静かなる魔王!!

友坂 悠

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浜辺の少年。

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 あちゃあ。
 みられてた?

 気持ちのいい海に飛び込んで冷たいマナを一身に浴び心のリフレッシュができたって喜んでいたせいか、ちょっと周囲への注意が疎かになってた。

 っていうか、今どきこんな魔の強い浜辺に近づく人がいるとも考えてなかったのが浅はかだったのかな。



 砂浜に上がったあたしの目の前には多分あたしと同じくらいの年齢の少年。男の子。

 可愛らしい栗色の髪のおかっぱで、まだまだ「男」にはなりきれていないそんな美少年だ。

 に、しても。

「ねえ君、こんなところにそうな軽装で来てて大丈夫なの?」

 あたしはそう語りかけてみた。

 まるでこちらを何か人外のものでも見るかのように驚愕の瞳でじっと見つめているその彼が、黙ったままでいることにちょっと耐えられなくなって。

「うーん。あたしのこと、怖い? ごめんね」

 もしかしたら恐怖で固まっているのかもしれない。そんな風にも感じて少し寂しくなる。
 こういう人ではあり得ない部分って、あまりこちらの世界では見せたことなかったし。こういう反応は久々で。
 少し、疎外感も感じてたあたし。

「じゃぁ、あたしは行くから。ごめんね驚かせちゃって」

 そう言いそのまま空に浮かびあがろうとしたところで。

「天使さま、ですか……?」

 そうその子が口を開いた。

 まだ少年らしく可愛いボーイソプラノのその声があたしの耳に届いて。

 ふふ。ちょっと心が和む。

「あは。ううん、違うよ。あたしはそんな清らかな存在じゃないよ。でも、ちょっと人とは違うだけ。こうして魔の海に入っても大丈夫な体質なだけ、だよ」

 あたしはそうにっこりと笑顔で答える。

 彼の表情も少し和らいで。

「ああ。僕も、一緒です。僕も、この海にそのまま入れるので……」

 と、そう言った。

 はにかんだ笑顔が印象的で。

 あたしはこの少年に、惹かれていた。



 ☆☆☆


「あたし、シズカ。街のギルドでポーターのお仕事してるの。まだ駆け出しの冒険者、ってところ?」

「僕はタケル。この体質を生かしてここで魔魚を獲って暮らしてるんだ。結構良い値で買い取ってくれるお店があるし」

「ふーん。一人で? 普通そういう漁は大勢でやるものじゃないの?」

「ああ、漁労の親方には睨まれてるけどね。でも、僕には彼らに払う負担金は用意できないからしょうがないんだ」

 ってなにそれ。

 漁労ギルドは街のギルドの下部組織、主に魔魚の漁専門で活動しているっていうのは聞いてた。森で魔獣を狩るのとは違って十人以上の集団で重装備での漁になることから費用がそれなりにかかることもあって、なりたがる人は少ないって聞いてたけど。

「それって、装備にそれだけのお金がかかるってこと?」

「うん。漁労ギルド全体の装備を皆で負担するためのお金。その代わりメンバーには漁での収穫に応じて分配金が払われることになるんだけど、そのためには最初にある程度のお金を出さなきゃいけないんだよ」

「はう」

「危険もあるけどそれなりにみかえりもあるみたいだけどね。一応二、三年頑張れば採算も取れる金額らしいけど……。ちょっとね」

「だって、タケルにはそんな重装備必要ないじゃない」

「そういうわけにもいかないんだ。僕一人ならこうして浅瀬で魔魚を捕まえるだけだけど、ギルドで漁をするときは船で遠洋まで行くから魚竜とかも出るしそれなりの戦闘力も必要になるからって。だからお金がかかるんだって」

「そっか。それならしょうがないかぁ。でも、それならどうして漁労ギルドの親方に睨まれたりするわけ?」

「まあね。少量とはいえ自分たちで独占してた魔魚を僕がお店に流すとね、価格がその分落ちるんだっていうんだよ」

「そんな。だってそんなの、タケルは自分で頑張って漁をした結果でしょ? それなのにそんなの」

「父さんが生きてた時も色々嫌がらせされてたしね。まあしょうがないよ」

 そうちょっと苦笑いする彼。

 その顔は爽やかで。性格なのかな? 不幸を感じさせない逞しさも見えた。
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