静かなる魔王!!

友坂 悠

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神の所作。

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 バウ!!

 黄金の魔人と黒の美丈夫の間に爆風が舞った!

 あまりの衝撃に地面が激しく揺れる。

 が、

 これだけの爆発的な衝撃がなぜかフランシスのところまでは届かなかった。

「フランシスー」

「ああ、アリエッタ!」

 背後から走って近づいてくるアリエッタにフランシスは安堵する。

「皆は無事か!」

「ええ、あの魔人が現れてから盗賊どもは散り散りに逃げて行ったわ。こちらの被害はクウガがかすり傷を負ったくらい、かな」

「そうか。奴らは仲間では無かったのか?」

「ううん。たぶん同じ一味。だけどきっと普通の盗賊たちは魔人の魔法に巻き込まれるのを嫌って退避したんだと思う。逃げ方が素早過ぎたもの。あれは事前に知ってなきゃ無理?」

 そうか、と納得して。

 しかしアレは?

「後から現れたアレ、な。どう思う? アリエッタ」

 今も目の前で激しい戦闘を繰り広げる二体の魔人。

 そう。黒の美丈夫、アレも間違いなく魔人、だ。

 普通の人間にはありえないほどの魔力、身体能力、そしてあの黒く禍々しい二本のツノ。

 間違いなく魔人なのだけど……。

 美しい……

 フランシスはそう、あの姿に目を奪われた。

 英雄、ヒーロー。

 そんなものに憧れた自分のなりたかったそんな姿。

 憧れのそんな姿を体現したような。理想の魔剣士がそこに居た。

 右手に持った漆黒の剣《ツルギ》を構え黄金の魔人と相対す彼。

 魔人の放つ真空斬り、ソニックブレードをその漆黒の剣でいなし捌き。

 華麗な所作で激しい剣捌きを魅せる。

「アレがどうしてあたし達を助けてくれたのかはわからないけど、今もこちらを庇い戦ってるのは間違いないわ。強力なシールドであたし達全員を今も守ってくれているもの」

 そう。

 感じている。自分たち、商隊の馬車全てを覆うマジックシールドの存在を。

 まさにこれは神の所作だ。

 フランシスはその美しい魔人に神を見出して。天に感謝した。


 そして。

 目の前の戦いにもそろそろ決着の時が訪れようとしているのがわかった。

 全ての攻撃が防がれることに焦ったのか、黄金の魔人の口が大きく開く。閃光が煌めき放たれたのは炎獄のブレスだった。

 しかし黒の魔人はそれに慌てることもなく左手を伸ばす。

 手のひらでそのブレスを全て受け止めた?

 いや、全てをその掌に収めた、吸収したとでもいうのか、膨大なブレスのエネルギーは掻き消され。

 漆黒の髪を大きく靡かせた美丈夫はそのまま黄金の魔人に向かって飛ぶ。

 吹き出すブレスを抑えたまま左手をその顔にぶち当てて、魔人の頭を地面に突き立てた。

 ヒクっと両手足が痙攣するように動いた後。


 黄金の魔人はその場で沈黙したのだった。
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