る。そんな感じ。
一番近いのはやっぱり魂《レイス》の穴《ゲート》、かな。
——レティーナのレイス収納に近いかもですね。
はう? じゃぁあたしにもこういう事出来るかもって事?
——おすすめはしませんけど可能ですね。まあ自身のインナースペースの中に自分の倉庫を作るくらいならわたしでも出来ますけど、ここまで大掛かりな物は維持するのも大変ですし。
はうあう。
中は複雑な迷宮になっているらしい。
入り口付近だけならそんな確認もできているって聞いた。
奥まで行った人たちは誰も戻ってきてない。どうなっちゃったんだろう、無事ならいいんだけど……。
「じゃぁ、行くよ? みんな、いい?」
あたしはそう声をかけてその穴に足を踏み入れた。
☆☆☆☆☆
入り口付近の探索をした人達は一応ロープを伝って降りたっていう話だったっけって思った時にはもう遅かった。
自身のレイス中を落ちていくときのようなそんな感覚。
上下もよくわからないまま沈んでいくような、そんな感覚がしばらく続いたあと、あたしの足は床に着いた。
落ちた、っていうよりも、跳んだ、に近いかなこれは。
「みんな! 大丈夫?」
「いくらなんでも粗忽すぎない? レティ」
「もう、てっきり降りる準備とかするのかと思ったのに早すぎるよレティシア」
「はうごめん」
あたしの後を慌てて追いかけたのだろう、二人はそんな苦言を言って。でも、まあなんとかなったし?
って、アルミナは? やっぱり来なかった?
あたしがそう思ったそのときだった。
「きゃーーー」
そう悲鳴をあげながら現れたアルミナ。地面に足がついたところでそのままがくんとしゃがみ込んだ。
「はう、大丈夫?」
手を伸ばしそう聞いてみる。
「うっく、ひっく。怖かった……。ひどいレティーナ……。そんなにわたしを置いていきたいの……?」
差し出されたあたしの手をそっと取って立ち上がる彼女。ああ、勇気を振り絞って穴に飛び込んだのだなとわかるそんなくしゃくしゃって涙目になってるその顔に。
「ごめんねアルミナさん。今のはあたしが悪かったよ。何も考えなしに来ちゃって、ほんとごめん」
そう素直に謝った。
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