しんとりかえばや。

友坂 悠

文字の大きさ
18 / 32

【瑠璃の君】香を薫きしめた匂いが、たまらなく嫌だった。

しおりを挟む
 帝があたしを見る目が変わったことに気がついたのはいつだったか。
 それまではあまり興味も無いような目だったきがするけど、ある時から舐めるように観察されるようになり。そして現在ではまるで微笑ましいものでも見るかのような目で見られてる。
 梅壺の女御が親しげに話しかけてくるようになったのもその頃からか。
 その目が決して好色な、人を恋情で見る様子であったわけではなく、兎にも角にも不思議なもの興味深いものを見るかのような観察眼であったことも気にはなっていた。

 もしやバレたのか?
 そうも思っては見たものの、その後なんの音沙汰もなく中将へ昇進しても変わらぬ様子であることに、不思議に思いつつ考えるのをやめていた。

「どうかしましたか? 顔色が冴えないようですね」

 御前で帝からそうお声をかけられた際も、そこまで自分のことを観察していたのだとは思わず、只々社交辞令であると思って疑っていなかったのだが。

 そんなにも顔に出ていたのか?
 あたしはそこまで宰相の中将の事で動揺していたのか。

 一瞬そうも思ったが思い直し。

「いえ。主上の御心を煩わせるような事は特に何も」

 そう強がって見せた。

 しかしすかさず直球で、

「宰相の中将と何かありましたか?」

 と聞かれてしまい。

 動揺を隠す様に顔を強張らせ、あたしはなんとか言葉を紡ぎ、

「何故、そう思われるのでしょうか。わたくしは特に何も……」

 と、とぼけて見せたが帝はお見通しとでも言わんばかりの笑みを浮かべる。

「ああ。中将がわたしを見る目がキツくてね。まるであなたを取られでもしたかの様に見ているよ。ほら、今もあの柱の向こうから」

 まさか、と振り返りそちらを見渡すと、確かに柱の影に人の気配がする。

 ああ、もう、どうしたらいいのだろう。



 あのあと。

 あたしは極めて冷静にと心がけ、宰相の中将に接していた。

 内裏で声をかけられても差し支えない言葉を選び。

 話がしたいと誘われても、用事があるのでと断って。

 とにかく、だめだ。その都度悲しそうな顔をする中将に絆されそうになる自分を諌め、関わってはダメだ負けちゃダメだと言い聞かせていた。



 ようやく帝の御前から退くと、そこにはやはり宰相の中将が待ち受けていた。

「何故そうわたしを遠ざけて他人行儀にするのでしょう。こうしていてももし主上がわたしと同じようにあなたの正体に気がついたらと思うと気が気ではありません」

 そう耳元で囁く声に、ゾクっと身震いし、とにかく逃げようと周りを見渡すが助けになる様な人が見当たらず。

「何を勘違いしているのかは知りませんが。わたしはあなたと四の君の経緯に気がついたのでその事で尋常では無い思いを感じています。わたしのことをあわれと思うなら、そっとしておいては頂けませんか」

 と、それだけを答え中将の脇をすり抜け逃げ出した。

 香を薫きしめた匂いが、たまらなく嫌だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香
恋愛
連日の残業と終わらないプロジェクトの果てに、OLの佐藤美月は過労で意識を失う。次に目覚めた時、そこはアーサー王が治める国「キャメロット」だった。 森で魔物に襲われ絶体絶命の私を救ってくれたのは、「太陽の騎士」と呼ばれる最強の騎士ガウェイン。しかし彼は、強くて純粋だけど、少し子供っぽい脳筋騎士様だった! 「護衛だ!」と宣言しては一日中手を繋いで離さず、他の男性と話しただけであからさまに嫉妬したり……。その過保護で独占欲の強い愛情表現に戸惑いながらも、仕事に疲れた美月の心は、彼の太陽のような笑顔に癒されていく。 やがて王の顧問となった彼女は、現代知識とPMスキルを武器に「魔女」の嫌疑を乗り越え、国を救う「キャメロットの天使」へ。 不器用で一途な騎士様から贈られる、甘すぎるほどの溺愛に満ちた、異世界シンデレラストーリー、ここに開幕!

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

処理中です...