2 / 38
マトリクス。
しおりを挟む
「ドワンさん。大丈夫ですかドワンさん」
「う、ああ、シズカか」
う、く、と、なんとか体を起こすドワン。周囲を見渡すと。
「ここ、は?」
そう呟く。
「ダンジョンの入り口少し入ったとこですかねえ。気がついたらここに居たんです」
「他のみんなは」
「無事です。気絶してるだけみたいです」
そう、か、と、吐き捨てるように言うドワン。
あたしは他の皆も起こしてまわろうと立ち上がった。
「他のみんなも起こしてきますね」
「ああ、悪いな」
頭を振って。考え事をする様に顎に手をあてるドワンさんを横目にあたしは他のみんなを起こして回った。
うん。バレなかった、かな?
見逃して貰えた? そんな風に思ってるかも。
帰り道は皆無口だった。
まあそりゃあそうだろう。一歩間違えば全滅する所だったのだ。
幸い途中で仕留めた魔獣の魔石はあたしのリュックにどっさり入ってる。
ギルドに帰ればかなりの金額になるはず。とりあえずは遠征成功? 別に、魔人を倒せだなんて依頼を受けてるわけでもない。だからあんまり気にしなくても。そう声をかけたかったけど、まあこれ、あたしが言うべき言葉じゃないよねって思いとどまった。
まあ仕方ない部分もあるんだけどね?
魔人は強い。
普通の人間と比べたらとんでもないくらいの強さをほこる。
そもそも魔族だって元々は地上の人間とそう大差はなかった。
生物学的にはほとんど差異はないはず?
だけど。
決定的に違うのは、魔族の纏うマトリクスの存在だ。
ふつうの人間の体は生物だからね? 強さには限界がある。
どんなに身体を鍛えたって急所は残るし。皮膚だって刃物で切れる。目の角膜だって傷ついたらもう見えなくなる。
熱にも弱ければ寒さにも弱い。凍ったら凍傷になるし燃やしたら消し炭だ。
いくら身体を鍛えて魔力を増やしても、そこには自ずと限界がある。
自分で放ったファイヤボールでさえ自分を焼くのだ。これじゃどうしようもないよ。
そこで。
そんな弱い身体を捨てようと考えたのが魔族の始祖だった。
最初は鎧で固めようとかしてたけどそれではね。あまり代わり映えもしない。
それなら、と。
いっそ自分の周囲に魔力で作った皮を被ってしまえば?
体の表面に直接マナでかたどった鎧を纏ってしまえば?
自分という境界を、不可侵なマナの壁で覆ってしまえば良いのではないか?
そう考えたんだよね。ご先祖様は。
龍のような強靭な皮膚。
頭を象る大きなツノ。
そして背中に大きな翼を纏い。
そんな姿に変貌した。その技術がマトリクスという名前の魔術。
マナで作り出した心の壁に、思い描く最強の絵を映し。
そしてそれを纏う。
ふふ。
でも、そうした結果魔族は魔族として人から恐れられ忌避され、人族の住む地からは追われたんだよね。
街に帰ってとりあえずギルドで換金するころにはパーティーのみんなの機嫌も治ってた。
かなりの額の現金が手に入ったしね。
まああたしはポーター分のお給料だから増減はないんだけど他のみんなはホクホク顔で夜の街に繰り出して行った。
はうう。美味しいお酒でも呑んで憂さを晴らすのかなぁ。いいなぁ。
そんな風にも思ったけどまあしょうがない。
あたしは一人自分のねぐらにしてる安宿に戻ったのだった。
「う、ああ、シズカか」
う、く、と、なんとか体を起こすドワン。周囲を見渡すと。
「ここ、は?」
そう呟く。
「ダンジョンの入り口少し入ったとこですかねえ。気がついたらここに居たんです」
「他のみんなは」
「無事です。気絶してるだけみたいです」
そう、か、と、吐き捨てるように言うドワン。
あたしは他の皆も起こしてまわろうと立ち上がった。
「他のみんなも起こしてきますね」
「ああ、悪いな」
頭を振って。考え事をする様に顎に手をあてるドワンさんを横目にあたしは他のみんなを起こして回った。
うん。バレなかった、かな?
見逃して貰えた? そんな風に思ってるかも。
帰り道は皆無口だった。
まあそりゃあそうだろう。一歩間違えば全滅する所だったのだ。
幸い途中で仕留めた魔獣の魔石はあたしのリュックにどっさり入ってる。
ギルドに帰ればかなりの金額になるはず。とりあえずは遠征成功? 別に、魔人を倒せだなんて依頼を受けてるわけでもない。だからあんまり気にしなくても。そう声をかけたかったけど、まあこれ、あたしが言うべき言葉じゃないよねって思いとどまった。
まあ仕方ない部分もあるんだけどね?
魔人は強い。
普通の人間と比べたらとんでもないくらいの強さをほこる。
そもそも魔族だって元々は地上の人間とそう大差はなかった。
生物学的にはほとんど差異はないはず?
だけど。
決定的に違うのは、魔族の纏うマトリクスの存在だ。
ふつうの人間の体は生物だからね? 強さには限界がある。
どんなに身体を鍛えたって急所は残るし。皮膚だって刃物で切れる。目の角膜だって傷ついたらもう見えなくなる。
熱にも弱ければ寒さにも弱い。凍ったら凍傷になるし燃やしたら消し炭だ。
いくら身体を鍛えて魔力を増やしても、そこには自ずと限界がある。
自分で放ったファイヤボールでさえ自分を焼くのだ。これじゃどうしようもないよ。
そこで。
そんな弱い身体を捨てようと考えたのが魔族の始祖だった。
最初は鎧で固めようとかしてたけどそれではね。あまり代わり映えもしない。
それなら、と。
いっそ自分の周囲に魔力で作った皮を被ってしまえば?
体の表面に直接マナでかたどった鎧を纏ってしまえば?
自分という境界を、不可侵なマナの壁で覆ってしまえば良いのではないか?
そう考えたんだよね。ご先祖様は。
龍のような強靭な皮膚。
頭を象る大きなツノ。
そして背中に大きな翼を纏い。
そんな姿に変貌した。その技術がマトリクスという名前の魔術。
マナで作り出した心の壁に、思い描く最強の絵を映し。
そしてそれを纏う。
ふふ。
でも、そうした結果魔族は魔族として人から恐れられ忌避され、人族の住む地からは追われたんだよね。
街に帰ってとりあえずギルドで換金するころにはパーティーのみんなの機嫌も治ってた。
かなりの額の現金が手に入ったしね。
まああたしはポーター分のお給料だから増減はないんだけど他のみんなはホクホク顔で夜の街に繰り出して行った。
はうう。美味しいお酒でも呑んで憂さを晴らすのかなぁ。いいなぁ。
そんな風にも思ったけどまあしょうがない。
あたしは一人自分のねぐらにしてる安宿に戻ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる