静かなる魔王!!

友坂 悠

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死して魔に帰す。

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 正面の大扉をドンと開く。

 勢いのついたその扉がガンっと音を立てて開き切ったところでそのまま奥の間まで走り抜ける。

 ベルベットの絨毯が敷き詰められた床は走っても音を吸収してしまうけれど、それでもあたしの走る勢いは王城全てを揺るがしていた。

 最奥の間。

 魔王ゼノン・マックロードが居室。

 そもそも普段の謁見は全てこの居間で済ませているから最奥の間まで立ち入ることが許されている者は少ない。

 そう、本来で、あれば。


「父上!」

 最奥の間に続く引き戸を徐に開けるとそこには十二魔将が揃っていた。宰相シシノジョウの姿もある。

「姫さま!」

 魔将達が振り向きこちらを見てあたしに気づく。

 あ、ううん、違う。

 たぶんもっと前からあたしが帰って来たことは気がついていた?

 これは、半分は非難の目だ。

「お嬢、遅かったです……。おやっさんが……」

 え? 嫌!

 ちょっと待って。

 そんな。嫌だよ父さん……。

 あたしは皆の隙間を縫って父さんが眠る寝台にたどり着く。

 涙が頬を伝うのがわかるけど構っていられない。

 あたしは、そこにさっきまでそうして横たわっていたであろう父さんの温もりのその場所のシーツに縋りつき。

 泣いた。

 あう、うっくと声を殺しながら、ひたすら泣いた。

 シシノジョウがあたしの頭を優しく撫でてくれて。

 静かに見守る十二魔将たちの前で、あたしは涙が枯れるまで。そのまま泣き続けた。




 ■■■■■■


「しかし、どうする?」

「今のこの状況での魔王様不在は看過できん」

「アキラカン公爵に不穏な動きがある。俺は奴をまず叩くべきだと思う」

「まあまあレオや。そういきり立つものではないぞ」

「しかしジュウゾ。このままでは我ら十二魔将とて磐石ではいられんぞ?」

「早急に新たな魔王を立てるべきであろう」

「だがどうするというのだ? カインよ」

「ワシはシズカ様に魔王として立って頂くべきだと思うが」

「まだ子供だぞ?」

「シズカ様を侮辱することは許さん」

「シシノジョウ。お主は魔王になるつもりはないのか?」

「お前ら……、俺を宰相に祭り上げた時と同じことをいうのか? 俺は元々リーダーの器ではない。あくまで補佐がいいのだというのに」

「そう言うなシシノジョウ。お前以上に我らを上手く纏められるものもいまいて」

「まあそうだな。お前ら十二人の誰が魔王になっても諍いが起きるだろう。で、あれば、だ」

 シシノジョウは徐に円卓の席を立ち、テーブルに両手をついた。

「やはりここはシズカ様に魔王になって頂くしかあるまいな」

 泣きつかれ、死して魔に帰した魔王の寝所で眠りつく息女シズカの顔を思い浮かべ。シシノジョウはそう断言した。
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